音楽家は書かれていることに対して誠実であることが大事─パトリック・メッシーナ
弱冠14歳でパリ国立高等音楽院に入学し、17歳にして室内楽とクラリネットの両部門で1位を獲得するなど若き天才と称され、2003年よりフランス国立管弦楽団首席クラリネット奏者として活躍しているパトリック・メッシーナさん。現在、演奏活動はもちろん、ロンドンのイギリス音楽アカデミーやパリ・エコール・ノルマル音楽院などで後進の指導も積極的に行なっています。また、リガチャーの開発などにも携わり、クラリネット界の発展に貢献している世界的なプレイヤーです。
そんなパトリック・メッシーナさんにこれまでのクラリネット人生を振り返っていただくとともに、一時期学んでいたという演劇についても語ってもらいました。
取材協力:株式会社 ビュッフェ・クランポン・ジャパン/通訳:檀野直子
コロナ後の新しい活動の始まり
(以下P)
コロナ禍以前は毎年日本に来ていましたが、この3年間一度も来なかったというのはなんとも不思議な感じです。3年ぶりに日本に来て誰もがマスクをしていますが、他は何も変わっていないこと、こうして音楽活動が再開できたことは嬉しく思います。
今回がコロナ後の新しい活動の始まりだと思っています。
以前から演劇や映画にとても興味があったので、演劇の監督をしている友人が演劇学校入学のためのオーディションを受けてみるように勧めてくれました。ル・クール・フローラン・パリという学校で、音楽でいうとパリ音楽院のような大きな学校です。音楽を学んでいた若いときはどんどんテクニックが上達していきましたが、感情表現などに関しては難しいと感じていました。ですから、それを補うことができるのは演劇だと思いました。演劇と音楽はどちらもメッセージをくみ取り、セリフ(楽譜)を読み解釈し、可能な限り忠実に演じます(演奏します)。ですから役者も音楽家も同じ仕事なのです。
演劇を学んだ後は書かれていることに対して誠実であるべきだと考えるようになりました。上手にフレーズを読んだだけでは観客を納得させることができません。それだけでは十分ではないのです。演劇では演じているその役になりきらなくては、テクニックはあるが感情のないものになってしまいます。音楽でも同じことが言えると思います。例えば、悲しい音楽を演奏しているとしたら、悲しい状態にならなくてはいけませんし、悲しい思い出などをイメージしてその状態になる必要があります。もし、とても楽しい音楽を演奏するなら、同様にそのようになろうとすることが必要です。そこにはテクニックがあり、音楽があります。音楽とは書かれていることに忠実に、そのものになることです。
演劇はそれらのきっかけをくれました。なぜなら内気さを取り払い、自分に自信を持てるようになったからです。そして、どうすればもっと誠実に観客とコミュニケーションをとれるのかも私に教えてくれました。演劇は、表現者という仕事が何なのかをわからせてくれました。
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・すぐに応えてくれる楽器
パトリック・メッシーナ Patrick Messina
フランス国立管弦楽団首席クラリネット奏者。
パリ国立高等音楽院でギィ・ドゥプリュ、ミシェル・アリニョンに、クリーヴランド音楽大学でフランクリン・コーエンに、ニューヨークのマネス音楽大学ではリカルド・モラレスに師事。1996年ニューヨークのイースト&ウエスト・アーティスツ・インターナショナル・オーディションおよびヒューストンのイマ・ホッグ・コンペティション優勝。1998年ヘイダ・ヘルマンス・インターナショナル・コンペティション優勝。弱冠17歳にして、パリ国立高等音楽院の室内楽とクラリネットの両部門で1位を獲得。現在、ロンドンのイギリス音楽アカデミー客員教授、パリ・エコール・ノルマル音楽院、エクサンプロヴァンスのIESMにて教授を務める。