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The Clarinet Interview ─マイケル・コリンズ
イギリスを代表するクラリネット奏者であるマイケル・コリンズ氏が久しぶりに来日した。今回は、自身がフロントマンとなり、世界トップクラスのソリストらを集めて結成された室内楽団「ウィグモア・ソロイスツ」の日本公演のための来日だ。
人懐っこいお茶目な性格は相変わらずで、通訳に愛弟子 白井宏典さんを招いたインタビューは和やかに進んだ。
“ウィグモア”の名を冠する
―
コリンズさんは何度も来日されていますが、改めて日本の印象を教えてください。
マイケル・コリンズ
(以下C)
(以下C)
私はいろんな国へ行ってますが、日本は一番好きな国です。文化も人も大好きで、いつも特別な気持ちで来ていますね。
―
今回コンサートをする「ウィグモア・ソロイスツ(Wigmore Soloists)についてお訊きします。結成の経緯はどのようなものですか?
C
5年ほど前でしょうか、新しいアンサンブルを作りたいなと思ったのがきっかけでしたね。そのとき、名前をつけることに苦労したんです。どうしたら国際的な知名度を得られるだろうか、というね。そこで、ウィグモアホール(※)の館長に相談してみたのです。「ウィグモア」の名前を使ってもよいか、と。これまで、ウィグモアの名前を冠したアンサンブルもオーケストラも存在しませんでした。私としてはダメ元でしたが、アンサンブルのコンセプトを館長に説明したところ「素晴らしいアイデアだ」と快諾してくれたのです。「ウィグモア・ソロイスツ」という名前については「ファンタスティック!!」と太鼓判を押してくれました。
―
ウィグモアホールの名前を借りようと思った理由はなんですか?
C
ウィグモアの名はとても象徴的です。ウィグモアホールは1900年ごろに作られ、特に室内楽においては世界でも最も権威のある名高いホールであり、ラフマニノフやホロヴィッツといった偉大な音楽家たちもそこでコンサートを開きました。世界中すべての音楽家がここでのコンサートをやることにあこがれています。だから、ウィグモアの名前を使いました。歴史上初めて、ウィグモアの名前を冠したグループとなったわけです。私にとって、ウィグモアホールは特別な場所ですね。
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ウィグモアホールはどのようなホールでしょうか?
C
とても美しいホールです。まるで教会のような装丁が施されていて、客席からもきれいに見えます。それと、舞台袖からステージまでがとても近い。舞台に出ると、すぐにピアノの横に出るくらいです。
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ウィグモア・ソロイスツの魅力を教えてください。
C
室内楽の曲であれば自由自在に、どんな編成でも組めることです。
結成の中心となったのはヴァイオリン&ヴィオラのイザベル・ファン・クーレンさんと私で、この二人は創始者なので常に参加しています。また、コアとなるメンバーが8名いて、編成にあるときは彼らも必ず呼びます。そのほかのメンバーは曲にもよって変わりますが、いつでも誰でも呼べるように常にコンタクトをとっています。
結成の中心となったのはヴァイオリン&ヴィオラのイザベル・ファン・クーレンさんと私で、この二人は創始者なので常に参加しています。また、コアとなるメンバーが8名いて、編成にあるときは彼らも必ず呼びます。そのほかのメンバーは曲にもよって変わりますが、いつでも誰でも呼べるように常にコンタクトをとっています。
―
今回のプログラムは、これまで演奏された曲ですか? 今回のヤマハホールで初披露される曲はありますか?
C
(通訳の白井宏典さんへ)君はいくつだっけ?
白井
21です。
C
じゃあ、すべての曲が21回以上やったことあるよ(笑)。
もう何回も吹いているから、彼らは親友のように感じている。でも何回やっても、一回一回やるたびに新しい発見があるから、飽きることはない。むしろ、一回しか演奏できないほうが残念なくらいです。何回も演奏している曲なら何かに挑戦したりして、いろいろな可能性を広げることができますからね。そういう意味でも、同じ曲をやることはいいことです。今回の曲は、実際には200回以上やっています。
もう何回も吹いているから、彼らは親友のように感じている。でも何回やっても、一回一回やるたびに新しい発見があるから、飽きることはない。むしろ、一回しか演奏できないほうが残念なくらいです。何回も演奏している曲なら何かに挑戦したりして、いろいろな可能性を広げることができますからね。そういう意味でも、同じ曲をやることはいいことです。今回の曲は、実際には200回以上やっています。
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ウィグモアホールの名前を使うことで、何かウィグモアホールとの間で関係性は生じますか?
C
ウィグモアの名前を使うので、我々はレジデンス・アーティスト(常設の室内楽グループ)として各シーズンに4回のコンサートを行ない、それぞれのコンサートごとにCDを作成しています。本来はスタジオで収録しますが、COVID-19の影響でコンサートがなかったためホール録りになりました。ウィグモアホールは、平時は昼夜で別のプログラムが入るようなところですからね。
ゆっくりと景色を見るように
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ヤマハホールでは何度も演奏されていますが、改めてヤマハホールの印象を教えてください。
C
大好きなホールです。みなさんは、こんな素晴らしいホールを持てて幸運ですよ!
サイズ感もよいし、室内楽には最高の音響を誇ります。それにお客さんとの距離も近いので、毎回特別な想いを抱いて演奏できます。ウィグモア・ソロイスツもここで収録できたら最高だよ!
欧米では、室内楽の録音は教会で行なうことが一般的です。室内楽に適したコンサートホールというものが少ないのです。私もロンドンの大きな教会で録音したりしました。また、ユーディ・メニューイン音楽学校でも収録をしたことがあります。その名にもなっているユーディ・メニューインという偉大なヴァイオリニストが作った音校で、優秀な学生しか入れない分、設備がとても整っています。
サイズ感もよいし、室内楽には最高の音響を誇ります。それにお客さんとの距離も近いので、毎回特別な想いを抱いて演奏できます。ウィグモア・ソロイスツもここで収録できたら最高だよ!
欧米では、室内楽の録音は教会で行なうことが一般的です。室内楽に適したコンサートホールというものが少ないのです。私もロンドンの大きな教会で録音したりしました。また、ユーディ・メニューイン音楽学校でも収録をしたことがあります。その名にもなっているユーディ・メニューインという偉大なヴァイオリニストが作った音校で、優秀な学生しか入れない分、設備がとても整っています。
―
ヤマハホールでも教会で吹くような感じでしょうか?
C
違いますね。まず第一に、教会は寒い。第二に、湿気がすごい。教会で演奏をするのは難しい。
―
日本とイギリスの湿気は違いますか?
C
少し違いますね。イギリスも湿気はあるけど、日本のようなジメジメした感じがしません。去年の夏など、ロンドンは42度くらいありましたが、湿気がなくて乾燥しているのでなんとか耐えられました。
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現在使用されている楽器、マウスピース、リガチャー、リードを教えてください。
C
本体はヤマハのSE Artist Modelで、マウスピースはバンドーレンのBD5、13シリーズです。
―
13シリーズは音程が低めになりますよね?
C
そうですね。アメリカやイギリスだと基準ピッチが440Hzですし、ホールで演奏しているとアツくなってしまうので、13シリーズでないと低く抑えることができないです。なので、この13シリーズに短めの特注バレル(※非売品)を組み合わせています。
リガチャーは日によって変わりますが、今回のコンサートではボナードのピンクゴールドを使います。リードはバンドーレン V12の3半。
年を取るにつれて思うことですが、若いころと比べてアンブシュアが変わってくる。口の周りや形、歯並びなど、X線検査で見てもらってもそうでした。そうなると、一年前に使っていたものがもう今では合わなくなっているかもしれない。できるだけ以前に近いものを毎回探していますが、それはもう存在しないものを探しているようなものなのかもしれません。
リガチャーは日によって変わりますが、今回のコンサートではボナードのピンクゴールドを使います。リードはバンドーレン V12の3半。
年を取るにつれて思うことですが、若いころと比べてアンブシュアが変わってくる。口の周りや形、歯並びなど、X線検査で見てもらってもそうでした。そうなると、一年前に使っていたものがもう今では合わなくなっているかもしれない。できるだけ以前に近いものを毎回探していますが、それはもう存在しないものを探しているようなものなのかもしれません。
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日本とイギリスでは、湿度がだいぶ違いますよね? 環境面で、様々な国で演奏する難しさを感じることはありますか?
C
湿度もそうですが、高度も違います。国によって番手を変えたりはしないのですが、例えば、南米・コロンビアの首都ボゴダだと、いつも使っているリードがすごく重くなりますね。悪夢です。
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長年愛用されているヤマハ・クラリネットの魅力をお願いします。
C
低音から高音までよく鳴る、その均一性が素晴らしいです。スケールの練習をするときに自然にスケールが並ぶほどです。まずそれが一つ。次に、非常に丁寧で美しい。芸術作品のような作りです。三つ目に、楽器が割れたことがない。木の質が素晴らしいからですね。楽器自体の個性が私のやりたいことにあっていて、音色の明暗が自由自在になるし、フォルテッシモを吹くときも抵抗感がなくて、響きを止められている感じがしません。さらに、録音にも適しています。収録のときも、一回録音して、スタジオで聴いてみたら「いいね!」と。
―
最近コリンズさんが力を入れていることは何でしょうか?
C
自分はとてもラッキーです。多くのクラリネット奏者が羨むような、素晴らしいオーケストラやミュージシャンと一緒に演奏もして、ソリストとしてもオーケストラ奏者としても活動できている。では、次の15年間は何をしようか。これまでと同じことに、今よりもっと深い理解をもって取り組みたい。きっと、よりよいものになりますから。例えばロスチャイルドの若いワインは、いい味がするけどまだ熟し切っていない。これが20年経ったら、熟してもっと豊潤な味になる。音楽にも同じことが言えます。だから私はモーツァルトのクラリネット協奏曲を定期的に録音するのです。多くの経験を積むことで、同じ曲がもっと賢く演奏できるし、その時々で自分がどこに立っているかを感じることができますから。若いときは速く吹く、たくさん吹く、ということに目が向いてしまいますが、年をとるごとに時間を使って美しさを追求するようになりました。それは、田舎へ行ってゆっくり景色を見るようなものです。
―
ありがとうございました。