クラリネット記事 Close Up Interview - セリーヌ・ミイエ
  クラリネット記事 Close Up Interview - セリーヌ・ミイエ
[2ページ目]
Close Up Interview

Close Up Interview - セリーヌ・ミイエ

指導すべきかしないべきか、講師のジレンマ

セリーヌさんは定期的にマスタークラスを開催されていますね。マスタークラスを担当する上で意識していることはありますか?
セリーヌ
第一に奏法を見ます。奏法を見ることはとても大切なことです。マスタークラスが一時間だったとして、知らない生徒が来たときは、奏法を直してあげることに時間をかけますね。生徒がどのように吹いているか、そして奏法のどこに問題を抱えているかは、音を聴けばすぐに分かります。そのときの私は、まるで医者になったかのようです(笑)。ちょっと見ただけで「あ、お腹が痛いのね〜」と分かるように、演奏していて喉が閉まっているな、といったことが少し聴いただけで分かります。そうしたら、どうやってこの生徒を導くか、問題を解決していくかをガイドするのです。症状、すなわち問題を見つけて直してあげることが大切です。
第二に、楽譜をリスペクトする大切さを伝えます。譜面に記されているものをどう掘り下げるか。自分と譜面の関係性。そして、どのようにして良い練習につなげていけるか。私はそれを示します。私ができるのはそこまでで、その後は生徒の仕事ですね。
ですが、マスタークラスで奏法について見ることは、難しい面もあります。それは、あまりよく知らない生徒の場合に、奏法について“深く”指導をするのかどうかです。例えば、初めて会う生徒がアンブシュアで大きな問題を抱えているとして、短い時間しかないその場で変えてしまってもいいものかどうか、といった具合に。その生徒がすぐにちゃんと理解できる方かどうかをよく考えなければならない、とてもデリケートな問題です。だから、奏法を示すときは、滑走路に乗せてあげるようなイメージをしています。
ビュッフェ・クランポンのクラリネットの魅力を教えてください。
セリーヌ
とても色彩感が豊かで、それでいて芯のあるフォーカスされた音を出せることです。音がフォーカスされることで、表現をより展開させることができます。音の質や繊細さもとてもよくて、フランスのクラリネットの音がします。それに、音程もいい。オード先生もミッシェル・アリニョン氏もビュッフェ・クランポンユーザーだったので、私も始めたときからずっとビュッフェ・クランポンユーザーです。他のメーカーを試したこともありますが、やはりこれが一番しっくりきます。
バティスト
以前働いていた楽器店では、ビュッフェ・クランポンも含めてすべてのメーカーのクラリネットを修理していました。ビュッフェ・クランポンの楽器は、メカニックの目線で見ても繊細で、信頼できるメーカーです。

リペアマンとしての矜持

次にバティストさんにお訊きします。一つの楽器の修理にはどれくらいの期間を要しますか?
バティスト
壊れ方にもよりますが、たとえば全体に調整とクリーニングをほどこすならば半日ほどです。作業自体は2〜3時間ですが、ショールームでは他の業務もありますから。また、すべてのキィを外して傷なども直す、オーバーホールのようなものであれば、朝預かって翌日の夜にお渡しします。ただ、本当に急いでいるのであれば一日で対応します。一番重要なのは、奏者の練習時間を奪わないこと。だから、最大でも二日間で終わらせるようにしています。
余談ですが、たとえば木の膨張による内径のズレなどといった他の修理屋さんでは対応できないようなことも、私のところへ持ってきてもらえれば、その場で工場へ送ることができます。また、最近のビュッフェ・クランポンの楽器についているLow Fの音程補正キィを、後からつけることができます。
愛好家によく見られる楽器の故障の症例などはありますか?
バティスト
多く見られるのはF1のキィと、左手小指のシのキィです。これらは、木の膨張などにより組み立てがスムーズにできないとき、キィなどを支えにして力ずくで組み立てることが原因の一つです。また、そもそも木の膨張などで組み立てられないという相談もありますね。そういうときには、コルクや木を削って対応します。
また、上下管が入りづらいというときにグリスをつける方もいると思いますが、私が見る中ではつけすぎという人が多いですね。大体ひと月に一回塗るだけでいいと私は考えています。子どもの楽器などでよく見られるのですが、つけすぎている人はしばしばこの上下管の接合部にグリスが溜まってしまっています。だから、新しいグリスを塗る前に前のグリスを取り除かないといけない。古いグリスを残したままにしていると固くなってしまいます。ちなみに、セリーヌの楽器もそうなっている(笑)。
古いグリスを除去するには、オイルを使ってほしいです。たとえばトランペットなどに使うピストンオイルなどですね。家ではオリーブオイルを使ったこともあります。ちなみにコルクが膨張して入らないという方は、大体がコルクではなく木が膨張してしまっています。なので、コルクグリスをつけても無駄です。

楽器を長く使うために

日頃の手入れや扱い方など、回避する方法はありますか?
バティスト
まずF1ですが、これは組み立てるときに上管のキィと下管のキィをしっかり押さえながら行なうことです。そうしないとF1キィがぶつかってしまい、変形やコルクの破損につながります。組み立てが1mmズレると、それだけでもこのキィはどんどん状態が悪くなってしまいます。修理に出したときなどにご自身で一度組み立てて、自分がどのように組み立てているかリペアマンに確認してもらってから修理してもらうことが一番大事です。
セリーヌ
私は小さな子にもクラリネットを教えているのですが、最初に教えることは楽器の組み立て方です。下管を持つときにキィをグッと押しすぎないように、実際にやってみせながら教えています。
まず右手と左手はそれぞれ、手の真ん中に木がくるようにさせます。そのまま手を閉じる。力を込めすぎるのはもちろんダメですが、ちゃんとキィのところに指を置くように言っています。そのときに中指で押さえるようにする。中指は力が入りやすいので、管体を安定させられますからね。小さい子はどうしてもキィをいじることが怖いのでキィのないところを持とうとしますが、そうすると思いがけないところに力が入ってキィを曲げてしまう。かならず手のひらに木の部分を乗せる。しっかり時間をとって、このことを教えます。最初にこの組み立て方を教えることが大事ですね。
上管を持つとき
下管を持つとき
小さい子にとって、クラリネットは重くないのでしょうか……?
セリーヌ
子どもたちはやはり、右手の親指が痛いと弱音を吐きますね。ですが、クラリネットにとってそこが痛いというのは当たり前なんだよって話しています(笑)。私としては、小さい子でもできるだけB♭クラリネットから始めさせたいと考えています。ですが、本当に小さい子だとトーンホールの中に指が入ってしまうこともあるので、そういう子の場合C管から始めさせます。
そういった、まだ体の小さい子にビュッフェ・クランポンの「ポケットクラリネット」はいかがでしょうか?
セリーヌ
クラリネットを知ったり触れる機会としていいと思います。キィが多いとそちらに気を取られてしまいがちですが、これなら口の周りだけに集中して、クラリネットの音を楽しむことができると思います。
バティスト
ちなみにショールームでは、いつも隣にポケットクラリネットを置いています。いろんな方が試しにきますし、子どもたちを教える学校の先生方は興味深そうにしていますね。

もっと考えを深く、もっと表現を繊細に

使用楽器とセッティングを教えてください。
セリーヌ
モパネ製のビュッフェ・クランポン レジェンド。最初に限定発売されたときに買ったもので、世界に85本しかない貴重なものです。マウスピースはバンドーレン BD4、リードもバンドーレンのV12 3番、リガチャーも同じくバンドーレン M|O ピンクゴールドです。
最後に、日本の学生へ向けたメッセージをお願いいたします。
セリーヌ
音楽に真剣に向き合うこと。よく演奏会を聴きに行き、自分がどう感じるか。そして感じたものを自分はどうやって表現するか、よく考えて吹いてほしいです。あとは、楽譜に忠実に。毎日の練習は一日一日もっと深く、もっと繊細に、というイメージを持って。
バティスト
修理についてもだいたい同じですね。吹いたら絶対にスワブを通す。でないと膨張してしまいます。バレルや接合部もぬぐってください。指の垢などもきれいにする。それから、家でもリハーサルでもですが、楽器を組み立てたまま置いておかないでください。一時間でも、必ず片づけてほしい。でないと、猫が倒してしまいますから(笑)。それから、組み立てるときにきついからってガタガタと入れないでほしい。これは、世界中のみんなに気をつけてほしいです。
ありがとうございました。
 
通訳を務めてくれたクラリネット奏者の鳥潟さくらさんと。彼女とセリーヌは、ブルーノ・マルティネ―ズ氏の門下で出会ったそう。
<前へ      1   |   2   

クラリネット ブランド