第11回「プロが使うリードとは……前編」
クラ奏者の永遠の命題とも言えるリードの悩みを解決していこうという当コーナー。今回からは2回にわたって、実際にプロのクラリネット奏者が日頃から使っているのはどんなリードなのかを探る。前編となる今回は、仕事の種類によって求められるものの違いについて……。
講師 木村健雄さん
こんにちは、木村健雄です。
今回は「プロが使うリードとは……」というタイトルなのですが、内容があまりに長くなってしまったので前編、後編の2回に分けることになりました。まず今回の前編ですが、一口にプロと言っても色々な業種があり、使用する場所や目的が異なるとまったく違うリードを使うというお話です。
(The Clarinet vol.43発売当時のまま掲載しています。)
昔、ザルツブルグ音楽祭でシューマンのピアノ協奏曲を、カラヤン指揮のウィーンフィル、ピアニストはポリーニという夢のようなコンサートがあり、ラジオの放送で聴く機会がありました。シューマンのピアノ協奏曲といえば、一瞬ですがクラリネットのソロがあります。当時のウィーンフィルの首席奏者、アルフレート・プリンツ氏の会場中に響きわたった伸びのあるその音は、曲想をポリーニ以上に表現していて、一生忘れることができないすばらしい思い出となりました。そのプリンツ氏に学生時代、東京の音楽大学の公開講座でレッスンを受けたことがありました。プリンツ氏はピアノの演奏も達者で、途中から伴奏者に代わり自らピアノを弾き始め、オペラの一場面のような音の世界を創ってくださり感動したことを覚えています。ところが、音大のあまりに響かないホールでクラリネットを吹いてくれた時の音色は「ザーザー」というような、いわゆる我々の楽器でいう雑音のとても多い音でした……。 似たような話ですが、友人の某オーボエ奏者が、来日中のドイツの某有名オーケストラの首席奏者による公開レッスンの通訳を頼まれた時のこと、その講座を主催していた楽器店の社長が近づいて来て「ねぇ、この人本当に上手なの?」と耳打ちしたそうです。その楽器店の響かない小さなホールでは、受講していた日本人の学生の誰もが、明らかに先生より良い音で吹いていたそうです。こういうことは、実はよく起こります。まぁ、もしかしたらヨーロッパからの長旅で疲れてもいただろうし、旅の恥はかき捨て的な、少しくらい手を抜いたって小遣いが稼げりゃ、と割り切っていたかもしれません。でも、恐らく「何故こんなに響かないんだ???」と本人たちは何が起きているのか理解できなかったのではと思います。地震のないヨーロッパの国の建物は、石造りである上に一般の家でも天井が高く、さらに気候も日本のように梅雨などなく年間通して空気が乾燥しています。西洋音楽とはそういう環境で生まれた文化です。響かない部屋と四季によって刻々と変化してゆく湿度に対し、さまざまな日本仕様の対処法を考えてリードとつき合っていかなくてはならないという良い教訓だと思います。 さらに演奏形態が異なると、どのような違いが出てくるかというと……。
アルフレート・プリンツのアルバム「モーツァルト&ブラームス:クラリネット五重奏曲」(日本コロムビア)
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・オーケストラ、吹奏楽、スタジオ、その違いとは…。