BUFFET CRAMPON BCXXI×ポール・メイエ
2021年11月12日に世界同時配信による新製品発表会が行なわれ、その後クラリネット界の話題を独占したビュッフェ・クランポンの新機種【BCXXI】(BC21)。日本では2022年の販売を予定しております。B♭管クラリネットの中では最上位レベルの機種の位置づけとなる、ビュッフェ・クランポンの研究開発チームが長年夢見てきた21世紀の新たな進化、あらゆる限界を超える次世代のクラリネットです。
今回はテスターを務める演奏家の一人であり、世界的なクラリネット奏者でもあるポール・メイエ氏にBCXXI の開発にどのように携わったのか、そしてこの楽器の魅力を語っていただきました。
素晴らしい楽器になる
(以下P)
ビュッフェ・クランポンでは、楽器はもちろん、クラリネットに関連した製品に関しても日頃から大小に関わらず様々な研究をしています。どうしたら楽器が良くなるのか、なぜこれはできないのかなどを常に考えています。内径(ボア)のサイズ、指穴の位置や大きさ、キーの形など少しの違いで楽器はまったく違うものに変わってくるのです。楽器を長くしたり短くしたり、一つの音孔の上げ下げでも違いが生まれます。
楽器開発の工程としては、技術者が作った試作品をテスターの私たちが試奏し、ここが良くない、ここを変更できないかなど、いろいろと指摘していきます。そして、楽器作りにおいての知識が豊富な技術者の方たちが、これはできる、これは不可能だ、ということを教えてくれます。
このように、開発では私たちが意見をして試作品を何度も作り直していきますが、私はこうしたら好きだけど他の人は好きじゃなかったりもするので、別の奏者にも吹いてもらって意見を聞きます。また、他の開発者とも意見交換をしていきます。
楽器の開発では、すべてにおいて良いバランスを見つけなければいけません。それはとても複雑なことです。そのため完成までに最低でも4年はかかります。とにかく一人でできることではなくチームで作っていくものです。たくさんの経験が必要なので、多くの人が関わっていて、その経験が集まって完成します。BCXXI もこのような工程を経て完成しました。
楽器作りは靴作りと同じです。みんなが履きやすいものでないといけません。たった一人のために作るわけではないと思います。スタイルが違ったり、足が痛い人や歩き方が違う人もいます。みんなに合うものを見つける必要があるのです。
吹いた瞬間から素晴らしい楽器になるという感触はありました。1回目の試作品では最低音がE♭でした。このことは開発の段階で決まっていたので、私たちの希望も含めて盛り込まれていました。
しかし、そこからたくさんの変更を行ないました。その細かい積み重ねが大切なのです。
最低音のE♭が加わった
こちらも靴で例えましょう。朝スポーツをして、そのあと公園に行きます。そして夕方会社の会議に出て、夜は友人の結婚式のディナーへ向かうとします。1日で様々な予定があるのにもかかわらず、靴は1足しか持っていけないとなった時に、どっち寄りのものを選ぶのか迷いますよね(笑)。
「自分の足にあった靴を見つける」というフランス語のことわざがあります。素敵な靴でも小さすぎたら履きませんし、僕がハイヒールを履いたら悪夢ですよね(笑)。楽器を選ぶ際にいろいろな決め手がありますが、その中に耳があると思います。人それぞれ違う耳を持っています。あと教育もです。どのような楽器でクラリネットを始めるのかということは、その後の楽器選びに大きく関係してきます。だから、自分に適した楽器を探すことが大切です。
しかし、新しいものだけが良くて、既存のものや古い楽器は良くないとはもちろん思わないでください。音色が好きだったり、吹き心地がいいなと感じたものを使ってほしいです。
そしてある時、宝石職人の方が「金は熱伝導率が良く、振動を伝えやすい」と言っていました。
ですから、BCXXI の豊かな響きはこのピンクゴールドも大いに関係していると思います。
B♭は音色も違うので、状況や好みに応じて新しい選択ができるようになります。この第3の運指(E♭)ができたことで、例えばバルトークの『コントラスツ』では急いで持ち替える必要がなくなるでしょう。そして薬指のトーンホールの高さを揃えたことで、新しい運指の可能性や高音域のアシストにつながってきます。
洋服や靴を選ぶように、楽器も好みに合わせて選んでほしいと思っています。ハイヒールでは富士山は登れないし、タキシードはとてもいい服だけど朝8時から着るものじゃないですよね。作品を演奏する時、ゆっくり奏でるシーン、テクニカルで華やかなシーン、高音が続いたり、強く強調して演奏したりと、いろいろな表情が出てきますが、すべてに適応できる楽器が完成しました。
BCXXIを試奏した人は、新しい音色のアイデアが生まれたり、高音の運指も探すことができたり、今までとは違うテクニックを見つけることができます。新しいバランスの楽器で今まで見えてこなかったことが見えてきます。クラリネット奏者をいろんな面で助けてくれることでしょう。
強く申し上げたいことは、BCXXIの開発はチームでの仕事です。長年培われてきたビュッフェ・クランポン社の知識と能力、そして、すべての従業員やテスター、関わった皆で出した結果なのです。
BC XXI
調子:B♭
管体:アフリカ産最上質グレナディラ材使用、上管の一部のトーンホールに“グリーンライン”を採用
カーボンファイバー製 接合部リング
バレル2本(64mm および65mm)
キー:ベームシステム、キー、6リング
調節可能指かけ、低音Es/B♭キー
銀めっきキー、キーポストおよび接合部リングはピンクゴールドめっき、洋銀製
冷間鍛造、手工仕上げ
“BCXXI”専用キーデザイン
金属ピトン
精密特殊加工スチール針ばねおよび板ばね
付属品:“ BCXXI”専用HITECHケース
〈HB〉ピンクゴールドリガチャー(銀めっきネジ)
〈BC〉マウスピースキャップ
スワブ
Paul Meyer ポール・メイエ
名実共に世界のトップに立つクラリネット奏者。1965年アルザス生まれ。13歳でソリストとしてデビュー。パリ高等音楽院とバーゼル音楽院で学ぶ。フランス国内外のコンクールで優勝後、84年NYデビュー。ベニー・グッドマンに出会い親交を結ぶ。以来世界有数のソロ・クラリネット奏者として活躍。協奏曲のレパートリーは約100曲もの数にのぼり、完璧な技術とすば抜けた音楽性、品のある豊かな音色を併せ持つ天才クラリネット奏者として、ベリオ、ペンデレツキを始めとする数多くの作曲家達から曲を捧げられ、初演も多い。室内楽でも活発な活動を行なっており、クレーメル、ヨーヨー・マ、デセイ、ピリス、ロストロポーヴィチ、スターン、バシュメット、パユ等世界一流のソリスト達、及び、エマーソン、ハーゲン、東京クヮルテット等の弦楽四重奏団とも共演。パユやオーボエのフランソワ・ルルー等、現代最高のフランスの木管奏者達とアンサンブル、「レ・ヴァン・フランセ」を結成し、絶賛されている。デンオン、CBS、エラート、BMGファンハウス他多数のレーベルでCDが発売され、その中にはギドン・クレーメルとのピラソラ(ECM /ノンサッチ)、プーランクの室内楽(BMG)、チョン・ミョンフン、ギル・シャハム、ジャン・ワンとのメシアンの「世の終わりのための四重奏曲」 (ドイツ・グラモフォン)、ピアノのエリック・ル・サージュと録音したライネッケ、メンデルスゾーン、ヴェーバー(デンオン)及びブラームスのクラリネット・ソナタ(BMG)等がある。著名なクラリネット奏者として活躍する一方、指揮者としてのキャリアも急速に築きつつある。これまでに、フランス国立放送フィルを始めとするヨーロッパ各地の主要オーケストラ、台北交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団等を指揮。ルイサダのモーツァルト及びハイドンの2枚のCDのほか、ミヨーの協奏曲集のCDでも指揮者を務めている。ソウル・フィルハーモニー交響楽団の准首席指揮者、2010年~ 2012年東京佼成ウインドオーケストラの首席指揮者を経て、2018年よりマンハイム室内管弦楽団の首席指揮者を務める。
[使用楽器:〈ビュッフェ・クランポン〉“ディヴィンヌ”]