クラリネット記事 亀井良信、BCXXIを語る!
  クラリネット記事 亀井良信、BCXXIを語る!
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BUFFET CRAMPONの次世代モデル

亀井良信、BCXXIを語る!

2021年11月12日に世界同時配信による新製品発表会が行なわれ、その後クラリネット界の話題を独占したビュッフェ・クランポンの新機種【BCXXI】(以下、BC21)。ミシェル・アリニョン、ニコラ・バルディルー、マルティン・フレスト、ポール・メイエといった、世界的なクラリネット奏者4名が開発に携わり、ビュッフェ・クランポンの研究開発チームが長年取り組んできた次世代のクラリネットです。日本では2022年3月25日に販売を開始しました。 今回はコンサートなどでも使用されているクラリネット奏者の亀井良信さん(桐朋学園大学准教授)に、BC21の魅力をお聞きしました。

楽器の概念を覆したBC21

亀井さんが普段愛用されている楽器は何ですか?
亀井良信
(以下亀井)
今メインで使っているのはビュッフェ・クランポンの3機種です。ディヴィンヌと、ボックスウッドのレジェンド、それとBC21。ほかに、初期型のトラディションも吹くことがあります。いろんな楽器を吹いていて「持ち替えは大丈夫なの?」と言われることもありますが、僕は基本的に楽器が変わっても同じ仕掛けにしているので、抵抗感などを楽器には求めていないんです。むしろ仕掛けのほうでコントロールしています。だから、いろんな楽器を使っていても仕掛けが同じなので、すべて同じような抵抗感になりますが、楽器を替えることで何が違うかというと結果。この現場だったらこういう楽器が合うかなというイメージで選んでいます。もちろん楽器と仕掛けは1つの組み合わせで吹き分けることもできますが、いろいろな楽器を持つようになって吹き比べていくうちに楽器を替えてもいいじゃん、と考えるようになってここ最近はそうしています。
これは個人的な意見ですが、ビュッフェ・クランポンの楽器は奏者に選択の余地を残してくれていると思います。自由度が高いということです。だから私はビュッフェ・クランポンの楽器を使っています。
BC21を手にしたのはいつですか? 初めて吹いたときの印象をお願いします。
亀井
昨年の11月12日に世界同時配信で発表されましたが、その2日くらい前に初めて吹きました。私は新しいものが好きなのでこれまでもいろいろ試しましたが、BC21はパッと吹いた瞬間に反応の速さを感じ、音色も好きになりました。BC21は設計からすべてが新しく、長さもそうだけど管体の内部構造が他と違います。通常のクラリネットは内部がテーパー形状になっていますが、BC21は下までほぼ同じ太さのようです。多少テーパーがかかっているとは思うのですが直管に近いので当然、音色は変わりますよね。また、構えたときに楽器の上部が自然と前に倒れていく感じで吹きやすいです。
クラリネットはそれぞれの音域で音色が変わってしまうので、演奏者はそれを整えながら吹いていくのが常なんですけど、このBC21は無駄な操作を必要とせず息がスッと入っていって上から下まで均一に鳴らせます。変なことをすると楽器に否定されるんです(笑)。面白いなと思いました。
これまでの楽器はストレスを作りながら吹いて均等を保っていましたが、BC21はストレスがなく余計なことをしなくてもいい。普段の楽器で神経を使っている部分に、神経を使わなくていいんです。それほど優れた楽器です。いままでの楽器の概念が覆されている部分が多く、楽器ってこんなにラクに吹いていいんだなと思いました。
お使いの楽器と比べてBC21はどんな違いを感じましたか?
亀井
すべてが新しいので比較するのは難しいですね。例えば、RC系統とR13系統の楽器を比較すると、R13系統のほうは音色がキラキラしているし、RC系統は少ししっとりと優しさが際立つというイメージがあります。しかしBC21は今までになかった音色感があるんです。
すでに本番で吹かれているんですよね?
亀井
これまでBC21ではコンチェルトを吹いて、室内楽やオーケストラでも吹いています。一番初めに吹いたのはオーケストラです。今年中にコンチェルトを1本吹こうかなと思っています。
 

新しい自分を発見できる

BC21は下管を延長したことで通常のB♭クラリネットの最低音よりも半音下まで出すことができるようになり、A管に持ち替えることなく演奏することができますよね。音域が半音増えたこと以外に下管を延長したことで感じるメリットはありますか?
亀井
半音下が出ないからA管に持ち替える。この1音のためなら運指上で無理がない場合はBC21をそのまま使えます。ただ、作曲家が意図してA管に替えるということがある場合はもちろんA管にしたほうがいいでしょうね。
BC21は、通常のB♭管よりも長くなったことで半音下が出るようになっていますが、どちらかというとこれはB♭(記譜音)のためだと思います。非常に響きの良い、すべて塞いだ運指のB♭と通常の運指のB♭という2つをチョイスできるようになりました。そこが大きいですね。音階を吹いていても上行音型と下行音型で響きの良いほうを選択できます。それと、長さがあるぶん、響きに柔らかさがあると思います。楽器は長くなれば長くなるほどふくよかさが出てきますよね。
また、クラリネットの低音域の音程は絶対に下がります。特にファは絶対に低くなるのですが、BC21にはそれがない。ファが低いためにコレクション(補正)キーを付けたり、少し圧力をかけて吹いたりしますが、そんなことをしなくても普通に吹いてキレイに響いてくれます。
長さはB♭管よりも延長されていますが、重量は通常のB♭管とほぼ同じだと聞きました。
亀井
この長さが絶妙で、4cmしか延長していないそうです。上管はB♭管と同じで、下管を長くしているのですが、ベルの長さを縮めています。
持ったときの重さは他のB♭管とそんなに変わりません。ただ、若干長いので重心の位置が変わり、他と感覚がぜんぜん違います。
ベルについては通常最低音E(記譜音)の音程を安定させるために長さが必要だったのですが、BC21ではEの音がベルからではなくトーンホールから出ていることによって、ベルはしかるべき長さが必要なくなり、響かせるためだけのものになっています。
BC21ではキーポストをピンクゴールドにしています。これによる効果は?
亀井
この楽器はピンクゴールドが標準で、他の仕上げを吹いたことがないので何ともいえませんが、私がトスカを吹いていたときはキーポストを24金にしていて、トラディションではメッキがかかっていない無垢でした。この2つを比べると響きや吹奏感など何か違うんですよね。管体に直に接触している部分なのでキーポストの仕上げによる変化は確実にあるのでしょう。メッキは音の響きに何かしら関係しているのだと思います。BC21のようにピンクゴールドにすることで少し柔らかさが出るのかなと感じました。材質は違いますが、ボックスウッドのレジェンドはBC21と同じピンクゴールドのキーポストを採用しています。やはり印象としては柔らかさがありますね。
キーポストではないのですが、実は私のBC21のキーの部分には特別仕様としてロジウムメッキをかけています。ロジウムは手触りがしっとりするから指の引っかかりが良くなり、キーの腐食がなくなります。プラチナも同様に腐食がないのですが、ロジウムのほうがより厚めにかけられるのでメッキが剥がれにくくなりますし、さっと拭くだけでキレイになります。
左手薬指(Dホール)のトーンホールが他と同じ高さになりました。
亀井
パッと吹いたとき、トーンホールが同じ高さなのでまっすぐに構えることができ、左手の安定につながっています。でも、各トーンホールの大きさが違うので若干の慣れが必要です。いろんな意味で慣れが必要なんですけど、このBC21の感覚を知ってから他の楽器を吹くと、こうやって吹けばよかったんだなという気づきがあります。また、仕掛けもBC21で選んだものを他の楽器で使うと、これまでのストレスがなくなったり、吹き方自体も正しく補正されていくようなイメージです。私は出かける前に1時間ほど防音室にこもって楽器を吹くのですが、どの楽器で仕事をしに行くにしてもまずBC21を吹きます。
BC21を使用するときのセッティング(マウスピース、リガチャー、リード)を教えてください。
亀井
私は用途によってマウスピースを替えています。ソロを吹くときのマウスピースはバンドーレンの5RVライヤー。負荷がかけられるのでこのマウスピースにしています。リードはバンドーレンV.12の4番です。
室内楽やオーケストラではバンドーレンのB40ライヤープロファイル88、リードはバンドーレンV.12の3.5番です。私はどちらのマウスピースで吹いても抵抗感の変化はありません。同じアンブシュアのまま吹けます。リガチャーだけは替えずブルズアイのルージュEXを使っています。
組み合わせ、マッチングはとても重要です。組み合わせを考えるとき、クラリネットはマウスピース、リガチャー、リードの三重苦で、しかも楽器との相性、吹き手との相性と、自分に合ったものを見つけるのは大変だと思います。一生出会えないかもしれないほどです。だから、楽器を始める段階で、楽器とその楽器に合った仕掛けを用意してもらえればすごくラクだろうなと思います。私の場合、クラリネットの先生が父だったので、最初に使う楽器と仕掛けは父に選んでもらったんです。ストレスなくすぐ音が鳴りました。ただ、その後の紆余曲折はありますけどね(笑)。
最後にBC21の魅力をお願いします。
亀井
この楽器があることによって自分を進化させることができると思います。個人的にも新しい自分を発見できそうだなと。この楽器でもっと違う自分を見たいし、魅力が多い楽器なので7年後くらいの自分がどうなっているか楽しみです。
ありがとうございました。
 

 

BUFFET CRAMPON BCXXI

[調子]B♭
[ピッチ]440/442Hz
[管体]アフリカ産最上質グレナディラ材使用、上管の一部のトーンホールに“グリーンライン”を採用、カーボンファイバー製接合部リング、バレル2本(64mmおよび65mm)
[キー]ベームシステム、19キー、6リング、調節可能指かけ、低音E♭/B♭キー、銀めっきキー(キーポストはピンクゴールドめっき)、洋銀製、冷間鍛造、手工仕上げ、“BCXXI”専用キーデザイン、金属ピトン、精密特殊加工スチール針ばねおよび板ばね
[︎付属品]〈HB〉リガチャー(専用)&キャップ、コルクグリス、スクリュードライバー、〈BC〉オリジナルスワブ、クリーニングクロス、“BCXXI”専用HIGHTECH仕様ケース、“BCXXI”専用ケースカバー(ショルダーストラップつき)
[価格]¥1,350,000(税込¥1,485,000)

 

亀井良信 Yoshinobu Kamei
愛知県名古屋市生まれ。9歳のときに父のてほどきで、クラリネットを始める。桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)卒業後、渡仏。パリ市12区立ポール・デュカ音楽院、オーベルヴィリエ・ラ・クールヌーヴ地方国立音楽院をいずれも満場一致の1位で卒業する。ピエール・ブーレーズに認められフランスの騎馬オペラ団”ジンガロ劇団”のスペクタクル“TRIPTIK”でソリストとして世界ツアー2年8ヶ月間300公演以上出演。2003年帰国。各地のホールに招かれリサイタルや室内楽演奏会を行なっている。NHK-FM「ベストオブクラシック」NHK-BS「クラシック倶楽部」「題名のない音楽会」などにも出演。地域創造公共ホール音楽活性化支援事業アーティストとしてピアニスト鈴木慎崇氏と「デュオ・レゾネ」としてアウトリーチ活動もしている。CD「Rhapsodie」「Cantabile」「Romanze」(オクタヴィアレコード)が「レコード芸術」特選盤に選ばれている。第16回出光音楽賞、2005年度「アリオン賞」、2009年度名古屋音楽ペンクラブ賞を受賞。現在桐朋学園大学准教授。


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