第5回 スタッカートのいろは その2 〜舌の動きについて〜
スタッカートの原則
スタッカートの基本的な原則は、音を発音することから始まります。要約すると、スタッカートの奏法は、息を吹き込むと同時に舌をリードから離すことによって発音します。そのまま息を継続して吹き込むとレガートになり、また音符の長さに従って舌をリードに触れることによって音が切られ、再び舌を離すことによってスタッカートが生まれるという理屈になります。
では、実際に譜例を見ながらスタッカートの練習をしていきましょう。まず、長い音(譜例①)、これはレガートの練習と同じです。3拍吹いて4拍目の4分休符の頭で舌をつけて、次の小節で舌を離す。休符で音が止まってもいつも一定の息の圧力が加わっていなければなりません。十分な息の柱をつくって、4小節をノンブレス(息をしない)で、ロングトーンをするイメージで何度も練習してください。ゆっくりしたテンポの場合、2小節ごとに分けてもかまいません。
舌をリードから離すとき、また舌がリードに触れるときは敏速にし、雑音が入らないようによく音を聴きながら、舌を素早く離しましょう。ここで大切なことは、舌を動かすことによって アンブシュアが変わらないようにすることです。また、よくのどが必要以上に動く人がいますが、他の部分は動かさないようにしましょう。最初のうちは鏡で見ながら練習するといいと思います。
さて、次に全音符を吹いて4分音符に分ける練習です。4拍伸ばして、1拍ずつ切ります(譜例②)。始めのうちは長めの音で、レガートと同じ響きを出せるように音を聴きながらタンギングしていきましょう。切る音符が細かくなるほど舌はリードの近くになければなりません。
また、短い音になればなるほど、舌の動きは速くなっていきます。8分音符のあと3連符、16分音符(譜例③)も同様に練習してください。これらは、メトロノームで4分音符が76〜120くらいのテンポで練習しましょう。始めのうちは速さではなく、タンギングをする舌の筋肉を柔軟にするための練習です。
クラリネットのこの“G”(実音F)の音は、密度が薄くよい音がしません。右手の人差し指と中指を押さえるとやや響きが良くなります。また、左手はタルの部分を握って、音が出やすい状態にしてください。この運指は楽器を安定させるためにも良い効果があります。
舌を軽快に速く動かすための練習
スタッカートでは舌が大切な働きをしていることは上記した通りですが、私の先生であるG.ダンガン氏が言うには、タンギングはイタリア人が一番速いそうで、これはイタリア語の“R”の音は舌の先で巻き舌のように発音するので、イタリア人は舌が発達しているということを半分羨ましげに言ったのではないかと思います。
ちなみに同じ“R”でもフランス語はのどで発音するので、イタリア人ほど舌の先は流暢ではないようです。もちろんダンガン氏もスタッカートは大変速く吹くし、フランス人もタンギングの速い人はたくさんいます。この理屈からいくと日本人のローマ字の「ra、ri、ru、re、ro」の発音は、“R”と“L”の中間くらいですが、比較的イタリア語に近い気がします、いずれにしても、舌の動きを速くするには舌の筋肉を柔軟にする必要があります。
野崎剛史
Takeshi Nozaki
東京芸術大学卒業後、渡仏。パリ市立音楽院にてクラリネットを学ぶ。フランス国立管弦楽団の首席クラリネット奏者ギイ・ダンガン氏に師事。帰国後、東京佼成ウインドオーケストラで演奏活動を続けた。またジャズサックス奏者の坂田明、クラリネット奏者の鈴木良昭、ピアニストのF.R.パネ、谷川賢作らとジャンルを越えた音楽活動も行なった。