第8回 アーティキュレーションのいろはその1 〜アーティキュレーションは生きている〜
中学生高校生の皆さん、本日もクラリネットの練習に励んでいることと思います。
このクラリネット講座も第8回目を迎えました。今までアーティキュレーションの中の「レガート」と「スタッカート」の話をしてきましたが、今回からはスタッカートの続きと、レガートとスタッカートを結合した形、一般的に言われているアーティキュレーションについて話を進めていきたいと思います。
アーティキュレーションを極めよう
アーティキュレーションは生きた言葉だ
アーティキュレーションは言葉の発音法からきた用語で、言葉をはっきり区切って発音し、意味を伝える目的があります。「東京特許許可局(とうきょうとっきょきょかきょく)」とか「生麦生米生卵(なまむぎなまごめなまたまご)」などの早口言葉は、言葉の遊びなどで皆さんも耳にしたことがあると思いますが、話し言葉の訓練のテキストとしても知られています。これらは正確に区切って発音しないと何のことだか分かりません。
また、幼児は会話のアーティキュレーションを聴き、学ぶことによって言葉を覚えていくと言われています。言葉をはっきりと明確に発音することは、その意味を理解させるための大切な伝達手段なのです。
手塚治虫のマンガに「弁慶」という名作があります。能や歌舞伎の題材にもなっている、「勧進帳」や「船弁慶」など、また京の五条橋の牛若丸と暴れん坊弁慶の話など、少年の頃、面白くて何度も繰り返し読んだのを覚えています。
その中に、「坊主が屏風に上手に坊主の絵を書いた(ぼうずがびょうぶにじょうずにぼうずのえをかいた)」という言葉が出てきます。兄の源頼朝に命をねらわれる義経が、追手から逃れる道中で、敵の目をごまかすために弁慶が屏風に自分の姿を描いて錯乱させ、追手を全滅させるという場面、大雪の中での土佐房と家来の会話。
土佐房 「なに、追手が全滅だと、どうしたのだ」
家 来 「それがその、ぼうずがびょうずにぼうぶにぼうずを……」
土佐房 「なななんだと、ぼうずがぼうずにびょうずをしたって
家 来 「いえ、そのぼうずがじょうぶにぼうぶの……」
土佐房 「ボボボ、ぼうぶがじょうぶでどうした
家 来 「ちがいます、ぼうずがぼうずにびょうぶを……」
結局、言葉がうまく伝わらず、馬に乗った二人は大雪の中に埋もれてしまいます。このマンガを読むたびに、その可笑しさに笑ってしまいます。ここには言葉の発音とアーティキュレーションについてのヒントがあります。(余談ですが筆者は小さい頃から手塚治虫の大ファンで、古いマンガ本をたくさんし所蔵しています)
音楽のアーティキュレーション
さて、音楽でのアーティキュレーションはというと、一つの音符を短く切ったりのばしたりして旋律や音形を明確にして、音楽のフレーズを特徴づける表現の変化をつくります。あるメロディをレガートで吹くのとスタッカートで吹くのとではフレーズのイメージが変わってきます。
さらに、その両方を使って組み合わせたアーティキュレーションはフレーズに生き生きした躍動感やリズム的な変化を与えます。
また、アーティキュレーションは曲のフレーズ、テンポやダイナミックス(音の強弱)、音の高さ、音色などと深く関係があり、音楽のイメージの中でその表現法もいろいろです。
自然の中には両極の相反する法則があります。例えば、明るいー暗い、冷たいー暖かい、高いー低い、短いー長い、堅いー柔らかい、強いー弱い、速いー遅いなど、無意識にあるいは意識的に実感していると思いますが、この対比性や対立性が音楽に変化をもたらします。
アーティキュレーションの課題は音の長短ですが、それに対応する似たようなイメージがあります。「短い」に対して「速い」「堅い」「冷たい」、「長い」に対して「遅い」「柔らかい」「暖かい」というふうに、テンポやダイナミックス、ニュアンスによって、そのアーティキュレーションの長さも自然にその相互作用で作られています。
1.レガート(legato)/スラー(slur)
2.スタッカート(staccato)/ノン・レガート(non legato)
3.スラーとスタッカートの組み合わせ
野崎剛史
Takeshi Nozaki
東京芸術大学卒業後、渡仏。パリ市立音楽院にてクラリネットを学ぶ。フランス国立管弦楽団の首席クラリネット奏者ギイ・ダンガン氏に師事。帰国後、東京佼成ウインドオーケストラで演奏活動を続けた。またジャズサックス奏者の坂田明、クラリネット奏者の鈴木良昭、ピアニストのF.R.パネ、谷川賢作らとジャンルを越えた音楽活動も行なった。