第19回 “ニュアンス”を知る その2 〜いい音を出すための呼吸法〜
ソノリテ(音の響き)
音の強弱を考えるときには、しっかりした音が出ていることが第一条件です。クラリネットを吹くとき、強い音とか弱い音ということよりも、質の良い音を鳴らすことから始めなければなりません。響きのある質の良い音をフランス語でソノリテ(sonorité)と言います。
呼吸法について
第15回で呼吸のしくみについて触れましたが、ソノリテや強弱の練習をする前に、イメージ図を参照しながら、呼吸法についてもう一度復習してみたいと思います。
ふつう、腹式呼吸で息を吸う時は、横隔膜の筋肉を収縮させて腹のほうに下げて肺を広げ、息を吐くときは緊張した横隔膜をゆるめることによって肺を押し上げるという話はしましたね。この息を吐く運動は受動的に行なわれています。つまり日常的な腹式呼吸では、何もしなくても横隔膜は勝手に元に戻っていくわけです。
しかし、クラリネットを吹くときは横隔膜がゆるむことを利用して意識的に息をコントロールしなければなりません。ここが呼吸法の重要なところです。
息を吸う、息を吐く
図①は息を吸って、横隔膜を収縮させ肺の底辺が降りてきたときの状態です。
図で示された、なべを逆さにしたような部分が横隔膜です。そのなべの底の部分(C)を下に押し下げると(A矢印の方向)肺が広がり空気が流れ込んできます。それに伴ってお腹(胴回り)がふくらみます(B矢印の方向)。このように、横隔膜は胸部と腹部の間にあって腹式呼吸に重要な役割を果たしています。
図②は息を吐くとき、横隔膜が元に戻って肺が押し上げられている状態です。
この時大切なのは、クラリネットに息を吹き込む間、ふくらんだお腹の筋肉を支え続けることです(B矢印の方向)。
クラリネットを吹くときは、マウスピースとリードの間で息が入るのを制限されるので、日常の腹式呼吸よりも息の流れが遅く抵抗があり、吐き出された息は無駄なくクラリネットの中に送られていきます。たくさんの空気をすばやく吸い込んで、平均して息を出すことはソノリテを作る上でたいへん大切な練習です。
野崎剛史
Takeshi Nozaki
東京芸術大学卒業後、渡仏。パリ市立音楽院にてクラリネットを学ぶ。フランス国立管弦楽団の首席クラリネット奏者ギイ・ダンガン氏に師事。帰国後、東京佼成ウインドオーケストラで演奏活動を続けた。またジャズサックス奏者の坂田明、クラリネット奏者の鈴木良昭、ピアニストのF.R.パネ、谷川賢作らとジャンルを越えた音楽活動も行なった。