第33回「削るのかい? このリードを……!」
靴の魅力は、究めれば革の美しさにある。その革は足を入れたときから熟成が始まり、手入れによってさらに輝き、足にフィットしてゆく。先日、イタリア・ミラノにて靴をビスポークした。自分の木型を起こし、革の種類や型を決めて、世界で一足の自分だけの靴をオーダーするのは、私の小さな夢であった。もともと足が小さいうえに、採寸してみたら左右の違いが著しい。これでは既製品が合わないはずである。
リードも革と同様、水分を含むと同時に蘇生し、手入れをして自分仕様に育てることで良い状態になり、美しい響きが持続するもの。ただし、それも良いマウスピースあってのこと。良いマウスピースとは、良いリードがたくさんみつかるものに他ならない。足でいえば大きくも小さくもなく左右対称の美しい足、といったところか。そんなマウスピースは家にゴロゴロあるのだが、残念ながら足はどうにもならない。既製品がぴったりと合う足を持つ人が羨ましい。
娘が昨年よりクラリネットを吹くようになり、今では「クラリネット」という名前くらいしか知らなかった私のほうも夢中になっています。ところで、リードは中学生が「削る」ということをしてもいいのですか?(北海道・会社員・51歳)
良いリードをつくるには、どこをどう削ればよろしいのでしょうか?(奈良県・13歳・中学生)
似たような質問が中学生の娘を持つ父親、そして中学生本人から寄せられた。「私の方も夢中になっている」という文章から察するに、ひょっとして親御さんもクラリネットを始められたのだろうか? もしそうであるならば、タバコ数箱分の値がつくリードー箱の中に、たった数枚しか使えるリードが見つからないという不条理を理解していただけたであろう。もしビールやタバコがその確率でしか当たりがないものだったら世界中で暴動が起きているはずだが、クラリネット業界では当たり前の事実として受け入れられており、リード会社や楽器屋が放火や襲撃に遭ったという噂もなく、むしろ我々が頭を下げて貴重なリードを分けていただいているという、かつての共産圏での食糧事情のような状態が続いている。……[続きはこちらから!!]
※ちなみにこの質問を送ってくれた中学生は現在、人気クラリネット奏者として活動されてます
加藤明久
Akihisa Kato
クラリネットを大橋幸夫、浜中浩一の両氏に師事。 1983年、国立音楽大学卒業。その年より制定された矢田部賞を受賞。 第53回読売新人演奏会などの新人演奏会に出演。 第16回民音室内楽コンクール第1位入賞。 1984年、第1回日本クラリネット・コンクール入賞。 1985年、第35回ミュンヘン国際コンクール木管五重奏部門でファイナリスト。 1988年、欧日音楽講座にて初のビュッフェ・クランポン賞を与えられる。第2回日本クラリネット・コンクール入賞。 1990年、NHK交響楽団に入団。 2019年、NHK交響楽団を退団。 2019年より昭和音楽大学教授、武蔵野音楽大学非常勤講師。