クラリネット記事 クラリネットとの本当の“出合い”
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クラリネットを本当に楽しむためのヒント

クラリネットとの本当の“出合い”

あなたはもう“出合って”いますか?

クラリネットは小さく軽く、携帯にとても便利。それでいて音量があり、音域も広く、ねらいの音を出すにしてもダブルリードの楽器ほどデリケートすぎるということはありません。また、リードとマウスピースの組み合わせ、それに吹き方を工夫すれば音色を相当に変えることができるので、クラシック音楽・ジャズ・ポップス・民族音楽(トルコなど)と、広いジャンルで愛用されています。
でも、毎日のように吹いていながら実はまだクラリネットに出合っていない人がいるかもしれません。何事においても出合いは大切で、「充実した人生とは、良い出合いの積み重ねのこと」と言ってもいいくらい。これは単にそれを知るとか、見る・触れるということに留まらず、それによって深く感動する、心が揺り動かされ新しい自分がそこからスタートするといったこと。それが本当の出合いです。
分かりやすい例として、恋愛のシーンで考えてみましょう、毎日顔を合わせる相手でも、大勢いる中のひとりに過ぎなければ、まだ出合っているとは言えません。ところが、ただ何となく落ち着かない日曜の暮れそうで暮れないたそがれどき、ふと目に付いた小石を蹴っ飛ばした瞬間、その人にすっかり心を奪われてしまっている自分に気が付いて、おまけに涙までこぼれてきた……その時が、その人の出合いなのです。
では、「ブラスバンドに入った。本当はサックスを吹きたかったけど、もう定員が一杯だからとクラリネットを持たされた。いくら息を吹き込んでもうまく音になってくれないし、1stの人と違って休符が多く、どこをやっているんだかすぐわからなくなってチョ―つまんない。でもやめるのはしゃくだから頑張っている」という人はクラリネットに出合っているのか、いないのか……。
さて、出合うということは自分の心が変化していくドラマだと言えるでしょう。恋愛の出合いのように、相手の事情とはほとんど無関係に自分の心が変化していくようです。では、何がきっかけとなって自分の心が変化するのでしょうか。古代中国の人はこれを“風”のしわざと考えました。辞書を見ると風のつく言葉がたくさんありますね。風景・風物・風聞・風格・気風・風狂・風来坊……これらの“風”はみな古代の人が必死になってあることを伝えようとしたメッセージなのです。さらに紀元前後になって、インドから仏教が中国へ伝わり、それを受け入れた中国人は“風”を踏まえつつも“縁”を考えるようになりました。日本ではどうだったかと言うと、大陸から文字が伝わってくる前から「シン」と発音する言葉を持っていたと言われています。のちに文字をもった日本人は、このシンに親・真・新・震・進・晋・心・信・振・神……を当てはめ、何かを伝えようとしました。風・縁・シンはそれぞれ違いがありますが、人の心を変化させるきっかけを働きとして捉えたものということで共通しています。いずれも、出合いを考えるための手がかりだったのでしょう。
「クラリネットを楽しむため……」のつもりでいたのに、社会や国語の勉強になってしまったと思われるかもしれませんね。これもまた平たい意味での出合いで、このページをご覧になったのが縁です。おや、今私は“縁”を使いましたね。次回は、この“縁”について掘り下げてみたいと思います。

みやまつ真水

Mamizu Miyamatsu

本名、内藤和男。1942年新潟県越路町出身。中央大学卒業。司書などを経て1993年ちんどん菊乃家へ入門。それまで“幻想”だった「音づれびと」を実際の仕事として具体化する試みに着手。素材はちんどん。太鼓・ズルナ(トルコのチャルメラ)などなど広く楽器に親しむが、メインはクラリネット。祖父ゆずりの易者でもある。


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