ヤン・ヤクブ・ボクン Jan Jakub Bokun
ヴロツワフ音楽アカデミーでクラリネットを学び、その後パリ国立高等音楽院でギイ・ダンガン氏に師事。現在は演奏活動の傍らヴロツワフ音楽アカデミーでクラリネットと室内楽を教え、さらにヴロツワフのクラリネットフェスティバル「クラリマニア」の芸術監督も務めるなど多方面で活躍するポーランドを代表するクラリネット奏者ヤン・ヤクブ・ボクン氏。ニューアルバムではギター奏者ヤクブ・コシチュシコ氏とのデュオでクラリネットの新たな可能性を広げている。そのデュオによるリサイタルのために来日したボクン氏に、3年ぶりのインタビューを敢行した。ここではインタビューの中から、コシチュシコ氏との新アルバムにまつわる部分をピックアップ。クラリネットとギターという編成の可能性を語ってくれた。
通訳・文:クラリネット奏者・横田揺子/写真:土居政則/協力:ヤマハ株式会社、株式会社ヤマハミュージックジャパン
最新CDはクラリネットとギターのデュオ
─ボクンさんの一番新しいCDは、今回一緒に来日されているギタリストのヤクブ・コシチュシコさんとデュオですが、このアルバム「a la carte」を制作することになった経緯を教えてください。
ヤン・ヤクブ・ボクン:ヤクブ・コシチュシコはもともと、ヴロツワフで私の授業を取っていた生徒の一人でしたが、師弟関係は間もなく演奏のパートナーへと変化しました。彼の故郷のシチェジンでは音楽のイベントが多く、そこでは必ずヤクブも関わっていて、何度も会ううちに何か一緒にやってみようかということになったのが、このデュオのきっかけです。まずは、シューベルトの『アルペジオーネとピアノのためのソナタ』をA管クラリネットとギターの編曲で演奏しましたが、この時にこの編成が皆から好かれる組み合わせだということを確信しました。ヤクブは古典的な作品を得意としながらも、他分野の音楽や実験的な試みもオープンに受け入れる柔軟な演奏家で、独奏者と伴奏者といった関係ではなく、二人の対等な演奏家によるデュオとしての可能性を追求できるパートナーなのです。このアルバムは5年後、10年後、時を経てから自分で聴き返しても新鮮に楽しむことができる、と思える自信作です。
─クラリネットとギターのデュオというのは、まだあまりレパートリーなどが開拓されていない編成だと思いますが、どのような可能性を感じていますか?
ボクン:今はフランス音楽の、ヴァルス・ミュゼットというスタイルに凝っています。フランスのカフェに行くとアコーディオンなどで演奏されているような軽い感じの音楽です。あとはワールド、ジャズ、フュージョン、クレズマー(ユダヤ音楽)、といった分野でのプロジェクトも進行中です。フランスのクレズマー音楽の作曲家でクラリネット奏者、ヨムの作品も取り上げています。彼は楽譜を使わないので楽譜を書き起こすことから始めていますが、その巧妙さやリズムの複雑さには衝撃を受けました。私にとっては未知のスタイルで、新発見を楽しんでいます。
ヤン・ヤクブ・ボクン Jan Jakub Bokun
ヨーロッパを中心に活躍しているポーランドを代表するクラリネット奏者であり、指揮者。ヴロツワフ音楽アカデミーでクラリネットを学び、その後パリ国立高等音楽院でギイ・ダンガンに師事する。ポーランドの数々のクラリネットコンクールではソロ部門と室内楽部門でそれぞれ受賞している。Koch Classics、JB record、DUXなどから10枚のソロアルバムをリリース。現在、演奏活動の傍らヴロツワフ音楽アカデミーでクラリネットと室内楽を教え、また、ヴロツワフのクラリネットフェスティバル「クラリマニア」の芸術監督であり、国際クラリネット協会のチェアーマンを務めている。2001年に南カリフォルニア大学で指揮の修士号を取得。アスペン音楽祭で奨学金を得て、スイスのヴェルビエ・アカデミーでクルト・マズアー、ジャームス・レヴァインに師事。ポーランドの第3回ヴィトールド・ルトスワフスキー指揮者コンクールで優勝し、またオーケストラ賞を獲得している。