2015年 11月10日(火) 東京オペラシティリサイタルホール

B→Cに川上一道登場!

東京オペラシティリサイタルシリーズ「B→C(ビートゥーシー):バッハからコンテンポラリーへ」に、今話題の若手クラリネット奏者、川上一道が登場した。

ピアノに砂原悟を迎え、まずはバッハの「ソナタ ニ長調 BWV1028」をバセットクラリネットで演奏。もとはヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのための曲だが、バセットクラリネットを用いることで音域のカバーだけでなく、B♭管よりいっそう温かみのある音色が曲にマッチし、原曲とはまた違った良さが生まれていた。その後はB♭管に持ち替え、ゴーベールの「ファンタジー」、ペンデレツキの「3つのミニチュア」を演奏。特にゴーベールは冒頭の夢見るような旋律が、まさに観客を心地よい夢の世界へと誘うような演奏だった。

そして今回の目玉でもある、西上和子による「BLUE—バセットクラリネット・ソロのための」(世界初演)へ。川上自身の出身地である沖縄を題材にした曲だ。内容は、クラリネットの特殊奏法をふんだんに取り入れた現代音楽。特殊奏法が繰り返し行なわれていく中で、その音色に『沖縄』の誕生や歴史が重なっていき、莫大な生命のエネルギーのようなものを耳から感じることができる演奏であった。超絶技巧をものともしない彼だからこそできた、新しいバセットクラリネットの可能性といえるだろう。その後はB♭管に持ち替えコッペルの「クラリネット・ソロのためのカプリス」を演奏。表現が素晴しく、彼が織りなす「カプリス」のストーリーが、まるで映画を観ているかのように素直に伝わってくる名演。彼の圧巻の表現力にブラボー! の声もあがっていた。

後半は「ソナタ第2—Esクラリネットとピアノのための」からスタート。前半に使用した楽器とはまた違った、Esクラリネットの繊細ながらも輝かしい音色を見事に聴かせた。そしてラストはトマジの「クラリネット協奏曲」。こちらは抜群の安定感でプロとしての貫禄を示す素晴しい演奏だった。拍手は鳴り止まず、アンコールへ。川上はバセットクラリネットと、なんと三味線を持ってステージへ。沖縄県石垣地方の民謡「とぅばらーま」(西上和子編曲)をバセットクラリネットならではの優しい音色で奏でた。三味線も自らが弾き、曲の世界観をいっそう引き立てていた。もう1曲は、同じく沖縄の民謡「てぃんさぐぬ花」(西上和子編曲)を演奏。西上氏のおしゃれながらも郷愁の切なさを感じさせるアレンジを情感たっぷりに歌い上げた。観客もしみじみと、自分の故郷に想いを馳せていたことだろう。こうして温かい拍手に包まれて公演は終了。演奏からも、会場の雰囲気からも、彼の人柄がうかがえる、優しさに包まれたコンサートだった。

 

川上一道クラリネットリサイタル

東京オペラシティ リサイタルシリーズ
B→C 川上一道クラリネットリサイタル
日時:11月10日(火) 19:00
会場:東京オペラシティ リサイタルホール(初台)
料金:3,000円(税込)
問合せ:東京オペラシティチケットセンター 03-5353-9999

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