クラリネット記事 「ダイバーシティクラリネット」―『「楽器の木」展』Phase3
[1ページ目]
イベント・レポート

「ダイバーシティクラリネット」―『「楽器の木」展』Phase3

Sustainable Development Goals。いわゆるSDGs=持続可能な開発目標の概念が世に浸透して久しい。この言葉を旗印に、 多くの企業は日夜開発に明け暮れ、それぞれの領域における持続可能性を探っている。ヤマハ銀座店において現在開催中の『「楽器の木」展』は、そんな時代において楽器メーカーが取り組む姿勢の一つを示すものであると、この度取材させていただいて感じられた。

ヤマハ銀座店1F 『「楽器の木」展』の様子

この展示は3つのフェイズに分かれており、フェイズ1では楽器の製造過程で発生した未利用材を用いて作られた「アップサイクリングギター」、フェイズ2は通常プラスチックで作られる鍵盤を未利用の木材に置き換えることで、プラスチック量を1台あたり1.1kg削減した「サステナブルキーボード」をそれぞれ展示。フェイズ3となる今回は「ダイバーシティクラリネット」がお披露目となった。ダイバーシティ、すなわち“多様性”を持たせたこのクラリネットの特徴はずばり“製品化する上で使われずに弾かれた木材”を使用していることだ。
展示されていた楽器は4本。

写真左からそれぞれKINTSUGI』『SHIRATA』『FUMOKU』『IRIKAWA』と名づけられている。

金継ぎで修繕された部分がはっきり見えるだろう

 

『KINTSUGI』は、伝統工芸の「金継ぎ」から取られている。金継ぎとは元来陶磁器や漆器などの割れ欠けを修繕する際に使われる技法であり、その術を楽器に用いている。木材に入った傷を金継ぎで修繕することで、独特の金のラインが入った無二の楽器に仕立て上げているのだ。管体はグラナディラらしく濃い黒であり、それを鮮烈に切り開くゴールドが目を引く。トータルで雰囲気を出すために、キィもブラックニッケルメッキを使用し、より印象深く仕上げられている点もこの楽器の魅力を引き上げているだろう。

管体のまだらが美しい

 

『SHIRATA』は白太と書く。木材の樹皮近くにある白っぽい部分を指す言葉で、本来の黒色と混ざって曖昧なまだら模様になっている。これに独自性を見出し、個性として昇華したモデルがこのSHIRATAだ。黒と薄茶色が混じり合う木目が独特の美しさをまとっている。白太は黒色部分よりも柔らかくて軽い部分であり、比例して軽やかな吹奏感、柔らかな音色になるとのこと。

『FUMOKU』
『IRIKAWA』

『FUMOKU』は斑杢、見慣れない文字面だがこれで「ふもく」と読む。木の成長に伴う幹のねじれなどに起因して発生する斑(まだら)や紋状の模様のことで、遠目でも判るほどに個性が際立つ一本となっている。この斑杢は内部で繊維がずれており、特徴的なまだら模様はそのために生じている。吹奏感も同じく独特で、抵抗感が強くインパクトある音色を持つという。
最後のIRIKAWA』だが、これは『KINTSUGI』に近い。傷ついたことで成長が止まり、そのまま周囲の部分に巻き込まれた「入皮」という樹皮の一部分であり、それを金継ぎで補修した『KINTSUGI』と、補修せずにそのまま活かした『IRIKAWA』に分かれている。節目にも似た天然の凹凸が渋みをかもし出しており、他の展示楽器ともまた違った魅力を見せてくれている。入皮部分が存在するということはつまり内部組織も通常とは異なるということで、少々枯れたような独特の声音になる。それらも含めてユニークな魅力である。

 

会場には、フェイズ1、2で公開された「アップサイクリングギター」と「サステナブルキーボード」も引き続き展示されていた。
アップサイクリングギターは、この日2種類見せていただいた。マリンバの音板に用いられるローズウッドを利用し、まるでモザイクアートのような美しいボディに仕上げた『モデル「マリンバ」』と、ピアノの響板などに使われる未利用材を多く用いて黒白鮮やかなコントラストを描く『モデル「ピアノ」』、どちらも工芸品のような存在感を放っていた。

モデル「マリンバ」
モデル「ピアノ」

サステナブルキーボードは、大正ロマンの趣にあふれる拵えが特徴的な「アンティークタイプ」を公開中。鍵盤から側板まですべて落ち着きある木製で、椅子も異国情緒豊かな装丁が施されている。この椅子は、かつてヤマハが製作していた「山葉文化椅子」からデザインの着想を得たという。こちらは試奏OKとのことで、筆者が取材させていただいている間にも何名か音を鳴らしていた。

カンテラが雰囲気を作る
黒い白鍵が目に眩しい

本展示ではさらに、環境や資源の観点からヤマハが行なう取り組みも紹介されている。クラリネットで言うと、材料の割れ・欠けを樹脂で補修したベル、同じく欠けや虫食いを他の木材で「埋木」した楽器など、従来なら利用できない木材を楽器に使うための施策が多く見られた。耐久性の面からこれらはまだ実用段階には至っていないが、これから更に改良していく予定だという。
代替素材の探求にも余念はない。汎用材と樹脂粉を重ね合わせた「積層材」によるバスクラリネットやグラナディラの端材から作られる「成形木材」なども展示されていた。

破断面を透明樹脂で補完。見た目にも映えている
ピアノの黒い樹脂で補完したベル
積層材によるバスクラリネット
虫食い穴を埋木で修繕・装飾している

 

国内屈指の楽器メーカーとして今なお最前線を走る続けるヤマハの挑戦は、まだまだ続いていく。

「楽器の木」展 Phase3 ダイバーシティクラリネット

開催日時:2023年12月6日〜2024年5月27日
開場時間:11:00〜18:30
会場:ヤマハ銀座店1F ブランド体験エリア
予約不要

2024年5月まで開催中

クラリネット ブランド