コンサート・レポート

Clarinet Quintet Penta-CLam 「From A Distance」

Clarinet Quintet Penta-CLam 3RD CONCERT TOUR 2024「From A Distance」
日時:2024年6月13日
会場:すみだトリフォニーホール 小ホール
出演:池谷歩、草野裕輝、渋谷圭祐、Micina、渡邊一毅
曲目
たなばた/酒井格 arr.渡邊一毅
上海スクエア/新井千悦子
弦楽のためのアダージョ Op.11/S.バーバー arr.渡邊一毅
新たなる地表への挑戦/Micina
メトロポリス/坂井貴祐(五重奏版初演)
「ロメオとジュリエット」より/S.プロコフィエフ arr.渋谷圭祐
写真:(C)轟木敬

旗揚げから二年足らずにも関わらず、すでにクラリネット界において盤石の地位を築いているクラリネットアンサンブル「Penta-CLam」が、3rd Concert Tour“From A Distance”を開催した。東京・大阪・浜松の3都市を回るツアーが組まれ、各地でチケットの完売が相次ぐ盛況ぶり。彼らはなんといっても、その高いスター性が魅力だ。大編成のオーケストラ曲を5人で演奏するフロンティア・スピリットは、他の追随を許さない。また、メンバーがそれぞれのキャリアを積んでいることから、独自に得意とするジャンルを持つ。個性をぶつけあうことで互いに磨きがかかり、さらに前へ前へと進み続ける、そんな彼らの姿勢があの強い輝きを生むのだろう。
Penta-CLamは、もともと数の少ないクラリネット五重奏のレパートリー拡充を活動の柱に掲げており、その一環としてしばしば既存の吹奏楽曲などを五重奏へアレンジして演奏している。今回の一曲目はそんな彼らの名物・吹奏楽アレンジから 酒井格『たなばた』を、書き下ろしの新アレンジで披露した。毎年多くの吹奏楽団が取り上げる人気作品を、原曲のイメージを損なわないポップなアレンジで再構成した、さわやかなオープニング・ピースだ。二曲目は新井千悦子『上海スクエア』。オリエンタルなニュアンスと美しいハーモニーが特徴的な、クラリネット五重奏のオリジナル作品だ。今回のプログラムを見渡してみると、この曲は“正統派”のポジションだろう。そうなると、クラリネットでの演奏はあまりお目にかかれない次曲、バーバー『弦楽のためのアダージョ』は“異色”と言えるか。凍りつきそうなほどに美しいその旋律は、悲劇的なシーンでしばしば印象的に用いられている。一切ごまかしの効かないこの難曲を5名で見事に演奏してみせた彼らに万雷の拍手とともに賛辞が送られた。前半ラスト『新たなる地表への挑戦』は、メンバーであるMicinaによるオリジナル曲。前回のコンサートツアーでも演奏したが、その時はMicinaの参戦が叶わず、今回ようやくオリジナルメンバー5人がそろっての披露になった。Micina自ら1st.を担当し、メンバーを強くリード。5人で演奏できる喜びが全身に満ち溢れ、彼らの演奏する姿は多幸感に包まれていた。

後半一曲目の坂井貴祐『メトロポリス』は、本来クラリネット四重奏の作品。今回は作曲者本人による五重奏アレンジの本邦初演である。ミニマル・ミュージックの手法で書かれたこの作品は、無機質なパターンの反復と、時折顔を覗かせるエモーショナルなフレーズの対比を中心にし、都会=メトロポリスの人ごみの中、肩がぶつかったときにふと感じるようなひとりぼっちの孤独感が描かれている。同じ音形をひたすら正確に演奏し続ける集中力、ここぞという場面でしっかり主張する瞬発力など、他の曲とはまた違う形で現れる彼らの高い演奏技術に瞠目させられる。以前まで演奏していたレパートリーとはやや毛色の異なる本曲をここまで魅力的に聴かせられるのは、彼らもアンサンブルとして止まることなく歩み続けている証左だろう。メインは、プロコフィエフの『「ロメオとジュリエット」より』。『スペイン狂詩曲』『パリのアメリカ人』に続く恒例のオケ編コーナーであり、過去最大の編成を誇る大曲が掉尾を飾る。ロメジュリは指揮者によってどの曲を抜粋してくるかが異なり、そこにも個性が見える。今回演奏したのは、「民衆の踊り」「マドリガル」「仮面」「モンタギュー家とキャピュレット家」「ローレンス僧」「決闘」「ジュリエットの死」の7曲。メンバーの渋谷による渾身のアレンジで、原曲の雰囲気を損ねることなくクラリネット五重奏として生まれ変わらせている。代償として難易度が信じられないくらい高くなってしまっているが、そこは限界を超え続けるPenta-CLam。真っ向から対峙し、見事に演奏しきった。
アンコールとして、ツアー・タイトルにもなったベッド・ミドラー『From a Distance』と、NHK連続テレビ小説「虎に翼」の主題歌『さよーならまたいつか!』を披露。カーテンコールのMCでも笑いが起こる和やかな雰囲気のもとで幕が降りると、その後は大サイン会の幕開け。最初から最後まで、観客の笑顔があふれていたすばらしいコンサートだった。


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