クラリネット記事 田中正敏 Masatoshi Tanaka
  クラリネット記事 田中正敏 Masatoshi Tanaka
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The Clarinet ONLINE

田中正敏 Masatoshi Tanaka

田中正敏

クラリネット奏者の田中正敏氏が、5月26日に音源配信のみとなるアルバム「2020Stay Home Project-PRAYER-」をリリースした。コロナ禍によって活動が制限されている今、録音から音楽配信の申請までのすべてを自身で行なったという。そこで、新たに取り組んだニューアルバムについて話を訊いた。

協力:クリエイティブ コンプレックススタジオ

楽器演奏よりも100倍以上疲れる

まずはじめに、4月以降、コロナウイルス感性症によって活動が制限されていると思いますが、田中さんはステイホーム期間中、どのように過ごされていましたか?
田中正敏
(以下、田中)
クラリネットに関することでは、まず3月28日にクラウドファンディングを使って若手とともに無人観客ライブを実施しました。その後は自宅で楽器を吹くしかないので練習に明け暮れた日々でした。若い頃の練習と今が異なるのは、やはり視野の広さが格段に違います。若い頃はひたすらガムシャラに楽器を吹いていました。いわば新幹線の車窓からの景色。61歳になった今は、徒歩で散策しながら見える景色とでも言いましょうか、作品の持つ空気感を楽しみながら練習し、今まで見えなかった景色に気づきニヤニヤしてます。
クラリネット以外のことでは、私はすぐホームシックになるタイプなのです。毎日、家族の顔が見え、家族と一緒に食事し、毎晩の晩酌、大好きな仲間たちと終電の心配がいらないネット飲み会、そしてなんと言っても自分の枕で眠れる!! そんな生活はぶっちゃけとても嬉しかったです。おまけに炊事洗濯など家事の技も大いに身につきました。そして母親が後期高齢者なので何かと心配、高齢者の見守りという部分でもとてもよかったです。
 
さて、今回の音源配信のみとなるアルバムは、2020 Stay Home ProJectというサブタイトルがついています。コンセプトやテーマなどあれば教えてください。
田中
最初、J.S.バッハ作曲『無伴奏 フルートのためのパルティータ』を録音してサウンドクラウドにアップしてみたら、多くの反響があったのです。特に従兄弟の友人のコメントに「やっぱりバッハは祈りですね!」というコメントがありました。それがきっかけで、私の家族から世界のすべての人々の健康を自分が奏でる音楽と共に祈願しようと決意しました。最初は1〜2曲録音して満足していたら、いつの間にか10曲を超えてしまいました。
 

サウンドクラウド(ダウンロード不可)
https://soundcloud.com/masatoshi-tanaka-3

wix(ダウンロード可・有料)
https://maxfshng.wixsite.com/mysite

TuneCore Japan(音楽配信各社へのリンクページ)
https://www.tunecore.co.jp/artist/MASATOSHI-TANAKA

 
田中正敏
 
重ね録りをされていますが、レコーディングはどのようにして行なわれたのですか?
田中
ある日、教え子の提案が飛び込んできました。私が録音したパートに合わせて教え子の自宅で二重奏を練習したいとの提案でした。これは面白そうだと思い、日々我が家の和室にある簡易録音機材のクオリティの低さ(録音機材と自分の演奏両方のクオリティの低さ)と戦いながら録音作業をしてました。そんな録音の苦労話をSNSで呟いていたら、友人のレコーディング・スタジオ・マネージャーが私の呟きを拾ってくれて……「ウチの最高級コンデンサー・マイクを貸すから師匠の演奏を録音してみたら!?」という神のお告げ!!(彼は私の教え子でもないのに私を師匠と呼ぶ)
その後は最高級コンデンサー・マイクで録音する日々が始まりました。最高級コンデンサー・マイクのおかげで、自宅録音に没頭してました。また、某有名ライブハウスに勤務する昔の教え子も巻き込んでこだわりのインターフェイス、こだわりのマイク・セッティングの研究とお金をかけました(笑)。現在もこだわって没頭中!!
録音時のセッティングは、マイクがノイマン U87Ai(前半)とオーディオテクニカ AT2020(後半)。パソコンはMacBook Pro、インターフェースはフォーカスライトのスカーレットソロ、アプリはガレージバンドです。
田中正敏
田中正敏
 
誰もが知っている日本の童謡も収録されていますが、選曲はどのようにされましたか?
田中
世界中の多くの人々のことを思い、バッハや『ふるさと』など知名度の高い作品を、そして、P.M.デュボワ作曲のエチュードは私が大好きな作品なので愛情たっぷり注入してます。
 
全曲という答えが返ってきそうですが、収録曲でお気に入り、オススメを教えてください。
田中
その通りです! すべてです!! バッハ=世界的祈り、ふるさと=知名度の高さと鋒山純也の絶妙な編曲、エチュードと呼ぶにはもったいない色彩感に溢れ、まるで宝石箱のような(某、食リポーターではないが)P.M.デュボワ作曲のエチュードです。
 
今回のアルバムの聴きどころは?
田中
ヴァイオリン、ピアノの作品を演奏するには長いフレーズ表現が必要です。循環呼吸ができない私は、息を効率よくリードの振動に使うかが肝になります。また、多重録音を経験することで自分の悪い癖が明確になります。それを修正しながら録音していく過程はめちゃ楽しかったです。録音作業中「コレって本当に俺かよ!?」なんて場面がたくさんありました(笑)。
アルバムの聴きどころもそうですが、でき上がったアルバム(音声ファイル)を音楽配信各社への申請手続などに莫大な時間と労力がかかることも一緒に感じていただければと思います。特に若手演奏家の皆様! 楽器演奏よりも100倍以上疲れます!! きっと使う脳がまったく違うのでしょうね(汗)。
 
最後に、今回の収録で使用されたクラリネットとセッティング(マウスピース、リガチャー、リード)を教えてください。
田中
楽器はセルマー・パリ社のシグネチャー。マウスピース(歌口)はバンドーレン社のブラックダイヤモンド5番。リガチャー(締金)はルイベン緑、リードは、ダダリオ社のリコ・シックブランク・アンファイルド4番です。
 
ありがとうございました。
 
 
 
Profile
田中正敏 Masatoshi Tanaka
クラリネット奏者。子どもたちは踊り出しお年寄りは歌いだす! クラシックから演歌やポップスまで彼の奏でるクラリネットの音色に皆が時を忘れてしまう。クラリネットのサウンドを最大限に生かし、聴衆の心をつかむ演奏で緊張を解きほぐし、各種イベントを盛り上げている。福祉の現場では医療スタッフから喝采をあびる。彼は実に様々な現場で演奏してきた実績多数。楽器と環境をテーマにしたお話しと映像をとりいれた、“アフリカン・ブラック・ウッド・ライブ”など、特色あるライブを実施。クラリネットと音楽を通じて地球環境について発信する数少ない音楽家。音楽大学の学生と共に約30年続けているクラリネット・サロンでは、学生自身が合宿運営し地域に向けた投げ銭ライブを敢行する。生活に根差した教育活動を実践している。楽器選定実績、多数。小学校・中学校・高等学校ウインドバンドでの指導実績歴は約40年。卒業後も演奏を続ける若手にファンが多く、2013年よりクラリネット教室を開始し奏法指導を行なっている。 国立音楽大学卒業後、フランス国立パリ高等音楽院を日本人では数少ない一等賞で終了。 2017年と2019年、チェコ共和国プラハ芸術アカデミー主宰『クラリネット・デイズ』の講師を務める。東京学芸大学と洗足学園音楽大学の講師。NPO法人「街角に音楽を」理事。(株)キャンプ・プラネッツ取締役。

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