クラリネット記事
The Clarinet vol.59 Close Up

デイヴィッド・シフリン

アメリカの主要オーケストラを渡り歩き、現在はソリストとして、そして教育者としても活躍するクラリネット奏者、デイヴィッド・シフリン氏。The Clarinet 59号の誌面では大いに語っていただきましたが、このページでは誌面に掲載しきれなかったインタビュー内容を掲載します。

取材協力:ドルチェ楽器 翻訳:鈴木生子(クラリネット奏者)

ストコフスキーとの対面オーディション

デイヴィッド・シフリン

デイヴィッド・シフリン(以下シフリン):ストコフスキーのオーディションは他の指揮者とは随分違っていました。ニューヨークの5番街にある彼の大きなマンションの御宅の中のスタジオで聞いてもらうのです。誰かに推薦された場合には、いつでも彼のオーディションを受けられるという形で、私は19歳か20歳だった時に受けました。
それは何とも大変で、長時間演奏し、また会話もしながら行われました。その間、彼はノートを取っていました。
オーケストラに欠員が出た時、彼はそのノートを見直し、次の候補を選ぶのです。当時、アメリカ交響楽団首席奏者だったフランクリン・コーエンが、バルティモア交響楽団に移籍したため、私に連絡が入りました。まだ学生だった私はオーディションを受けたことをすっかり忘れていたので、電話が来たときは「本当に?」という感じでした。

鈴木生子(以下鈴木):どんな作品を演奏したか覚えていらっしゃいますか?

シフリン: あらゆる作品です。モーツァルトの協奏曲はもちろん、その頃演奏していたニールセンの協奏曲のカデンツァの部分や、オーケストラスタディーです。彼がクラリネットのオーケストラスタディーの本を持っていて、その中のいわゆる代表的なクラリネットの旋律をたくさん演奏しました。
現在行なわれているオーケストラのオーディションとは、状況が随分違いますね。今はどこに行っても倍率が高く、ほとんどの人がスクリーンで5分吹いたら……もう終わりです。

多くの作品のレコーディングに専念

シフリン:(誌面で紹介した)シッコリー作品の他に、リヒャルト・ダニエルプア (Richard Danielpour)、アーロン・J・カーニス (Aaron Jay Kernis)の弦楽四重奏とクラリネットの作品や、デイヴィッド・シフ (David Shiff)が、デュークエリントンの作品をクラリネットとピアノに編曲したもの、更にプーランクの作品も録音します。
実はプーランク作品は一度も録音したことがないのです。ソナタ、2本のクラリネット、クラリネットとバスーン、編曲されたトリオではオーボエパートを吹きます。
また別のCDでは、バッシやロッシーニなど、オペラ作品の編曲ものを録音します。
もう1つ、ルネ・オース(Rene Orth) という若い女性作曲家が、ニールセンの協奏曲を9つの楽器(シューベルトのオクテットの編成に、スネアドラム) の室内アンサンブルに編曲した素晴らしいバージョンや、同じくニールセンの作品、かいなきセレナーデや、木管五重奏曲、幻想曲を収録します。幻想曲は彼が学生の頃に作ったクラリネットとピアノの作品で、とても美しく、まるでシューマンのようですよ。

鈴木:本当に多くの作品を録音されるのですね!

シフリン: そうなんです。何ヶ月か教える仕事をお休みして録音します。

鈴木:シフリンさんは様々なプロジェクトをこなしていらっしゃいますが、それぞれのバランスはどのように取っていらっしゃるのですか?

シフリン:演奏を軸に考えていますので、練習時間をしっかり取ることを大切にしています。イェール大学で6人に教えていますが、その人数が私にはちょうど良いと感じています。一時期はジュリアードと掛け持ちしていましたが、教える仕事が多すぎてバランスが難しくなったため、現在はイェール大学だけに絞りました。

まずは美味しい白ワインを……!

鈴木:普段はどのような練習を大切にしていらっしゃいますか?

シフリン:クローゼの123ページから5ページ分くらいをさらいます。私の持っている版では、全調のスケールと3度、分散和音、アルベジオなどを扱っている部分です。そして、ゆっくりスケールを吹いたり、ロングトーンしたり、また、一番下の音からスラーで半音、全音と広げ、3オクターブまでのシリーズや、それと同じ事を真ん中の音域から始めて下がったり、上がったり。いわゆるウォームアップですね。どのくらい時間があるかでメニューは変わりますが、15分から1時間くらい吹きます。それから本番で吹く作品を練習します。何日かオフの日があった後は、いつもこれらのウォームアップをします。そして、いくつかのエチュード、例えばカヴァリーニやローズ、またバッハのヴァイオリンのためのパルティータなども吹きますね。

編集部:シフリンさんの演奏には、とても美しいヴィブラートがかかっています。クラリネットにはヴィブラートをかけない、と言われることもありますが、その辺りのお考えをうかがえますか?

シフリン:その作品の内容によります。例えばブラームスの交響曲では、あまりかけません。ブラームスの室内楽は、部分によりますね。リヒャルト・ミュールフェルト(ブラームスの友人の名クラリネット奏者)はヴィブラートをかけるというのをどこかで読んだことがあります。彼はクラリネット奏者である前にヴァイオリン奏者だったということもあるでしょう。コープランドの協奏曲でも、私は使います。
ただ、どんな楽器でもヴィブラートのかけすぎは良い感じがしませんね。それぞれのフレーズに合うかどうかを考えて決めています。

私がカーティスの学生時代、管楽アンサンブルの授業で指揮をしていたオーボエ奏者のジョン・デ・ランシーの言葉で、ヴィブラートに関する大好きな文章があります。「悪い白ワインに泡を加えても美味しいシャンペンにはならない」(笑)。

デイヴィッド・シフリン&鈴木生子

通訳を務めてくれた鈴木生子さんと

デイヴィッド・シフリン│David Shifrin
クラシック音楽界で国際的に活躍しているアメリカ人クラリネット奏者。アメリカ国内外の有名なオーケストラと多数協演。これまでクリーヴランド・オーケストラ、アメリカン・シンフォニーなどの首席奏者を経験。以前はジュリアード音楽院などで教鞭を執っていた。1992年から2004年までリンカーンセンター室内音楽協会の芸術監督を務める。これまでの録音では3度のグラミー賞ノミネートを始め、バセットクラリネットで演奏録音されたモーツァルト・コンチェルトはとても評価が高く、Avery Fisher Prize など数々のアワードを受賞。現在、イェール大学教授として後進の指導にあたり、ソロ活動やチェンバーミュージックなどの活動も精力的にこなす。



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