2017年度 全日本吹奏楽コンクール 課題曲徹底攻略
毎年夏に熱い闘いが繰り広げられる「全日本吹奏楽コンクール」。全国の中学生から大人たちまで、吹奏楽愛好者にとっては課題曲をどのように練習していくかは今の時期の最大の関心事かと思います。The Clarinet vol.63ではクラリネット奏者の坂本和彦さんに、課題曲I~IVのクラリネットパートをより良い演奏にするためのアドバイスを書いていただきました。このページでは誌面と連動し、坂本さんにコンクールに対しての心構えや準備に関するコラムを公開します!
課題曲を演奏する前に
今回の「The Clarinet 63号」が発売される頃には、課題曲の譜読みはとっくに終わり、一通り曲らしく仕上がっている団体も数多くあるのではないかと思います。今さらと思われる部分もあるとは思いますが、そういう部分の再確認も含め、少しでも良い演奏へのヒントにお役立ていただければ幸いです。
さて、皆さんは普段はパート譜だけを見て演奏していることと思います。パートリーダーやセクションリーダーは、もうすでに見たり研究したりしているかもしれませんが、演奏者一人ひとりが、ぜひフル・スコア(総譜)やコンデンス・スコアを見て、他の楽器との関連性やコード進行などの全体を十分理解した上で演奏するようにしてください。また、楽譜に出てきた楽語(音楽用語)は必ず意味を調べて理解しておきましょう。音楽用語はほとんどがイタリア語ですが、音楽事典だけでなくイタリア語の辞書で本来の意味を調べると、意外な発見があり、より深く曲を知る手がかりとなります。
コンクール演奏時に気をつけたいこと
コンクール演奏で一番困るのが、直前に音出しができないことではないでしょうか。せっかく控え室でチューニングしたのに、前団体の演奏を静かに待っていると、空調で楽器も冷やされてリードは乾燥し、本番でこんなはずではなかったという思いをした人も少なからずいるのでは?
楽器がなるべく冷えない対策としては、
1.楽器を空調の風に直接当たらないようにし、なるべく体に密着させて温める
2.ベルをスワブで塞ぎ、トーンホールは全部塞いだ状態で、音が出ないようゆっくり楽器の中に暖かい息を入れる
(ただし、演奏時にスワブをとるのを忘れないように!)
3.リードは乾燥しないように、湿らせたティッシュなどで時々拭く
4.日頃よりチューナーに頼ることなく、耳を使って音を合わせることができるようにしておく
(日頃よりユニゾン練習や4度、5度などの倍音練習、ハーモニー練習、音階練習で合わせることが一番有効です)
E♭Clarinet、Alto Clarinet、Bass Clarinetも吹奏楽では大変重要なパートです。B♭Clarinetと運指は基本的に同じですが、楽器を鳴らすポイント(ツボ)や音程感が異なるので、しっかりとソルフェージュをしながら演奏する必要があります。息をしっかり支えることで音程も安定しますので、日頃からチューナーだけに頼らず、自分の耳を使ってロングトーンなどで正しい音作りをしておきましょう。またリードによっても音程は変わります。安定した音(音程・音色・響き)の出るものを選びましょう。
楽器の整備(メンテナンス)も演奏を大きく左右します。コンクール本番直前にバネが折れてしまった、コルクが剥がれてしまった、パッド(タンポ)が取れて音が出ないなどなど、トラブルは発生するものです。コンクール前だけでなく、日頃よりこまめにメンテナンスをしておくと、いざ本番という時のトラブルを防ぐことができ、安心して本番に集中できますね。
また、普段練習している教室や練習室とホールで出す音の違いに驚くこともあるでしょう。あらかじめホール練習などができる恵まれた団体は良いですが、そうでないと戸惑いますね。 自分の出した音がほとんど聞こえない……隣や他の楽器の音が遠くに感じられ、どれぐらいのバランスで吹いたら良いかわからない……その結果、普段より小さく吹いてしまい、萎縮した演奏になってしまった、ということもあるのではないでしょうか? コンクールは一発勝負! 日頃のバランスを信じて、練習通りの音量(息の入れ方、鳴らし方)でのびのびと演奏することを心がけましょう。大事なのは日頃から本番の状況を想定(シミュレーション)して、音楽に集中しているかどうかです。結局は日頃の練習が本番にも出てしまうということですね。本番だけうまくいくということは、まずありません。
皆さんも本番を想定して、どういう状況でも実力を発揮できるような工夫を考えておきましょう。
審査する際にどのような点を聴く?
審査員の構成は、通常5名~7名のうち木管及び金管が2~3名、打楽器1名、指揮(指導)者及び作曲者1名という内訳が一般的のようです。したがってクラリネットの専門だからといって、クラリネットだけを聴いているわけではなく、木管楽器全体や吹奏楽全体として音楽を、技術・表現の観点から評価するようにしています。もちろん審査員一人ひとりの考え方も色々あり、その方の信条に従って審査されているので、ひとくくりには言えない部分もあります。基本的なことでは、音程(ユニゾンのメロディやハーモニー)、リズムやアーティキュレーションの正確さ、サウンドのバランス(他の楽器とのユニゾン、メロディ・伴奏など)、音色(楽器本来の美しい音や他の楽器とのブレンドした色彩感ある音作り)などが挙げられます。音楽的な表現要素では、フレーズの扱い方や歌い方、音楽の流れ、スタイルなどが挙げられます。 これらの観点から、クラリネット・セクションはじめ他の楽器が、それぞれどのように役割を果たし、音楽を表現しているかということを評価したいと思っています。そして、音楽に真摯に向き合っている演奏、一人ひとりが自信に満ちあふれ、音楽をよく理解し積極的に、生き生きと演奏している姿はとても共感し、感動します。
音楽全体がスケールの大きい素晴らしい演奏であれば、多少の失敗はまったく気になりません。失敗を恐れることなく、のびのびと演奏してほしいと願っています。このようにすれば評価されるというような余計なことは考えないで、音楽にひたすら集中すること。コンクールといえどもコンサートの一つと考え、楽しむぐらいの余裕がほしいものです。そのためには、短時間でも良いので日頃より本番を見据えた集中した練習を心がけたいですね。
会場で皆さんの素晴らしい熱演に出会えることを、今から楽しみにしております。
坂本和彦
熊本市生まれ。熊本大学工学部中退。国立音楽大学音楽学部器楽学科クラリネット専攻卒業。(学)尚美学園にて専任講師及び助教授を歴任。教育活動を行なう傍ら在京オーケストラ、吹奏楽団を中心にクラリネット奏者として演奏活動を行なう。リサイタルやアンサンブルなどの演奏発表も行なう。在職中は「尚美デイリートレーニングパターン集」クラリネット・パートのテキスト執筆をはじめ、「尚美ウインドオーケストラ」の国内外演奏旅行やレコーディングの企画運営に携わる。また、吹奏楽コンクール、アンサンブルコンテスト、ソロ・コンテストなどの審査員を長年に渡り務める。近年では中・高生や一般吹奏楽団、オーケストラ、アンサンブル団体などの指導サポートに力を入れ、音楽の楽しさを伝えるべく各地での活動を展開している。元日本クラリネット協会常任理事。元日本管打・吹奏楽学会理事。