生と死、ぎりぎりの狭間で見つけ出す答えとは?
コロナパニックで、世界中が被害を受ける日々が続く。
震災や原発など、一部の限定地域を直撃する被害だけでも他人事とは思えない悲劇であるというのに、そこへ、誰の身にも平等に襲いかかるウィルス攻撃が起こった。
いったい、これは何を意味するのか?
映像を見ながら、その恐怖を追体験することで、冷静に人生を考える機会になるのではないか。
この種の疫病映画ジャンルには、脅し系のホラーでC級ものもあるので、ちょっと選択に注意が必要だが、「ザ・ペスト 完全版」(原題BLACK DEATH/2001年・ドイツ製作)~完全版180分~は、ジャーナリスティックな視点で見せるシリアスな作品である。
かつて絶滅したはずの黒死病が、再び復活する危機が訪れるところから始まる。政府が都市を大々的に封鎖する中、方策を失い、果ては、市民に対して非常な手段を使おうとするのだが……。
一方、ワクチンを開発する対策チームが、命がけで対抗する。
中世の欧州、アジアで広がったペストは、ネズミによって拡散された、と伝えられている。だいたいのペスト映画でも、ネズミが前提になっている。ネズミがペスト菌に感染すると、ネズミの血を吸ったノミに菌がうつり、感染したネズミが死ぬと、宿主を失ったノミは、人間を襲う。そのとき、菌が人間の血管に侵入するというわけだ。
最近は、ペスト菌が実はネズミ由来ではなかった、という学者の新説もあるらしいが、映画ではあくまでネズミ説で展開する。
本作で最も興味深いテーマは、真実を隠蔽し、人民を見殺しにしようと目論む政府の陰謀である。まさに、昨今の光景にダブるようなシーンの連続で、怒りを共有できるはずだ。
次に「バード・インフェルノ 死鳥菌」2006年・米ニュージーランド(原題 FATAL CONTACT:BIRD FLU IN AMERICA)は、鳥インフルエンザが中国で発生し、感染病の専門医が報告を受けるも手遅れで、ひとりの男性がアメリカに菌を持ち込んでしまった。そんなところから始まる。
広がる感染と同時に、街は閉鎖され、食料は奪い合いとなる。
逼迫した医療現場の看護師、初の感染者家族などの話がリアルに映し出され、みるみる世界中に感染パニックが広がっていく。
まるで現在のコロナパニックに重ねられて、ひたすら恐ろしいが、いまやお化け映画の脅しではなく、現実と重なるから落ち着いて観たい。
昨今のコロナ禍については、医療従事者から一般人まで、いまやその怖さは十分感じとっていると言えるのかもしれないが、他人事のようにのんびりと構えている政治家らの顔つき、対処法を見ていると、鈍感なのか無責任なのか、不思議で仕方ない。
たとえ、どんなにめいっぱい動いていても、焦りで悲壮感がいっぱいになっているのが今の状況だと思うが、自ら「よくやっています感」を吹聴する言動は、「責められたくない感」にしか見えず、「安心感を与える目的」には決して見えないから、情けなく、腹立たしい。
話を戻すと、 本作は、ジョーン・キューザックファミリーの姉、アン・キューザックが主演し、監督もリチャード・ピアース(「ノーマーシー」、「カントリー」)とメジャー系で、いわゆる安っぽいホラータッチではなく、共感できると思うが、ラストシーンは賛否があるだろう……。
そして、ペスト菌といえば、巨匠イングマール・ベルイマン監督による「第七の封印」(57年、スウェーデン)が最も格調高い芸術作品。本作が代表作といえる主演の騎士役、マックス・フォンシドーが、なんと、今年の3月に死去したばかり。
本作は、ペストが蔓延する中世ヨーロッパが舞台。十字軍の遠征から、むなしく帰還した騎士が主人公の物語。
騎士は、自分の後を死神が追ってきていることに気づく。死を宣告された騎士は、死神に対して、チェスで勝負をつけようと命に懸けて申し出るのだが……。
かくも死神と対峙しながら、騎士は妻の待つ城に向かう道すがら、さまざまな人々に会う。
疫病のせいで家族を失った少女、犯罪者になった聖職者、女房に駆け落ちされた鍛冶屋、火あぶりにされる魔女、貧しい旅芸人の一家……騎士は、やがてそのうちの数人を仲間に入れて、旅を共にする。
死神との勝負は、いつ終わるのか?
生と死のぎりぎりの狭間で、最後に答えを見つけ出すシーンがなんとも美しく、救いがある。
ジャーナリスティックなリアル映像とは対照的に、哲学的なテーマを扱うアート作品。第10回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。2013年、デジタルリマスター版でリバイバル公開した。
さて我々の世代は、ほぼやりつくした感があるため、もはや死神とチェスをしながら生きながらえているようなもので、こうした時期の自己問答は、それなりに意義深い。
ただ同時に、若者たちに何が残せるのか?
どんな状態で次の世代にバトンタッチできるのかを考えると、この状況では、あまりにも不安だ。
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
N A H O K Information
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
問合せ&詳細はNAHOK公式サイトへ
PRODUCTS
フルート、オーボエ、クラリネットなどシングルケースに入れたまま、ほかのものも一緒に、ざっくりと入れられる軽量バックパックスタイル。
NAHOKボストンバッグと同じような仕様で、1枚仕立てにより、軽いです。
内側に起毛素材による仕切りポケットがひとつあり、ハードケースをそのまま収納することもできます。
B4譜面ファイルから、シングルケース、小物までがっつり放り込める、大ぶりの防水リュックサックです。
止水ファスナーで全面を覆っているため、左右どこからも雨が漏れません。
ハンドメイドスネアドラムケースbigger size「Great Gatsby 2」
ドイツ製防水生地直輸入。NAHOKのデザインはエレガントに、それでいて強度はどこまでも強いものを目指し、手間暇、コストをかけています。
最近はサイズを大きくしてデザインに凝り、ハンドメイドで工業用の特厚ファスナーとベルト用に強力ビスを使用。丁寧に製作しました自慢の逸品です。
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