ストイックな女のロマン
相変わらず、日本のマスコミは騒がしい。
コロナ禍で、人々が未曾有の危険にさらされるなか、オリパラ、総選挙、はたまた、次の話題は皇室か。
日本のプリンセスの結婚に不釣り合いと言われる男性に対して、多くの否定的な意見があるなか、ご結婚は強行突破となった。
フィアンセの彼を空港まで追いかける撮影が、スクープと言われる時代? セキュリティー費用ももったいない、国民の税金からだし……と思うのは、私だけだろうか?
皇室は、“国民の象徴”だから、一般人との結婚が決してどうでもいいわけではなく、議論する意味はあるのかもしれない。
が、トップスターや犯罪者でもあるまいし、ただ歩くだけの姿を追いかける価値は? ただ、“ネタ”に向かうだけのマスコミの姿は、とりわけ映画の中では、マヌケな存在として描かれることが多い。
ジャーナリズムとは違う方向だ。
しかし、このご結婚に反対している多くの国民が、美しい若者たちの恋愛に対して“小姑”根性になって、ただちくちくといじめようとしているのかというと、そうでもないだろう。この件では、批判のコメントを、しっかりした論理のある表現で表す人が多かった。
つまり、一般人の反対意見は、むしろ“恋愛ではない感じ”がしているから、苛立ちを感じているのである。
貧富や身分差の恋愛は、映画の世界でも共感を得てきたが、むしろそこに、ピュアな気持ちでないものが見えるから残念なのだ。
一般人でも芸能人でもない、皇室だから、セキュリティー対応もあり、ただの格差結婚とは違うだろう。
おなじみの映画「ローマの休日」(米・1953)では、プリンセスと新聞記者のほのかな恋心は、世界中で愛された。
王女が、記者のアパートで小さなキッチンを見て、ここで料理をして二人で過ごせたら……と数秒間、思いを馳せるシーンが印象的だ。
やがてプリンセスは元の王女姿に戻り、つかの間の愛を胸に秘めたまま、記者会見の場で別れを告げる。
公的な場で、一番楽しかったところは?と、別の記者に聞かれて、王女は言う。
「ローマ……」
この一言に、秘められた愛がにじむ。
翌日から、プリンセスは、公務に戻る。
世界のアイドル、オードリー・ヘプバーンが、可愛いだけでなく、ストイックな女のロマンを見せた。
映画「エリザベス」(98年・英)では、マニッシュ系インテリ女優、ケイト・ブランシェットが眉をつるつるに剃り、実物に近づける素顔メイクに挑戦。男性も顔負けの力で、国を治めるに至った実在のエリザベスⅠ世の生い立ちや過去のいきさつが、ドラマチックに描かれた。
結婚のアプローチは各国からあったが、女王の立場では政略結婚で利用されるだけだから、全部お断りしている。
一度、身分差のある男性と恋愛関係になるが、若い侍女との二股で裏切られるも、立場をわきまえて冷静な判断でストイックな愛に変換させている。
虐げられた幼少時代、恋の裏切りを乗り越え、即位したエリザベスが、今度は、“女性に政治は無理だ”と烙印を押されそうになり、切り返すセリフが潔い。
「わたくしは、ただの女ではありません。男の心を持った女です」
また、結婚に関するコメントは、自分らの決意のもとに言った。
「私は、イギリス国家と結婚します」
もちろん、国も時代も立場も役回りも違うので、日本の皇室ヒロインに、こんなストイックさを求めているわけではない。
が、女性総理が近づく時代の流れで、もしかして女系天皇も誕生する可能性があるのだとしたら、つまり皇室というものが存続するのだとしたら、女性の立場も変わってくるし、もうちょっとタフな教育方針でもいいのではないかと期待する。
せめて、皇室を出るとしても、NYの弁護士を目指すのがプリンセス真子さま本人であるならば、キャリアに向かう姿は、時代の象徴として興味深いのだが……。
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
N A H O K Information
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
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