犯人の精神分析と映画
再びコロナ危機に突入する中で、元首相と関係があったカルト教団に対する恨みで大胆な殺人に及んだ事件が、世間をにぎわせている。
30年前のカルト教会による洗脳事件を、今の若者はまったく知らないから、感覚的にもピンとこないだろう。
しかし、昔の話ではなく、現在も、まだこのカルトが健在で、それどころか、被害者は加害者となり、信者は増える一方で、したたかな政治家の間にまで深く浸透してきた現実を知り、日々衝撃を受ける。
若い方々には、ぜひ知ってもらいたい。
30年ぐらい前といえば、私は映画解説者としてテレビで知られていた時期で、
講演も、企業や公的機関など、依頼者は実にさまざまだったがそのとき、ある講演依頼により“なんか、おかしい、匂う!”という感覚があったことをいまもリアルに覚えている。
テーマはなんでもよく、大きな会場で、講演料はいつもの数倍もあった。
たまには、こんなギャラでいいかも、と思いたかったが、カンが働き、ネットのない時代に、とことん調べたら、“統一教会”に行きついた。
これは、潜入捜査をする、ちょっといいチャンスかもしれない、と刑事なりきり系キャラの自分としては、手柄欲しさにむらむらしたが、最終的には、奢りを捨てて、断念した。敵う相手ではない。
番組の女性スタッフが、先に洗脳されて話題になっていたタレント、飯干恵子さんの番組も担当していたため、よけいに、出かけるのをやめるよう、強く戒められた。
そのほかにも、某有名大学の原理研究会から、あなたのイベントでスタッフを無償で貸し出すから、その代わりに、無償の講演をしてほしいと政治家方式で頼まれたり、道端で、「転機が来ています」と声をかけられ、壺を薦められたりもした。
そういう時代を経験した世代で、洗脳事件を忘れている人はいないだろう。
最近の分析では、まじめに働く、独り者のキャリアウーマンが狙われやすいとか。
音楽家も、他人ごとではないので、注意してほしい。
当時、洗脳されてしまったタレント、飯干恵子さんは、父親が著名な作家、飯干滉一氏で、熱血系のタイプ。
映画「仁義なき戦い」の原作者で、ハードな実録ものが多く、娘がまさかのターゲットになった。
このとき父親が、娘の心に寄り添って説得した姿が印象的で、感動した人も多い。
結局、父親は娘を見事に脱会させることができた。
洗脳された人の状態は、自分が自分でない状態になっているのだろう。
もはや、悪魔に憑りつかれ、モンスター化した人間の魂を取り戻すために中に入った悪魔と命がけで闘う牧師、“エクソシスト”が必要だ。
ホラー映画のタイトルにもなっているエクソシストは、実在する職業だ。
作家の飯干氏は、娘を救うため、自らエクソシストとなった。
一方、今回の犯人の山上は、モンスター化した母親を助けることはできなかった。
そんな特異なエクソシストに巡り合うチャンスがなかったのだろう。
彼は、彼のツイッターアカウント(今は消えている)でこう、つぶやいていた。
「オレは努力した。母の為に」
「オレは母を信じたかった」
また、かの凶悪な連続児童殺人事件を犯した少年Aの母親について、わざわざつぶやいている。
「この感覚はウチの母親に似ているから分かる。
言葉では心配している、涙も見せる、だが現実にはどこまでも無関心。
こんな人間に愛情を期待しても惨めになるだけ。」
殺人犯を主人公にした映画のようなセリフが強く印象に残る。
1997年、神戸の連続児童殺人事件の加害者、少年Aは安倍元首相殺人事件の犯人、山上と現在、ほぼ同じ年齢だ。
事件後に少年Aの母親が、手記「少年A この子を生んで」を出版したが、母親の感情は薄く、つかみどろこのない、子どもや事件に対する妙な淡白さ、無関心さが心に残った。
山上も、たぶん、それを読んでいたのだろう。
自分の母親に似ているとつぶやいている。
少年Aの殺人事件では、その母親たる心理について、興味深かったのかもしれない。
そもそも山上は、宗教に走る母親により育児放棄されたネグレクト児童だった。
唯一、子どもへの関心は、障害者である兄のみにあったと感じていた。
それでも、父親が自死し、母親がモンスター化したあと、山上は、兄妹のために保険をかけて、自殺未遂を図ったこともあるという、けなげな兄弟愛もあった。
よく、特異な殺人を犯す犯罪者は、ホラー映画ファンという偏見がもたれている。
おぞましい殺人者の家から、ホラービデオが出てきて、私も取材を受けたことがあるが、それは、一般的なホラー映画ではなく、残虐映像としか言えない代物だ。
要は、性癖というか、そもそもが、残虐趣味なのだろうとしか思えない種類。
それとホラー映画ファンを一緒にしてもらっては困る。
その点、山上が傾倒したホラー映画は、タイトルがツイッターアカウントにもなっており、意外にも、明るめの健全なエンタテイメント映画である。
映画「サイレントヒル」(2006年、米)は、悪魔の教団を題材にしたウーマン・アクション・ホラー。ヒロインが娘を、えぐい女性教祖と闘いながら命がけで助ける物語。
ここでは、ヒロイン=母が、女性教祖率いる悪の教団にひき込まれた娘(養女)を、血のつながりがないにもかかわらず、不気味な教団の住処を追い詰めて、バッタバッタと倒していく姿が、痛快だ。
山上の映画の見方は、なりきり型の直球で、映画に自分の状況を重ね、理想の母親像を、ヒロインに求めているようだ。
病んでいるとは思えない精神状態だと私は、感じる。
この映画では、「子どもにとって、母親は神」というセリフが2度も出る。
現実は、何があっても目が覚めない母親に絶望しながらも、自分にとっては、希望のヒロインであってほしい。
まさしく、自分の願望を写し出しているのだろう。
息子と母親の精神的な関係は、より特別になりやすい。
特に犯罪者になってしまう場合は。
ネグレクト母などとっとと忘れて、自分の道を行けばよいのだがそうはいかないのが、愛憎関係なのか。
ただ山上は、人間の命を奪う、という決して犯してはならない殺人事件を実行したことに違いないが、単なる、誤った“思い込み”による計画ではなかったことは確かだろう。
報道の印象操作が、のっけから行われたことに、事件との関連性をにおわせた。
日本人の弱みにつけこみ、“洗脳”という武器で、魂と財産を奪った隣国のカルト教団に対して、母親を奪われずとも怒りを感じるのは当然だ。
広告塔となる政治家は、持ちつ持たれつ、の関係で直接的な被害はないようにみえるが、この関係は、実際、被害者となっている国民の不幸の上に成り立っていることをかけらも想像しないことが一番恐ろしい。
それどころか、教団の名前変更にはじまり、教義が政策内容にまで持ち込まれる可能性も危惧されている。
もはや、映画「エンゼル・ハート」(87、米)のように、彼らは悪魔に魂を売ったのか?大きな野望のために悪魔に魂を売るというテーマが、描かれた。
映画の表現は、常に誇張されるが、真実を追求する姿勢は絵空事ではない。
それにしても、日本は、美しい国を目指したのではなかったのか。
新たなコロナ汚染のはじまりと政治家のカルト汚染の真実が暴かれるなか、もはや、音楽家たちの美しい音だけが信じられる。
MOVIE Information
「サイレントヒル」
(米、2006)
[監督]クリストフ・ガンズ
[出演]ラダ・ミッチェル、ショーン・ビーン、ローリー・ホールデンデボラ・カーラ・アンガー 他
「エンゼル・ハート」
(米、1987)
[監督]アラン・パーカー
[出演]ミッキー・ローク、ロバート・デニーロ 他
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
N A H O K Information
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
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