不埒な現代を和ませる、ピュアで、きゅんな物語
都知事選ショックやら、暗殺未遂による未来を憂いながら、パリオリンピック開幕式は、自国の歴史と革命を、アートに昇華する美しさだった。
スポーツ大会ながら、ダンスをベースに、生バンドを登場させるのが素晴らしい。
(雨に濡れた楽器は気になったが……)
世界の女性歌手らを起用し、LGBTを扱うテーマの大きさは、賛否両論を巻き起こしたようだが、私はそこに斬新さを感じる。
ゲイの演出家による音楽やパフォーマンスの洗練されたアートの祭典になり、あらためて文化レベルの高さが再認識させられた時間だった。
さて、いろんな国で、封建制を打ち破るテーマが描かれている。
この夏公開の「ポライト・ソサエティー」(英国、2023)は、青春ものジャンルだが、いわゆる恋愛ものではなく、ヒロイン像がタフで純粋なキャラの上、スタントウーマンを目指しているから、カンフーもダンスもバリバリの青春アクションドラマ。
舞台は英国に住むパキスタン一家。家父長制のなかで、パキスタンの民族性たっぷりに、格闘技とダンスとともに、謎を追うドラマが展開する。
ヒロインは、伝統的な(古い価値観)の家に生まれ、スタントウーマンを本気で目指すような変わり者。一方、エレガントな美女の姉とは、仲がいい。
あるとき、姉が富豪の御曹司と恋愛に進み始めたことから、妹の気持ちは複雑に……。
女性同士のジェラシー?どころか、妹は正義感から、「この男、匂うぞ」という詐欺探知センサーがはたらき、探偵真っ青の動きを見せていく。
正義のエネルギーは、いかなる悪にも立ち向かうことを可能にするのか?
姉を救うためには、あらゆる危険を乗り越え、その先には、何が?
仲間(子分)の女子たちのサポートもユニークで、なにもかもがまっすぐでかわいい。
カンフー技とダンスセンスをおりまぜて、結婚の裏にある秘密に立ち向かう“オモロイ女たち”の行方にわくわくする。
創造性にあふれた発想で、オリジナル性あふれ、飽きさせない展開だ。
新鋭ニダ・マンズールが長編映画を監督、脚本もとも初めて手がけたというだけに、フレッシュそのもの。英国インディペンデント映画賞、最優秀新人脚本家賞を受賞したのもうなずける。その上、直接聞いたわけではないが(^0^)、オバマ元大統領もお気に入りの1本になったとか。
そういえば、英国のパキスタン人といえば、あの「マイ・ビューティフル・ランドレット」(1985,英国。2019年日本再上映)を思い出す。
パキスタン移民の青年が、ハンサムなイギリス人ギャングに恋をするゲイ物語で、ダニエル・デイ・ルイスの出世作だ。
悪に染まった都会の青年が、ピュアなパキスタン移民の青年と接することで、きゅんとする瞬間が美しい。
また、パキスタンといえば、音楽ドキュメントの傑作のひとつ、「ソング・オブ・ラホール」(2015年、米)がある。
パキスタンの民族音楽家たちが、N.Y.のトランペット奏者、ウィントン・マルサリスに招待され、カーネギーホールで共演するまでを追うドキュメント。
伝統楽器を演奏する、決して若くない演奏者らが、マルサリスバンドとジャズのカバーを演奏するという本格的な音楽映画。
戸惑いながら、ジャズという文化になじんでいく民族楽器奏者らのピュアな顔、姿勢が本当に魅力的だ。
話を戻そう。新作「ポライト・ソサエティ」は、舞台が英国でも、あくまでパキスタン社会のパキスタン人同士の話。他国の人種や文化に触れる話ではない。
アクション系音楽は、ヒロインの勢いにぴったりのスピード感と、少々のアナログ感。
突如、日本語の歌で、浅川まきの『ちっちゃな時から』が、本人の日本語の歌で挿入され、“明日はお嫁に行ってしまう人vへの切ない心情が重ねられている。
私は初めて聴いた曲だが、なんだか懐かしい。
どうしても、この曲をいれたかったのか、日本人へのノスタルジー感をくすぐる。
日本の昭和感がなじむところも、この映画の魅力だろう。
製作者たちは、いかにブルース・リーとタランティーノ(監督)が好きかをうかがえる。(たぶん、そう)ピュアーな映画人の新しい存在を感じるだけで、きゅんきゅんする映画。
本作のタイトル「ポライト・ソサエティ」は、ちょっとわかりにくいイメージだが、今後 都知事のカタカナ政策として、使われないことを望む。
ピュアで、きゅんな人物を追い求めたい今日この頃。
MOVIE Information
『ポライト・ソサエティ』
8月23日(金)新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン 池袋、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほかロードショー
2023年/イギリス/英語・ウルドゥー語/104分/シネスコ/カラー/5.1ch/G/日本語字幕:田渕貴美子
監督・脚本:ニダ・マンズール
出演:プリヤ・カンサラ「ブリジャートン家」、リトゥ・アリヤ「アンブレラ・アカデミー」『バービー』
配給:トランスフォーマー
原題:Polite Society
©2022 Focus Features LLC. All rights reserved.
【予告URL】
https://www.youtube.com/watch?v=UK5E92Vp0Xk
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
N A H O K Information
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
問合せ&詳細はNAHOK公式サイトへ
PRODUCTS
クラリネットバッグ「Camarade/wf」
トリコロールカラー / ディープブルー・アイボリー・ジャーマンレッド
フランスでも人気のNAHOKケースをトリコロールアレンジで。バッグではなく、エンタテイメント・ケースであることを踏まえた遊び心あふれるバックです。 青・白・赤の三色旗(トリコロール)は「自由・平等・博愛」を意味しています。
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フューシャピンク / リボン
NAHOKピンクの新しい光沢ピンク、フューシャピンクです。
フランスオリンピック開会式は、ピンクがテーマカラーでした。オレンジ系のマットディープピンクと比較すると、紫系のビビッドで、生地感も光沢ありの華やかさ。
チェリーピンクとも異なる、切れ味の良い洗練された欧州カラーが魅力です。
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