「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」と狂気のダンスを
今年のベスト1はと聞かれたら、迷いなく「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」と答える。
すでに観た方も多いのではないかと思い、共有したい。
“フォリ・ア・ドゥ”は、聞きなれない言葉だが、フランス語で“二人狂い’’を意味する。
妄想性の精神障害があるアーサー=ジョーカーに、同じく狂気的女性が加わるのだ。
ホアキンが、どんな狂い方をするのか、誰と狂うのか?
かつて「ザ・マスター」(1992/米)で、ホアキンは、名優シーモア・ホフマンとのコラボレーションで、いわば、映画史上に残る‘’フォリ・ア・ドゥ‘’を見せたのだが、本作では、その相棒に選ばれたのが、レディ・ガガというわけだ。
1作目では、社会の底辺で毒親に育てられた主人公アーサーが、ついに不満を爆発させ、罪を犯しながらもダークヒーロー、ジョーカーとして生まれ変わる物語。
2作目では、刑務所にいるアーサーのもとに、彼を崇める女が現れ……。
病的なホアキン・狂気・フェニックスは、いまや役者としての頂点だ。
誰もかなわないクレイジー・ワールドは2作目で、より強く広がったが、その上に彼の歌とダンスが、全面的に挿入されるとは、想像できなかった。
狂人スターの、妄想ミュージカル。なんでミュージカル?
一時期は、役者をやめて、歌手になると宣言したこともあるホアキンだから、この方向に来るのは、ありだったが、役者の味が加わる音楽性が凄い。
歌い始めがわざとらしくない、語り掛ける、訴えかけるミュージカル仕立てで、ホアキンならではの魅力。
歌も踊りも、あふれる自然体で、感情を表現するアート。
往年のヒット曲を独自に語り歌うホアキンは、まさに気弱な主人公、アーサーの社会的につまづいたゆえの切なさを表現する。
いつまでも眺めていたい、才能を味わうホアキン・ショーだ。
ただ、気になるのは、本作で“フォリ・ア・ドゥ‘’をする必要があったのか?
二人狂いのパートナーとなるガガのキャスティングは、ベストマッチか?
ホアキンとコラボの妙が楽しめるのは、シーモア・ホフマンだったり、ロバート・デ・ニーロだったり、天才役者のレベルが適していると思ったのは、あまりに欲深い映画ファンの期待だろうか。
以前、ホアキンが、カントリー歌手、ジョニー・キャッシュを演じた「ウォーク・ザ・ライン/君に続く道」(2005/米)では、共演した歌手役のリース・ウィザースプーンとは素晴らしいコンビネーションだったが、それに比べると、残念ながらガガとの間には、演技上か、異なる世界観か、ちょっと開きがあると感じる。
ガガのキャスティングは、製作に「アリー/スター誕生」(2018年/米)でガガと共演したブラッドリー・クーパーがクレジットされているから、その影響もあったのだろうか。
ところで、“フォリ・ア・ドゥ”の例えにふさわしい狂気キャラの2人組といえば、殺人カップルの逃避行を描いた「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(1994/米)や人形ホラー「チャイルドプレイ/チャッキーと花嫁」(1998/米)がある。
邪悪なモンスター、二人組がよくも出会ったとばかりに悪事を犯し、狂気乱舞するベストカップリングのパターンだ。
そんな意味で、本作の二人はカップリングとして、一体感に欠けるのが残念なところ。
「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」は、狂気に至った主人公を精神分析的観点で掘り下げている、一級の社会派サイコミュージカル。
歌とダンス中心に展開する中で、ストーリーもおさえられており、実は1作目のアーサーの妄想部分がどこだったかの謎が解かれ、大きなポイントだった毒母の真実もさらにあばかれ、妄想精神病の意味がわかってくる。
病気の母親を支える、けなげなアーサーの気持ちを狂気に変えたものはなんだったのか?
親や社会に裏切られた男が、絶望する瞬間を多くの人々が共有し、「ジョーカー」は社会派ホラーとして誕生した。
2作目の続編も、このベースとなるものは、失われていない。
「レッド・ドラゴンズ」(2005年/米)で、生い立ちからくるトラウマと対決するサイコ、レイフ・ファインズに通じる狂気キャラ、これにダンスエンタテイメントを入れ込むという画期的な試みは、ホアキン・フェニックス以外で成功することは考えられないだろう。
昨今は現実社会でも、毒親の問題が語られ、政治、社会の混迷のなか、生きにくい根源となるものが、映画の中では極上のアートとして、描かれる。
MOVIE Information
「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」
2024年10月11日公開
2024年製作/138分/PG12/アメリカ
[原題]Joker: Folie a Deux
[監督]トッド・フィリップス
[製作]トッド・フィリップス、エマ・ティリンジャー・コスコフ、ジョセフ・ガーナー
[出演]ホアキン・フェニックス、レディー・ガガ、ブレンダン・グリーソン、キャサリン・キーナー、ザジー・ビーツ
[配給]ワーナー・ブラザース映画
[公式サイト]https://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
N A H O K Information
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
問合せ&詳細はNAHOK公式サイトへ
PRODUCTS
ダブルケース
「Gabriel/wf」は、内装に固定ベルトなどはありませんが、フルート・オーボエ・クラリネット対応です。
面が広くマチが薄めで、「B4の譜面」が入り、衣装も収納しやすいタイプです。
クラリネットダブルケース(A管・B管)を入れるときに、周辺小物も収納できるよう余裕を持って作りました。
また、このサイズの2コンパートメントを希望される方が多く、2コンパート・リュック「Carlito/wf」を生産しました。
ハードケースとそのほかの小物が別々に入れられますので、ご一考ください。
ノートパソコンは、17インチ、17.3インチがジャストサイズです。
さらに、横幅が狭く、厚みがあるワイドブリーフケース3も合わせてご検討ください。
>>BACK NUMBER
第66回:2024年アメリカアカデミー賞受賞式とOHTANIエンタテイメント
第67回:社会派エンタメ映画のむつかしさと意義深さ
第68回:アーティストの功績とは?
第69回:都民に扉を Door is open!
第70回:不埒な現代を和ませる、ピュアで、きゅんな物語
第71回:LGBTQの時代
第72回:権力にしがみつくエリートと芸を磨くアーティスト