兵庫県知事選挙戦と「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」
2025年、あけましておめでとうございます。
昨年は、往年のSF&ホラー大作「オーメン」「エイリアン」「猿の惑星」「砂の惑星」など名作シリーズやスピルバーグ監督の「カラーパープル」リメイク版など、かつての時代を振り返りながら、楽しめる娯楽タイトルが多かった。
しかし、どの作品も全体的に小さくまとめられすぎて、旧作をさらに上回る強烈なアイディア、エネルギー不足を感じるのは、時代による世代ギャップのせいもあるのだろうか?
かつて欧州のホラー映画祭にいろいろ出席したり、100本のホラー映画を解説した本を一気に書きまとめたり、と私も、ホラー映画を楽しむエネルギーでいっぱいだった。
その時代の名作をいかに進化させているのかは興味深い。
特に私のベストホラーの1本に入る「オーメン」(76年、米)は、シリーズの前日譚として昨年「オーメン:ザ・ファースト」(2024年、米)が、18年ぶりに製作された。
頭に“666”のあざが刻まれた、あの忌まわしいダミアン少年がいかにして生まれるのか、……。
実際のところ、音楽による盛り上げ方や、オーメンの世界観が描き切れない凡庸さもあったが、“オカルトホラー”がいま、蘇るだけでもとりあえず喜ばしい。
一方、38年ぶりの「カラーパープル」リメイク版(2024年、米)も、ブラックワールドのダンス感によるミュージカル仕立ては新しいが、キャスティングが弱く、やはりスピルバーグが監督として最もエネルギッシュな時代のポピュラリティーある演出とは比較にならない小粒作品と感じられた。
リメイク作品は、それでも作り手にとってのリスペクト感、観客にとっても、過去の時代を振り返る楽しみはあるのものだ。
こうした過去の名作リメイクをはるかに超えるアイディアを放った昨年の最高傑作ホラーは、なんといっても「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」(2024年、米)である。
狂気のホラー・キャラを持つホアキン・フェニックスが、音楽的な腕を見せる芸の深さ。
ともするとリスキーなジャンルに転じるダンサブル・ホラーとして、トッド・フィリップス監督は挑み、昨今類を見ない衝撃と新鮮さを放った。
俳優が音楽的な才能を持つことは、実に価値があることだ。
またリュック・ベッソン監督の「DOG MANドッグマン」(2024年、米)は、屈折した主人公が飼いならした犬たちを“子分”として、底辺を生き抜く狂気のバイオレンスホラーアクション。素晴らしいのは、主役を演じるケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、そもそも歌手でもあり、アーティスティックな個性を発揮するところだ。
狂気とバイオレンスの世界で、女装した彼が、美しくステージに登場するなど、舞台転換も鮮やかで、まさにアートホラーといえる。
物語の斬新なネタを見つけるのが難しい中で、ミュージシャン本人が登場するミュージシャンドキュメントが昨今、多くなった。2024年は「ジョンレノン 失われた週末」、「リトル・リチャード アイ・アム・エブリシング」、「オスカー・ピーターソン」など、歴史に残る音楽家たちの生涯が、周辺の人々の分析や音を通して語られていく。
ミュージシャンのバックステージものは、もともとあるにはあったが、好みの音楽ジャンルを問わず、過去のスターが残した音楽ライフは、どれも観る価値があると思うことが多い。
周辺の人々の表現力は貴重で、音の秘密を紐解いていくようだ。
さて、音楽ドキュメントでも描かれるように、ミュージシャンは特に、私的な問題を抱える場合が多く、親から搾取されたり、理解が得られなかったり、さまざまなトラウマを抱える話は珍しくない。成功しても、決して満たされない音楽家の人生は、親子関係からきている。
そんな意味で、2025年公開の「ドリーミングワイルド 名もなき家族の歌」は、これまでのミュージシャンものとアプローチが異なる音楽映画の傑作だ。 こんなプロットに共感できる演奏者は少なくないのではないか?
主人公は、子どものころは天才と思われたミュージシャンだったが、都会に出てからは、ぱっとしない生活を送るだけで、兄は両親とともに田舎の家を継いでいる。
そんなある日、10代のころ、兄と二人で作ったアルバムが、コレクターによって発掘され、ついに大手の音楽プロデューサーから声がかかり……と展開していく。
本作は、決して華やかなサクセスストーリーではなく、音楽を通じて、人生を振り返り、家族を語る物語。核となるのは、父親がスタジオ作りを手伝い、二人の息子たちに音楽作りを心からサポートしているところ。よくいる理解のない父親ではなく、利益を目的にしているわけでもなく、実に愛情深い親の存在が暖かい。
才能か兄弟愛か、こだわりの強い主人公の複雑な心理をケイシー・アフレックが演じる。
ベン・アフレックの弟で知られるが、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年、米)で、アカデミー賞主演男優賞を受賞した実力派だ。
ちなみに、ケイシーは元妻がホアキン“ジョーカー”フェニックスの妹だったことから、ホアキンが実生活で俳優を引退し、ヒップホップアーチストになるというモキュメント(ドキュメントのフェイク)「容疑者 ホアキン・フェニックス」(2010年、米)を監督した。
このときの衝撃は忘れられない。
俳優業への不満をぶちまけるブチキレキャラのホアキンが、リアルな社会にそのまま飛び出し、マスコミもハリウッド業界をも巻き込んで、最後にまさかの真実が明かされる、という本気でふざけたドキュメントタッチの映画。狂気の芸を持つ俳優たちは、ぎりぎりの危うさで勝負する。だから、面白いのだろう。
MOVIE Information
「ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた」
1/31(金)TOHO シネマズ シャンテ ほか全国公開
2022 年/アメリカ/カラー/2.35:1/5.1ch/111 分/G/英語
[原題]Dreamin’ Wild
[配給]SUNDAE
[監督・脚本・製作]ビル・ポーラッド
[出演]ケイシー・アフレック、ノア・ジュプ、ズーイー・デシャネル ジャック・ディラン・グレイザー、クリス・メッシーナ ウォルトン・ゴギンズ 、ボー・ブリッジス
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
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