全日本吹奏楽コンクール2019 課題曲攻略講座
吹奏楽をやっている人にとって夏はコンクールの季節ですね! 「少しでも良い演奏を!」「今年こそは○賞を!」を頑張っているみなさんへのアドバイスを順次配信します♪
マーチ演奏の基本を知ろう
今年度の課題曲は5曲のうち、マーチが3曲。マーチを選んでいる学校・団体も多いのでは?
“マーチは吹奏楽の基本”とも言われる音楽です。そこで、今回は、マーチ演奏の基本をクラリネット奏者・指揮者の三浦幸二さんに教えてもらいましょう♪
マーチの演奏ポイント
吹奏楽コンクール課題曲としても演奏されることの多い「マーチ」。日本語では「行進曲」と訳されますが、元来は軍楽隊によって演奏される「軍隊が行進するための音楽」でした。大勢の隊員の歩調を合わせることを目的としていたため、明快なリズムかつ歩行に適したテンポで演奏されることが一般的です。人間が二足歩行の生き物であるため、本来は2拍子系のリズムが使われてきましたが、日本の吹奏楽コンクールでは「コンサートマーチ」と称して4拍子のマーチが多く作曲されました。また世界に目を向けると、それぞれの時代、地域の要請に応じて様々な種類、形式のマーチが作曲されてきました。そうした歴史的背景も考慮しつつ、マーチの演奏ポイントをおさらいしておきましょう。
テンポ設定は重要!
世界には様々な種類のマーチが存在しますが、テンポ設定もまた様々です。アメリカの軍楽隊によるマーチは概ね♩=110~120BPMのものが主流ですが、1950年以降のイギリスのクイックマーチは♩=108BPMですし、ドイツ、オーストリアでは♩=108~112BPM、フランスでは♩=112~120BPMと、地域や時代によって様々なテンポ設定が存在します。これは、その時代の軍隊の装備の都合であったり、儀式で演奏するためのものであったり、マーチが演奏される際の状況と密接に結びついており、そのまま音楽の中でのテンポ設定に反映されていためです。作曲家が意図したテンポには、それぞれに意味があり必然性を持っています。マーチを演奏する際には、その時代背景や音楽的必然性なども考慮しつつ、最適なテンポ設定が不可欠です。
形式を理解せよ!
マーチは元々複合三部形式でしたが、様々な要因によって徐々に変化を遂げていきました。近代アメリカの典型的なマーチ形式は「序奏」「主部(第一マーチ+第二マーチ)」「中間部(トリオ)」「間奏」「トリオ反復」となっています。これに対してヨーロッパでは、中間部のあとに再現部として「第一マーチ」を反復したり、トリオに後奏がつくこともあります。これは元々の複合三部形式の名残であるとも言えます。
また「トリオ」は属調に転調するといったような、マーチ形式の基本的なルールも存在します。形式通りに書かれているマーチもあれば、あえて形式を逸脱したマーチも存在し、そこには明確に作曲家の意図が込められています。形式への理解は、作曲家の真意を汲み取る重要な鍵となりうるのです。
アーティキュレーション、特に強弱やアクセントの変化を見逃すな!
マーチの特徴の一つとして「構造のシンプルさ」が挙げられると思います。音楽全体が極めてシンプルな構造の中で、テンポ変化もなくメロディは反復され、ともすれば単調な表現に陥りやすい音楽を、作曲家は様々な手段を用いて変化に富んだ豊かな音楽となるよう創意工夫を重ねてきました。
例えば、アメリカのJ.P.スーザは『星条旗よ永遠なれ』の中で、第二マーチの1回目と2回目の強弱を変えることはよく知られています。また同じく『星条旗よ永遠なれ』の第一マーチでは、アクセントの強調の仕方に工夫がみられます。他にも打楽器の強弱を変化させることで、音楽にさらなる躍動感を与えているケースもあります。マーチ演奏におけるアーティキュレーション、強弱やアクセントの変化は、極めて重要な要素であると言えます。
リズム表現について
マーチ演奏におけるリズムの重要性については、改めて言うまでもないことと思いますが、整理すると「正確性」と「ビート感(拍節感)」の2点に集約されるように思います。「正確性」とは、本来あるべき場所に音が並んでいることを指しますが、それを実現するために必要なことは「カウント」「発音(音の立ち上がり)」の2点。
例えば、マーチにおいて「頭打ち」「裏打ち」がありますが、8分音符単位で刻まれている場合、より細分化されたリズム(例えば16ビート)でカウントすることによって、リズムの精度は上がります。また音の立ち上がりが悪いと、自分は正確に吹いたつもりでもやや遅れた感じに聞こえてしまいます。反応の良いリードを装着して、力まずに音の出る瞬間に集中して発音できると良いと思います。「ビート感(拍節感)」については、一般に強拍弱拍と呼ばれていますが、音の強弱というよりも音の密度、緊張感といったほうがより適切だと思います。拍節感のないリズムは、まるでモールス信号のように聞こえると思います。音楽の持つ躍動感を表出する上でも、「ビート感(拍節感)」は大変重要な要素と思います。
バランスについて
マーチに限らず音楽表現におけるバランスは大変重要ですが、特にマーチ特有の難しさとして、管弦楽器と打楽器のバランスがあります。本来「行進曲」としてのマーチでは、ある意味打楽器を中心に音楽を創るといっても過言ではありませんでしたが、近年ホールなどの屋内会場で演奏されるコンサートマーチでは、「行進」よりも「より豊かな音楽表現」を追求しており、従来の行進曲よりも打楽器を抑えて、管弦楽器の表現力を最大限に発揮させるような演奏を多く耳にするようになりました。演奏会場の響きにも影響を受けるため一概に結論付けるのは難しい問題ですが、マーチである以上「行進」しなくとも「行進」可能な演奏であるべきと思います。少なくとも音楽に内在するビート感(パルス)を感じられる演奏であって欲しいと思っています。また打楽器のバランスを考えた時、打楽器の配置も重要なポイントと思います。
CONTENTS
次ページより演奏のアドバイスを課題曲ごとにお届けします。
2ページ:課題曲Ⅲ 行進曲「春」
3ページ:課題曲Ⅳ 行進曲「道標の先に」
4ページ:課題曲Ⅱ マーチ「エイプリル・リーフ」
5ページ:課題曲Ⅰ 「あんたがたどこさ」の主題による幻想曲
5ページ:課題曲におけるクラリネット属の演奏ポイント
profile
三浦幸二 (クラリネット奏者・指揮者)
武蔵野音楽大学卒業後、東京での演奏活動を経たのち渡独。帰国後は主にソリスト、室内楽奏者として、アジア・ヨーロッパ諸国を中心に活動。またホフストラ大学(アメリカ)、カセサート大学(タイ)、サヤット・ノヴァ音楽学校(アルメニア)など世界各地で教育活動を展開。今後国際的な活躍が期待される演奏家の1人である。”Silverstein Inspiring PRO Team” “GONZALEZ Reed” “RZ Woodwind Manufacturing” 各契約アーティスト。(一社)日本クラリネット協会理事。
三浦幸二