クラリネット記事 時を経てから自分で聴き返しても新鮮に楽しむことができる
  クラリネット記事 時を経てから自分で聴き返しても新鮮に楽しむことができる
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The Clarinet vol.63 Cover Story│ヤン・ヤクブ・ボクン

時を経てから自分で聴き返しても新鮮に楽しむことができる

ヴロツワフ音楽アカデミーでクラリネットを学び、その後パリ国立高等音楽院でギイ・ダンガン氏に師事。現在は演奏活動の傍らヴロツワフ音楽アカデミーでクラリネットと室内楽を教え、さらにヴロツワフのクラリネットフェスティバル「クラリマニア」の芸術監督も務めるなど多方面で活躍しているのがポーランドを代表するクラリネット奏者のヤン・ヤクブ・ボクン氏。ニューアルバムではギター奏者ヤクブ・コシチュシコ氏とのデュオでクラリネットの新たな可能性を広げている。そのデュオによるリサイタルのために来日したボクン氏に、3年ぶりのインタビューを敢行した。
通訳・文:クラリネット奏者・横田揺子 写真:土居政則 協力:ヤマハ株式会社、株式会社ヤマハミュージックジャパン

何かが心に引っかかりクラリネットを手に

ちょうど3年ぶりの本誌登場になりますが、まずボクンさんの母国のことについて伺います。ポーランドはショパンやポーランド楽派など音楽的な文化が盛んなイメージがありますが、クラリネットの演奏人口はどれくらいなのでしょうか。
ヤン・ヤクブ・ボクン(以下B)
ポーランド音楽の伝統、というとピアノとヴァイオリンの分野が代表されていて、管楽器はそれほど重要なポジションを成していません。各地で行なわれている演奏会のスケジュールをみても、ヴァイオリンやピアノ、チェロ、そういった楽器のプログラムは目につきますが、管楽器はほとんど見当たりません。クラリネットのレパートリーにおけるポーランド音楽は非常に控えめなものです。一番有名なポーランドのクラリネット協奏曲というと19世紀のクルピンスキー作曲のもので、ウェーバーなどと近いスタイルですが、戦禍のため残念ながら1楽章しか残っていません。20世紀には、シャリゴフスキー、マイヤー、ペンデレツキ、デムスキーなどが多くの作品を発表しましたが、やはり演奏頻度を考えるとレパートリーとしては定着していないように思います。
学校現場ではどうでしょうか?
B
ポーランドでは初等教育において伝統的に、とても充実した教育課程を持っています。高校ではソルフェージュ、音楽史、和声、また音楽の形式などをしっかりと学べるようになっています。大学で音楽を専攻しようという時点で、基礎の部分はしっかりと形成されているのです。他国の、専攻楽器演奏のみに特化した過程ではなく、総合的な音楽教育が一般に深く浸透しています。私自身も、どの楽器の奏者であっても音楽史を深く理解することは重要な基礎事項だと考えています。吹奏楽の伝統も、もちろんあります。特に南ポーランド、シレジア地方で盛んに行なわれていて、若者や愛好家、プロ、セミプロ、引退した音楽家……様々な人々が一緒に演奏を楽しむ伝統があります。ただ日本や米国の吹奏楽文化と比較すると、そこまで大切に考えられてはいないかもしれません。
私自身は8歳の時にピアノ専攻として音楽学校に通い始めました。3年後、第2専攻楽器を選ぶことができるのですが、当時はギターを希望していました。でも音楽主任教師からオーボエをやるように勧められました。彼女の旦那さんがオーボエ奏者だったのです。オーボエの先生に会い、先生の吹く『白鳥の湖』のソロを聴いて、その美しい音色に心を打たれオーボエを第2専攻楽器として選択しました。そして休暇になり、オランダ人で建築家の叔父がポーランドにやってきました。この叔父は、音楽的才能に恵まれた人物でピアノも弾くしサックスも吹く……そしてクラリネットを習い始めようとしていて買った楽器を見せてくれたのです。私たちの前で音を出そうと頑張るのですが、ピーピーキャーキャー……絶望的にひどい音色です。そんな想像を絶する演奏ながらも、何かが心に引っかかりました。もちろん、その“音色”ではなく“楽器”に対してです。休暇が終わり学校が始まった時、「やっぱりオーボエではなくクラリネットにする」と先生に伝え現在に至っています。いま考えても、どうしてあの時クラリネットにあれだけの魅力を感じたのか……自分でもよくわかりません。

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・管楽器の新しい伝統を発信する「クラリマニア」
・最新CDはクラリネットとギターのデュオ
・情熱と精神をも示してくれる愛器Ideal G
・技術があってからレパートリーが演奏可能になる

Jan Jakub Bokun ヤン・ヤクブ・ボクン
ヨーロッパを中心に活躍しているポーランドを代表するクラリネット奏者であり、指揮者。ヴロツワフ音楽アカデミーでクラリネットを学び、その後パリ国立高等音楽院でギイ・ダンガンに師事する。ポーランドの数々のクラリネットコンクールではソロ部門と室内楽部門でそれぞれ受賞している。Koch Classics、JB record、DUXなどから10枚のソロアルバムをリリース。現在、演奏活動の傍らヴロツワフ音楽アカデミーでクラリネットと室内楽を教え、また、ヴロツワフのクラリネットフェスティバル「クラリマニア」の芸術監督であり、国際クラリネット協会のチェアーマンを務めている。2001年に南カリフォルニア大学で指揮の修士号を取得。アスペン音楽祭で奨学金を得て、スイスのヴェルビエ・アカデミーでクルト・マズアー、ジャームス・レヴァインに師事。ポーランドの第3回ヴィトールド・ルトスワフスキー指揮者コンクールで優勝し、またオーケストラ賞を獲得している。

CD Information

「ア・ラ・カルト~クラリネットとギターとともに~」
ヤン・ヤクブ・ボクン&ヤクブ・コシチュシコ


【JBR017】マーキュリー
[価格]¥2,900
[演奏]ヤン・ヤクブ・ボクン(Cl)、ヤクブ・コシチュシコ(Guit)
[収録曲]J.S.バッハ:アリオーゾ、F.シューベルト:アルペッジョーネ・ソナタ D.821〜アレグロ・モデラート〜アダージョ〜アレグレット、C.ドビュッシー:アラベスク 第1番〜、P.スムットニー:ドロール・アモーリス、P.シェプチック:JJB、ヨム:モーゼ、ヨム:子供の夢、D.パイジェーク:イット・ゲッツ・ワース
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