クラリネット記事 同じ曲でもいろいろな表現の可能性があり、音楽を固定してはいけない
  クラリネット記事 同じ曲でもいろいろな表現の可能性があり、音楽を固定してはいけない
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The Clarinet vol.68 Cover Story│アレクサンドル・シャボ

同じ曲でもいろいろな表現の可能性があり、音楽を固定してはいけない

現在、パリ・オペラ座管弦楽団(パリ国立歌劇場管弦楽団)のソロ奏者、そしてパリ12区立音楽院やヴェルサイユ地方音楽院で教授を務めているアレクサンドル・シャボ氏が本誌初登場です。
8月2日〜9日に開催されたBCJクラリネット・アカデミー2018の講師として来日したときにインタビューを敢行しました。古典クラリネットでの演奏活動、さらに現代音楽の演奏にも熱心な同氏のクラリネット人生に迫ります。
取材協力:株式会社 ビュッフェ・クランポン・ジャパン 撮影:橋本タカキ 通訳:檀野直子

アリニョン氏に習えたことは幸運だった

ご出身はどちらですか?
Alexandre Chabod(以下C)
フランス東部、ポンタルリエ近郊の町の出身です。標高が高くBCJクラリネットアカデミーが行なわれた修善寺(静岡県)と少し似ています。観光客はほとんど来ませんが、自然が多く残る農業地帯の風景が美しい場所で子ども時代を過ごしました。
どんなきっかけでクラリネットを始められたのですか?
C
両親は音楽家ではありませんので、偶然が重なったと言えるかもしれません。フランスでは3歳から幼稚園に通い始めますが、私は楽しめず退屈していました。物足りなそうにしている私に両親も気づいていたので、5歳のとき当時住んでいた家のすぐそばにある小さな音楽院に入学させてくれたのです。その音楽院には4歳から7歳の子どもたちすべてを担当している先生がいて、リコーダーや、音名、リズムの初歩などを教えていました。子どもとの接し方が上手く、また教育者としても才能のある方で、常に子どもたちと向き合い、気持ちを掴むことができる、面白く愉快な先生でした。例えば、音楽に興味を持つようなゲームを子どもたちにさせたりしていました。本当に素晴らしい先生でしたので、自然とクラリネットを吹いている彼のようになりたいと思うようになりました。もし、チェロ弾きだったら、私もチェロを選んでいたかもしれませんね。
その後、父の仕事の関係でノルマンディー地方に引っ越しました。ここでパリ室内管弦楽団クラリネット奏者のジャン=クロード・ブリオン氏に師事し、パリ国立高等音楽院に入学できるようになるまで私を成長させてくれたのです。多くの学生は地域圏立音楽院やパリ市内の区立音楽院などの出身でしたが、私は田舎の音楽院から直接パリ国立高等音楽院に入学しました。ミシェル・アリニョン氏のクラスに入ったときは17歳でした。
ミシェル・アリニョン氏から学んだことで印象に残っていることは?
C
アリニョン氏は音楽家としてのカリスマ性があり、才能が豊かで音楽に造詣が深い方です。聡明な彼は、音楽の知識が豊富なだけでなく他の分野にも関心を持っています。そして、生徒が抱えている問題を分析することに長けています。たくさんのことを教わりました、本当にたくさん。
アリニョン氏はご存じの通り、とても素晴らしいクラリネット奏者ですが、特に音楽で物語を語ることのできる演奏家です。その語りのセンスは群を抜いています。多くのクラリネット奏者や演奏家がいますが、楽器と音楽によって何かを演じることができる人は稀です。ですから、カリスマ性があり、教育者としても優れ、その上音楽で語ることができるアリニョン氏に習えたことは大変幸運だったと思います。
学生時代に取り組んだ練習で最も効果的、成果が出たことは何でしょうか?
C
パリ音時代、個性が強く、優れた学生が周りにたくさんいたことが幸運でした。ニコラ・バルディルー氏、松本健司氏、吉村直子氏、ニコラ・ファルジェクス氏が同級生です。私は彼らのレッスンをよく聴講しに行きました。彼らは私と違う表現をいろいろとしていましたので、それが私より良かったり、まったく別のアプローチだったりします。彼らがアリニョン氏のレッスンを受けているところを聞くことは、とても勉強になりました。自分のレッスンで学ぶだけではなく、彼らの演奏を聴くことや、レッスンを聴講することで多くのことを得ました。それによっていろいろなことに興味がわいてきました。何の目標もなく部屋で一人練習していても上達しません。
また、私はいつもゆっくり練習します。体を硬くしたり緊張させることなく、落ち着いてやります。そして、練習のときから音楽的な表現を考えています。指の動きを覚えるために機械的な練習をすることは一切ありません。いつも音楽的なアイデアを持っています。音楽的なアイデアと技術的なアイデアを同時に使い、練習をしています。

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・理想に近づくように毎日練習しています
・初めて買ってもらったのがビュッフェ・クランポン

Alexandre Chabod アレクサンドル・シャボ
7歳からクラリネットを始める。パリ国立高等音楽院に入学後はミシェル・アリニョンに師事し、1996年、同校クラリネット科をプルミエ・プリ(一等賞)で卒業。翌年、室内楽修士課程修了(モーリス・ブルグに師事)。審査委員会では全会一致でプルミエ・プリを得る。その後はポール・メイエ、エリック・ル・サージュの下で学ぶ。トゥーロン国際音楽コンクールでの入賞を始め、パリUFAM国際音楽コンクール(第3位)、ジャン・フランセ国際音楽コンクール(第2位)など多くの国際コンクールで入賞。パリ国立高等音楽院卒業後、同校の上級過程〈Cycle de perfectionnement〉でさらに研鑽を積む。
1999年、ソリストとしてグルノーブル・ルーヴル宮音楽隊へ参加。2010年からはエマニュエル・クリヴィヌが指揮する古楽器オーケストラ「ラ・シャンブル・フィラルモニーク」のソリストを務める。その他、最近の活動としては、古典クラリネットと現代クラリネットによる室内楽コンサートを開催し、一流奏者と共演。また現代音楽の演奏にも熱心で、多くの作曲家の現代音楽作品を初演し、またレコーディングも行なっている。
フランス国内外で定期的にマスタークラスおよびリサイタルを行ない、これまでにニューヨーク、台北、フランス各地の地方音楽院などを訪れている。現在、パリ地方音楽院及びヴェルサイユ地方音楽院で教授を務める。「クワチュオール・ヴァンドーム」メンバー。ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団で8年間ソリストとして活躍した後、2004年からはパリ・オペラ座管弦楽団(パリ国立歌劇場管弦楽団)でクラリネットソロ奏者を務める。

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