フルート記事
THE FLUTE vol.191 Close Up

フルートは音楽を知るツール、即ち私に世界を見せてくれているもの

これまで指導を受けた先生の言葉で印象的なものはありますか?
最初の先生はレッスンを受けているだけでは上達しないとおっしゃっていました。それが一つ。他にたくさんありますが、 90年代初期にサー・ジェームス・ゴールウェイ氏の指導を受けました。「私に何かアドバイスしてください」と聞いたら、「レパートリーを叩き込みなさい」と言われました。当初、まだ学生でしたが、オーケストラのプレイヤーやソリストになったら、忙しくて楽曲を練習する時間がなくなります。ですから、家を買う前に、家族を持つ前に、できる限りの楽曲をさらいなさい、というのが一番大事なアドバイスでした。
アドバイスではないですが、私に激怒した音楽学校の先生がいました。
そのとき、私はいいテクニックで美しく演奏したと思うのですが、とてもフリーで吹きたいように吹いていたら、「伝統を重んじるべき」で「作曲家の意図をきちんと学んで、書かれていることに忠実に」、そして「先生の指導を受けるときはきちんと従うこと、それ以外はいくらでも自由に演奏していいから」と言われました。今は自分の生徒に同じことを言います(笑)。
フルートの上達に役立った練習法を教えてください。
独自の練習法になりますが、アンブシュアとテクニックの上達に役立つ「シークエンセス」というのがあります。
テクニックの練習でもあり、音色のエクササイズでもあります。楽器の真ん中の音から一番上まで上り、また真ん中から始めて一番下まで下ります。一番上まで行くのにある程度のテンションが必要です。そして低くなるにつれリラックスしなくてはいけません。最低限のアンブシュアです。一番上に上がったらそのまま下りるのではなく、また下に下がったらそのまま上がるのではなく、真ん中から始めることが大事です。なぜかというと、上がって負荷のかかったアンブシュアの筋肉をテンションがかかったまま下りてくると音が高くなってしまいがちだからです。テンションをかけたら緩めてリラックスする。アスリートも同じ方法で早く走るために、重いものを持つために、トレーニングをします。30秒負荷をかけたら、1〜2分準備をする時間を自分に与える。この考え方・やり方は効率的にテクニックの勉強や難しいパッセージを練習するのに役立ちます。
 
1988年、ヨーテボリでSir James Galwayの初めてのレッスン
Sir James Galwayとスイスでデュエット(1992年)
1996年、ロンドン交響楽団のグラミー賞にて

高い演奏技術が求められるウインドバンド

所属しているヨーテボリ・ウインド・オーケストラはどんなレパートリーを得意としている団体ですか?
私たちはクラシックとジャズを巧みに扱う団体として有名です。素晴らしいスウィングミュージック、ジャズミュージシャンがいる一方で、オーケストラの楽曲も演奏できます。フィリップ・スパーク、ミヨー、ストラヴィンスキー、ヒンデミットの他にビッグバンドの曲もやりますし、有名な歌手やミュージシャンのバックになることが多くあります。また、時々スウェーデン王立空軍軍楽隊としてユニフォームに着替えて演奏したりもしますが、軍隊に所属しているわけではないです。
他には、学校に演奏しに行って子どもたちや学生たちに音楽や楽器を見せることを大事にしています。子どもたちはとても正直なので、好きな曲とそうでない曲に関係なく思うがままに表現します。それを見るのが大変勉強になると感じています。
私のキャリアはソリストやマスタークラスの先生として求められることの他に、プロの吹奏楽演奏家です。オーケストラではある程度の音楽的な自由さがありますが、吹奏楽は正確さを求められます。一つ難しいと思う点は、オーケストラに比べて吹奏楽の楽曲は学生やアマチュアプレイヤーに演奏されることが多く、プロの吹奏楽団が少ないのです。初めて我々のウインドバンドを聴く人々は「吹奏楽がこんなに素晴らしいと初めて知った」と言う人が多くいます。
未来のフルーティストにプロのウインドバンド奏者というキャリアが存在するということを知ることは、いい励みにもなりますね。
そうなんです。ウインドバンドは高い演奏技術が求められます。またソロ活動をすることも可能ですし、道を切り開いていけます。実際、多くの作曲家は吹奏楽のために曲を書くことに好意的です。なぜなら、必ず演奏されて広がるとわかっているから。オーケストラの楽曲は作曲されても、著名な奏者でない限り、なかなか演奏される機会が少なかったりもします。
 
制服を来て
Hercules C-140の前で
ストックホルムでのマーチング
 
ヨーテボリ・ウインド・オーケストラ(テレビスタジオにて)
クイーンと共演したヨーテボリ・ウインド・オーケストラ
 
マルクッソンさんが考えるフルートの魅力は?
フルートは私にとって音楽へのツールですね。音楽を知るツール、即ち私に世界を見せてくれています。フルートは私にたくさんの友人をもたらしてくれました。フルートによってたくさんのフェスティバル、メキシコやペルーにも行きました。日本は神戸コンペティションで10分演奏しただけでしたが、他に台湾にも行けました。フルートは夢を現実にしてくれました。
18歳の時にマイケル・ティルソン・トーマス(MTT)指揮による、ストラヴィンスキーの『春の祭典』のレコーディングをかけながら、フルートパートを練習していました。そして、何年か経ってロンドンシンフォニーで演奏することになったときに、その時の指揮者が偶然にもMTTだったんです!
こういう奇遇なことがたくさん起きました。それはフルートが私にもたらしてくれたんです。
路面電車のドライバーだったころ、本当はしてはいけなかったのですが、早朝のだれもいない時間に音楽をかけて車庫内を運転していたんですね。そのときジェームス・ボンドの映画「オクトパシー」のサウンドトラックを聴いていて、フルートがたくさん出てきました。その奏者がエイドリアン・ブレット氏であることを後に知りました。何年か経って、ウィリアム・ベネット氏のお宅でパーティがあったときに、彼の奥さんが魚介のスープを出してくれてその中にオクトパス(蛸)も入っていたんです。そしたらテーブルの反対側にエイドリアン・ブレット氏がいたんです!びっくりして、そこから彼のサウンドトラックを聞いていたことを話しました。 そういう偶然をフルートは私に与えてくれています。
ヨーテボリでフルート技術者のYuki Miyagiさんと
 
お使いのミヤザワフルート、そのお気に入りの点を教えてください。
ミヤザワフルートのタッチに大変惹かれました。
私は元々軽くフルートを持つのですが、ミヤザワフルートのブローガーシステムはすばらしいと思います。
実は、一番最初に買ったスチューデントモデルもミヤザワフルートだったので、現在使っているフルートを手にした時に、故郷に帰ったような感覚を覚えました。ミヤザワフルートといい関係を保てていることを本当に嬉しく思います。
これからどんな活動が楽しみですか?
パンデミックの後、今大変難しい時期です。今年の夏はアメリカに二度行きました。ノースカロライナで毎年行なわれているフルートフェスティバルと8月にシカゴであったNFA(National Flute Association)のコンベンションです。今はスウェーデンに戻ってきたのでこれからウインドバンドの活動も再開しますし、コロナで前倒しになったイベントやプロジェクトやコンサートを一つずつこなしていきたいと思います。
どうもありがとうございました。
 
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