フルート記事 片山士駿のNYジャズ便り 第1回
  フルート記事 片山士駿のNYジャズ便り 第1回
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THE FLLUTE ONLINE 連載

片山士駿のNYジャズ便り 第1回

ARTIST

Manhattan School of Musicの大学院で修士課程を進めているジャズフルーティストの片山士駿による連載がフルートオンラインでスタート!大学院のことや演奏会のことニューヨークの音楽事情などをお届けする。

日本を離れ、スピーカーから聞こえてくるレコードの遠い向こう側の世界と思っていた街での生活を初めて、早くも1年と半年が過ぎてしまった。渡米してからの日数は浅いとは言えずとも、私はニューヨーカーです!だなどと胸を張って言えるほど、まだまだ街での生活にも言語的にも慣れ親しめているわけでは決してない。
なぜ地下鉄がこんなにデタラメなダイヤで運転していたり、中心部にある大規模な施設でも平気でエスカレーターが動いていなかったり、比較的街中にある自宅前の大通りで、ある日突如アライグマと遭遇したりするのか……未だに不思議である。
コミュニケーションの面でも、複数人いる中での友人達との会話や、話す速度が早くなおかつやたらに難しい単語を使う大学の教授の話す内容を、すべて理解するのはこれがなかなか難しい。自分の言いたいことが決して伝えられないわけではないとはいえ、コミュニケーションを取る上で、常にストラグルを感じているからなのか、あるいはそうではないのか――。
こちらで生活を送る中で得た情報や、日頃感じていること、を何か共有できる機会があれば….…という念が、いつしか心の奥底にひっそりと生まれていた。

……そんな中、このたび THE FLUTE ONLINE での連載をさせていただけることとなった。それで、こうして不慣れに両手でポチポチとキーボードを叩きながら、綴っているのである。


ある晴れた日のマンハッタン

 ジャズが音楽的バックボーンである僕にとって、渡米以前もニューヨークという街は決して縁遠い存在ではなかった。奴隷解放宣言後のアメリカで、当時黒人達が演奏していた音楽がやがて”JAZZ”と呼ばれ、ニューオリンズ、シカゴと徐々に北上した後、今日に至るまで半世紀以上JAZZにおけるあらゆる音楽的進化を遂げる温床となってきたのが、このニューヨークという街なのである。
しかし、無論このWEB連載はジャズ専門誌ではなく、今ここまで読んでくださっている皆様に僕がジャズのウンチクを烏滸がましく申し上げるために、こうして貴重なスペースをいただいているわけでもない。なんてったってTHE FLUTE ONLINEなのである。ジャンルというのは時に非常に不自由なもので、それがために思いがけないステレオタイプに直面することが少なからずあるのもまた事実である。至ってジャズ育ちの僕であるが、あくまで一人のフルート奏者として、これからニューヨークの様子について皆さんに発信していけたらと考えている次第である。


Composer’s Chamber Jazz Concert にて

 


こうしたちょいと小粋なレストラン等でも演奏します

 現在の僕の生活の主軸は、実は大学院である。日本にもジャズを専攻できる音楽大学がいくつかあるのだが、僕も数年前にそれを卒業し、昨年度よりManhattan School of Musicに籍を置いて大学院で修士課程を進めている。ニューヨークの音大事情については今度改めてこちらでご紹介できればと思っているが、作曲やアレンジ、レポート等といった毎週の課題量の多さは学部1年目当時のそれをはるかに凌ぎ、想像以上に非常にしんどい…….いや失礼、非常に充実した毎日なのである。そのManhattan School of Musicを介した学内外での演奏に加え、ジャズバーでのライブやレコーディング、レストラン・ギグ等がこちらでの主な演奏機会である。いわゆる生演奏を売りにしているお店以外でも、ライブを行なっているバーやレストランも多い。

 

こうしたちょいと小粋なレストラン等でも演奏します

とあるレコーディング風景

またニューヨークは年間を通しても比較的乾燥しているように感じ、よほど空気の篭っている場所でなければフルートは演奏していてカラっと気持ちよく鳴ってくれる。ケースからフルートを出した時、その手触りが心なしかジトっと感じる時期になるたび「あぁ早く梅雨が明けないかなぁ」などと日本では思っていたのだが、今のところこちらではそういった気持ちになったことはない。
しかし、緯度はおよそ青森県のあたりと同じだということもあり、冬の時期はそれはそれは寒い。これを書いているまさに今、11月初旬にして気温は既に-2℃である。自宅に備え付けの暖房機器が壊れていた去年のちょうど今頃、外気が氷点下をゆうに下回り、ヒーターなしでただ布団にくるまって過ごした夜には、さすがに死を覚悟したものだった。

 

とあるレコーディング風景

 生活環境が日本を離れてからガラリと変わり、気候のみならず、冒頭で述べた通り未だに文化や言語の中でも困難に感じることは少なくはない。時にそれに苦しむこともあるのだが、そういった気持ちを払拭してくれるのが、何よりこの街に溢れている音楽なのである。
夜ひとたび街に繰り出せば、あちこちでライブやコンサートを耳にすることができる。次回はそんなニューヨークの音楽シーンを支える場所の数々にスポットを当て、みなさんにご紹介できればと思います。

次回更新もお楽しみに!

登場するアーティスト

片山士駿
Shun Katayama

国立音楽大学ジャズ専修首席卒業、矢田部賞受賞。マンハッタン音楽院修士課程修了。第46回山野ビッグバンドジャズコンテスト最優秀ソリスト賞を受賞。米国フルート協会NFA主催 Jazz Artist Competition Winner Player選出。The 43rd Detroit Jazz Festival出演。自己ユニットでの演奏の他、様々なレコーディングへの参加等、幅広く活動を展開している。

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