第5回|“フルートのショパン”に挑戦!
突然ですが、フルートの楽曲を多く残した作曲家のカール・ヨアヒム・アンデルセン(Karl Joachim Andersen)をご存じですか?
THE FLUTEでもVol.92~Vol.95で取り上げたことがあります。
1004年、アンデルセンはパリがコンセルヴァトワールを訪れました。当時のフルト科教母であったタファネルはアンデルセンの前で彼のエチュード、作品15の3番G-Durを演奏しました。それを醸いたアンデルセンは、「自分がこんな素晴らしい曲を作曲したなんて思ってもみなかった」と言ったそうです。そしてタファネルの後継者エネバンは「ピアニストにはショパンのエチュードという素晴らしいものがあるが、フルーティストにはアンデルセンのエチュードがある」と言ってアンデルセンのエチュードを高く評価していたそうです。そんなところから「フルートのショパン」といういわれが出たのでしょう。
THE FLUTE Vol.92 「フルートのショパン"アンデルセン"」より(石原利矩:著)
アンデルセンは1847年、デンマークのコペンハーゲン生まれ。 フルートの名手、ポール・タファネル(1844~1908)や『タイスの瞑想曲』で知られるジュール・マスネ(1842~1912)と同じくらいの時代を生きた人です。
父から弟のヴィゴとともに手ほどきを受け、13歳にして公の場で演奏していました。1869年にはデンマーク王立管弦楽団に入団しますが、1878年に1年の休暇ののち辞任。その後海外へ渡り、1882年にはベルリン・フィルハーモニ管弦楽団の創設時にフルート奏者として名を連ねました。舌の麻痺により演奏活動に支障が出始め、デンマークに帰国したあとは、フルート奏者としてだけでなく教育者や指揮者としても活躍しました。
さて、アンデルセンというと『24の練習曲(op.15他)』を真っ先に思い浮かべる方も多いはず。フルート専攻の方なら一度は吹いたことがあるであろう、著名なエチュードです。
ではエチュード以外の作品は何曲ほど聴いたことがありますか?
コンクールや演奏会でも『バラードと空気の精の踊り(シルフのダンス)』は良く演奏されていますね!
今回はエチュードから少し離れて、「フルートのショパン」とも呼ばれた彼の洗練された作品全集をご紹介します。
アンデルセンについて連載してくださっていた石原利矩さん監修の、フルートとピアノの編成です。
本連載では実際に編集部メンバーが試奏して、(主観になりますが)難易度やポイントをまとめてみました! 少しでも選曲の参考になったら嬉しいです。
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編集部が吹いてみた! アンデルセン フルート全集 vol.2
『ガヴォット』
中級くらいの方にオススメ。可愛らしい曲です。臨時記号によりメロディがより洒落っ気のある雰囲気になっています。
『アルバムの1頁』\編集部オススメ!/
ゆったりしていてシンプルなので、始めたばかりの方も譜読みはしやすいかもしれません。演奏会などのアンコールピースにもなりそう。
『あきらめ(瞑想曲)』
緩徐曲です。シンプルなメロディですが、3連符や強弱を表現できると綺麗に聴かせられるかもしれません。フルートを始めて少し経ち、本格的にクラシックをスタートさせたい方にオススメ。
『ポロネーズ』\編集部オススメ!/
ハ長調の爽やかで快活な曲。細かい連符などを抵抗なく譜読みができる・吹ける上級者にオススメ。中間のヘ長調でゆったりしたメロディも美しいです。
『ハンガリアン・ファンタジー』
vol.2の中で一番難易度が高いと感じます。ブラームスの『ハンガリー舞曲第5番』を彷彿とさせる場面も⁉ 場面の移り変わりが楽しい、華やかさ抜群の一曲です。
編集部が吹いてみた! アンデルセン フルート全集 vol.4
『無窮動』
エチュードを多く作曲したアンデルセンの側面を感じさせる挑戦的な一曲です。表題のとおり譜面のほとんどが目まぐるしい16分音符ですが、和声の変化が楽しい作品。上級者向けです。
『ファンタジー・カラクテリスティク』\編集部オススメ!/
歌う感性もテクニカル要素も求められる一曲。ステージを華やかにしてくれそうです。T.ベームの『グランドポロネーズ』やP.タファネルの『魔弾の射手に主題によるファンタジー』などを吹ける方にオススメです。
『牧歌』
タイトル通りのびのびとした雰囲気のある作品。8分の3拍子なので、前に進む推進力があります。さほど長くはなく、中~上級向けの一曲です。
『夢想』\編集部オススメ!/
短く穏やかな作品です。レベル分けとしては、フルートを始めたばかりの方が次のステップに進むときによいのではないでしょうか? フルートを難なく吹ける方が表情豊かなフレージングで演奏するのもおすすめです。
ゆったりしたメロディの中に少しずつ入っている32分音符がアンデルセンらしさを感じさせます。
『マズルカ風に』
マズルカなのでリズムの軽快さがポイントになってきます。『ファンタジー・カラクテリスティク』ほど難易度は高くありませんが、まずは正しく譜読みができることが大切です。上級者向き。
編集部が吹いてみた! アンデルセン フルート全集 vol.6
『つばめ(ワルツ・カプリース)』
冒頭の主題は軽やかに3拍子にのって演奏したいシーンです。途中にテクニックが必要とされる16分音符も出てきますが、『歌劇 椿姫によるファンタジー(ガムゾー編/E.パユ・プレゼンツシリーズ)』などのヴァリエーションに抵抗がなければ、難しすぎるということはないはずです。最後までとても華やかなので、演奏会でも映える作品です。
オペラ編曲集 モーツァルト『フィガロの結婚』\編集部オススメ!/
オペラ好きにはたまらない作品!
『もし男爵様が踊るなら』『自分で自分が分からない』『恋はどんなものかしら』など5曲が入っています。難易度は中級くらい。原曲と調性は異なりますが、オペラそのもののフレーズを気持ちよく吹ける作品です。
『再会(無言歌)』
8分の12拍子イ長調の、明るく充実感に溢れた曲です。8分音符が多く出てきますが、ケーラーのエチュード1番~2番を習得できているくらいだと、スムーズに譜読みができるはずです。ピアノの和声に乗って、前のめりになりすぎないように演奏するのがポイントです!
主題と変奏『若きフルート奏者のための演奏会曲』\編集部オススメ!/
初めて変奏曲ものにチャレンジする方に最適です。初級~中級の方にオススメ。
主題とヴァリエーション2種とコーダのシンプルな形です。2個目のヴァリエーションは3連符なので、苦手な方にも良い課題となるはず。
おさらい会などで吹くのにもよいかもしれません。
4つのサロン作品 No.1『期待』
変イ長調の穏やかな作品です。フレージングが長いので、ブレスコントロールは重要になってきます。ターンやトリルを小気味良く入れられると美しく仕上がるでしょう。初級~中級くらいの方から楽しんでいただけそうな作品です。
4つのサロン作品 No.2『間奏曲』
ロ短調4分の2拍子です。冒頭の主題はどこかエキゾチックにも感じられます。最高音のH(シ)まで出てくくるので、予めフルート全体の音域が把握できていると良いのではないでしょうか。16分音符は多めですが、嫌な跳躍などはほとんどありません。
4つのサロン作品 No.3『慰め』
シンプルでゆったりとした雰囲気の作品です。初級の方、もしくは中・上級の方がワンランク上のフレージングを意識しながら音楽的に吹くと良いかもしれません。繊細な表現が求められます。
4つのサロン作品 No.4『ワルツ』
軽快なワルツで終始快活な雰囲気です。16分音符も停滞せずにくるくる踊るように吹けるとぴったりなのではないでしょうか? 比較的高音域がよく出てくるので、力まずに吹き続けることも大切です。
2曲の性格的小品『エレジー』
イ短調の属七の響きでスタートします。フルートのパートのみではハーモニーがとりづらいと思うので、ピアノのパートも把握しておくことをおすすめします。臨時記号をしっかり確認すれば譜読みはさほど難しくないはずなので、中級以上の方は難なく練習に取り組めるのではないでしょうか?
最後はイ長調で明るく締めくくるので、曲調の変化も味わってくださいね。
2曲の性格的小品『夕べの歌』
ノスタルジックな作品です。短い曲ながらもアクセントや強弱などの指示がしっかり記載されているので、それらを落とさず丁寧に練習できると、豊かな表現に近づけそうです。ひとつ前の『エレジー』とともに吹いてみてください。
今回初めて耳にする作品名があった、という方も多いのではないでしょうか?
上記以外にも、アウトレットでのみ販売しているナンバーもございます!
フルートのレパートリーに欠かせないアンデルセン。彼のロマンティックな世界観をぜひ味わってみてくださいね♪
【出典】Wikipedia(英語版)、THE FLUTE Vol.92~95「フルートのショパン"アンデルセン"」(石原利矩:著)