フルート記事 とちぎフルートフェスティバル2023~さかはし矢波と仲間たち~
  フルート記事 とちぎフルートフェスティバル2023~さかはし矢波と仲間たち~
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THE FLUTE vol.198 Special Event

とちぎフルートフェスティバル2023~さかはし矢波と仲間たち~

REPORT
栃木放送シニアプロデューサーの川島育郎氏による挨拶

冬の晴れた日曜日。栃木県は宇都宮にて、栃木放送開局60周年記念「とちぎフルートフェスティバル 2023」が行なわれた。
当日は地域の方々が多く来場し、その演奏を楽しむ姿が見られた。
公演は出演者全員が栃木県出身のプロとして活動するフルート奏者による演奏で、プログラムは前半がフルートアンサンブル、後半がフルートオーケストラという構成だ。

 

1曲目はフルート三重奏で三浦真理さんの『想い出は銀の笛』。公演の冒頭にふさわしく、流れのある音楽づくりで公演の幕開けを飾った。3人の音色もバランスよくミックスされ、全5楽章を間延びさせることなく軽やかに、作品がもつ華やかさを表現していた。

2曲目はフルート四重奏でモウアーの『フィクションズ』。モダンでジャズの響きを感じられる作品だ。4パートがそれぞれ細かい音の並ぶメロディを絶え間なく演奏する音楽は、まさに水流のよう。それを1本のフレーズに聴かせるテクニックは4者ともに高い演奏スキルを持つ所以だろう。後半は特殊奏法も登場し、一般的にイメージされるフルートとは一味違った側面を見事披露した。

前半最後はフルート七重奏の『チェンジズ』。立ち位置を入れ替えながら進行する、フルート界隈では言わずと知れた作品だが、初めて聴く方の衝撃はいかばかりか。特別ゲストの竹下正登さんを筆頭に、各奏者の個性を楽しむことができる。この曲では可愛らしく明快なピッコロや、優しいメロディを奏でるアルトフルートが登場するのも聴きどころだろう。立ち位置を入れ替える楽章間では毎回パフォーマンスも組み込まれ、会場はクスリと笑いの漏れる和やかな雰囲気に包まれた。

休憩を挟んで、フルートオーケストラが始まる。1曲目はドップラー『アンダンテとロンド』。フルートオーケストラの出演者がステージに出てくると、コントラバスフルートの形と大きさに驚いたのだろうか、会場が少しどよめいた。ソリストは片爪大輔さんと瀧本実里さん。今注目されているフルート奏者のお二人だ。1st片爪さんのシルバーフルートらしい丸く深みのある音色と、2nd瀧本さんのハリのある密度の高い音色が会場に響く。普段はピアノとフルート2本で聴くことの多い作品だが、フルートオーケストラになると、大人数での演奏ならではの厚みと、特殊管の音色も際立つ。

2曲目は『ハンガリー田園幻想曲』で、ソリストはさかはし矢波さん。「衣装でも聴きに来てくれるお客さんを喜ばせたい」というさかはしさんは、金色のジャケットで登場。『ハンガリー田園幻想曲』を探究し、数え切れないほどステージで演奏してきたさかはしさんだからこそのフレージングと起承転結で会場を魅了した。ソリストを支えるフルートオーケストラは、柔らかい音色で哀愁を醸し出す。エアリード楽器であるフルートならではのしなやかさを持ちながらも音楽的には停滞しない、アンサンブルとして呼吸の合った演奏であった。

続いて『ブルー・トレイン』。ここからは指揮を務める、さかはしさんの衣装は輝くグリーンだ。フルートで汽笛を表現し、刻まれる和音は走行する汽車のドラフト音。溌剌とした列車ではなく、車窓からしっとりと情景を味わうような、儚げなメロディが印象的だ。
最後は新作初演で木暮晴氏作曲の『栃木をゆく』。どこかノスタルジックで、栃木の豊かな自然を彷彿とさせる作品だ。栃木に馴染みのある方であれば、より鮮明にその風景が思い浮かぶだろう。和を感じる響きで、途中にはメロディに合わせて手拍子が入る場面もあり、最後は希望に満ちたハ長調で終結。栃木への愛が詰まった作品、そして演奏だった。

アンコールではさかはしさんがクリスマスカラーの赤いジャケットで再登場し、『クリスマス・メドレー』を演奏。『きよしこの夜』『もろびとこぞりて』など、誰もが知っているクリスマスソングで会場を包んだ。

長年ラジオのパーソナリティを務めるさかはしさんの軽快なトークも楽しい

終始アットホームな様子が窺える本公演。終演後に出演者に話を訊くと、今回出演したメンバーは師弟関係や学生時代の先輩・後輩など、2世代にわたり繋がりがあるという。互いに初めて共演する奏者もいたとのことだが、音楽をとおして新たなコミュニケーションが生まれ、出演者も来場者も笑顔で幕を閉じる公演を成し遂げた。まさに「大成功」を収めたとちぎフルートフェスティバル、この温かいつながりが今後も続くことを心から願っている。

ラストは「さかはし矢波の三つ星クラシック」でお馴染みの「星3つ!」の掛け声で締めくくる。ステージと客席が一つに!

 

栃木放送開局60周年記念 とちぎフルートフェスティバル2023~さかはし矢波と仲間たち~
[日時]12/10(日)14:00開演 [会場]宇都宮短期大学 須賀友正記念ホール
[出演]さかはし矢波/安倍愛里彩/片爪大輔/金田桃子/栗田智水/小林玲緒那/坂本朝菜/坂本しのぶ/竹下正登(ゲスト出演)/島田絵里/清水彩子/髙橋詩織/髙橋由起/瀧本実里/豊田尚史/西園文美/萩原可奈
[プログラム]三浦真理:フルート3重奏のための 想い出は銀の笛、M.モウアー:フルート4重奏のための フィクションズ、L.モーリー:フルート7重奏のための チェンジズ、F.ドップラー(竹下正登 編曲):フルートオーケストラ版 アンダンテとロンド OP.25(ソリスト:片爪大輔・瀧本実里)、F.ドップラー(竹下正登 編曲):フルートオーケストラ版 ハンガリー田園幻想曲 OP.26(ソリスト:さかはし矢波)、廣瀬量平:フルート・オーケストラのための ブルー・トレイン、木暮晴:フルート・オーケストラのための「栃木をゆく」(新作初演/作曲者自身が名所旧跡を訪ね、栃木県の未来を描いた委嘱作品)
アンコール:クリスマス・メドレー
[共催]栃木放送、宇都宮短期大学音楽科

 

INFORMATION

CRT栃木放送
http://www.crt-radio.co.jp
「さかはし矢波の三つ星クラシック(毎週日曜日 19:00~)」が全国で聴けるようになりました♪
詳しくは〈radiko.jp〉にアクセス!


フルート奏者カバーストーリー