フルート記事 【act.4】《番外編》世界的フルート奏者 ヘンリック・ヴィーゼさんに訊く
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バロック音楽の謎を解く ─フラウト・トラヴェルソとともに

【act.4】《番外編》世界的フルート奏者 ヘンリック・ヴィーゼさんに訊く

LESSON
 
 

今回は番外編です。バイエルン放送交響楽団の首席フルート奏者、ヘンリック・ヴィーゼさんにお話を伺いました。ドイツを代表するオーケストラの首席奏者でありながら、校訂者や編曲者としても多くの楽譜の出版に携わっているヴィーゼさん。そのヴィーゼさんがバロックアンサンブル「ラッカデミア・ジョコーサ」でフラウト・トラヴェルソを担当していることを、ヴィーゼさんが所属するバロックアンサンブルと共演したメンバーから聞きました。ヴィーゼさんのフラウト・トラヴェルソを聴いたとき、その鮮やかなテクニックや音楽解釈に深く感銘を受け、ベーム式フルートとフラウト・トラヴェルソの両方の楽器を高いレベルで演奏する奏者がいることに驚きました。今回ヴィーゼさんに、楽器を持ち替える際の考え方やベーム式フルートでバロック音楽を演奏する際のアプローチについてお訊きしたところ、真摯に答えてくださいました。

 

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フラウト・トラヴェルソを吹くきっかけは何でしたか?

ヴィーゼ(以下 W) もともと古楽器について、録音などを通じて知識はありましたが、友人がフラウト・トラヴェルソを貸してくれたことがきっかけです。その楽器で演奏するのがとても楽しく、自分のフラウト・トラヴェルソが欲しくなり、学生時代の1989年頃、自分のフラウト・トラヴェルソを購入しました。北ドイツの職人、Kowalewskyが製作したロッテンブルクのコピーです。当時の私にとってはかなり高価な買い物でした。
本格的に演奏するようになったのは、2006年にバイエルン放送交響楽団に移籍したときです。オーケストラの中に古楽器を演奏する同僚が何人かいて、彼らの企画した演奏会に私もフラウト・トラヴェルソで出演することになったからです。私は正確にいえばフラウト・トラヴェルソ奏者ではありません。なぜなら、一度もレッスンを受けたことがないからです。音楽を聴いたり、フラウト・トラヴェルソ奏者と話したり、共演したり、文献を読んだりして、独学で学びました。古楽器に関する本は、クヴァンツのような歴史的文献から、現代の古楽奏者が書いたものまで、たくさん読みました。自分の方法で、自分の感覚や感性を信じて楽器を探求し、楽器を学ぶことはとても楽しいです。

 

フラウト・トラヴェルソとベーム式フルートはどのような違いが挙げられますか?

W双方の違いは奏法、音色、そして音量にあります。
奏法でいうと、ベーム式フルートでは一定のアンブシュアや息の量、息圧で演奏することで、ムラのない均整のとれた音や、安定した音程を出すことができます。対照的に、フラウト・トラヴェルソは楽器の特性上、不安定です。奏者がより音程を調整し、修正する必要があり、それぞれの音に適した息量、息の角度で演奏することが求められます。楽器本来の音色を探求し、その美しさを生かさなければなりません。
次に音色の違いです。フラウト・トラヴェルソは、小さな歌口や指穴、円錐形により、哀愁を帯びた悲しげな音色を持っているように思います。一方、ベーム式フルートは、その円筒形状から中立的で安定した音色が得られることが重視されているため、ドイツではベーム式の導入に反対する奏者が多く、その導入が遅れたのだと思います。もちろんベーム式フルートでも哀愁を帯びた音色を作り出すことはできますよ。しかし楽器の物理学に従い、本来の楽器そのものが持つ特性に耳を傾けると、より均一な音色の豊かな音が出るように作られていると思うのです。
音量については、フラウト・トラヴェルソのほうが繊細でか弱い音がしますから、他の楽器との音量のバランスが難しいです。

 

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Profile
ヘンリック・ヴィーゼ
ヘンリック・ヴィーゼ Henrik Wiese
1971年ウィーン生まれ。フルートをイングリット・コッホ・デンブラグ氏とパウル・マイゼンに師事。ミュンヘンで印欧語学、一般言語学、音楽学の学士号を取得。ドイツ音楽コンクール(1995年)、神戸国際フルートコンクール(1997年)、カール・ニールセン国際コンクール(1998年)、マルクノイキルヒェンコンクール(1998年)、ミュンヘン国際コンクール(2000年)などで数々の賞を受賞。1995~2006年までミュンヘンのバイエルン州立歌劇場の首席フルート奏者を務め、2006年よりバイエルン放送交響楽団の首席フルート奏者を務めている。
 
 
Profile
白井美穂
白井美穂 Miho Shirai
名古屋芸術大学音楽部を首席で卒業。渡独後、ロベルト・シューマン音楽大学のディプロマを最優秀で取得し、室内楽科を最優秀で卒業。18世紀バロック時代の演奏慣習に興味を持ち、エッセンおよびフランクフルト芸術大学の古楽学科、多鍵フルートのマスター過程を終了。ドイツを拠点にヨーロッパ各地で古楽奏者として演奏会に多数出演。ゲーテ・インスティトゥートのドイツ語検定C2(最高レベル)を取得し、翻訳、通訳活動も行なっている。2023年6月、拠点を日本に移し演奏活動を行う傍ら、後進の指導にも力を入れ、最近ではバロック時代の演奏法について、オンラインでのレッスンも行なっている。
http://www.mihoshirai.com
 

ヘンリック・ヴィーゼさんの書籍新刊・校訂楽譜発売

◆W.A.モーツァルト: 交響曲第36番「リンツ」 KV 425〈2024年3月発売〉
出版社:Breitkopf & Härtel
スコア(PB 5537)& オーケストラパート譜(OB 5537)

 

◆カール・ライネッケ:『ナイチンゲール』童話「豚飼い王子」よりop.286〈2024年3月発売〉
出版社:エディションKossack
スコア、オーケストラパート譜(20214)& ピアノ譜(20212)

 

◆ヘンリック・ヴィ―ゼ著「音から表現へ」練習帳〈2024年秋 発売予定〉
出版社:Zimmermann音楽出版社(ZM 36390)

 

◆カール・ライネッケ:『 バラードop.288』〈2024年冬 発売予定〉
出版社:Breitkopf & Härtel
スコア(PB 5749)、オーケストラパート譜(OB 5749)& ピアノ譜(EB 9475)
※Breitkopf & Härtel,Wiesbadenの許可を得て転載

 
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