フルート記事
[THE FLUTE vol.200 記念号]特集1 │ 現代【神田寛明&瀧本実里】

コンクールはスタート地点。決してゴールではない。

NHK交響楽団の首席奏者として、現在の日本のフルート界の第一線で活躍している神田寛明氏と、多くのコンクールで1位など上位入賞を果たしており、未来のフルート界で活躍するであろう瀧本実里氏の対談が実現。テーマは「コンクール」。コンクールに潜む弊害、それから派生するフルートの未来への変革を聞く。
写真:河野英喜(株式会社エントランス)

 

審査するポイントは4つ

お二人が初めて会ったのはいつ頃ですか?
神田
瀧本さんのことはコンクールの審査を通じて知っていましたし、2021年にエキストラでNHK交響楽団に来てくれましたね。確かマーラーの『交響曲第1番』でした。ただこのときは、僕と席が遠かったのであまりお話はできませんでしたが。
瀧本
2ndピッコロでした。そのときに私が生まれた年に神田先生がN響に入られたことを知り驚きました。私が生きてきた年月をずっとN響でご活躍されているのはすごいと思いました。
神田
瀧本さんはプロフィールを見てもわかるように、コンクールではいつも上位入賞されるので、こちらも成長の度合いがよく分かるんです。
瀧本
コンクールに出続ける意味がそこにあると思っています。コンクールが違っても同じ審査員、ということがありますから、前回の演奏を踏まえて……というふうに聴いていただき、講評をいただけると思っています。それがコンクールを受ける目的の一つです。
審査するときにポイントとしていることはどんなことですか?
神田
いくつかあります。一つ目は課題曲をきちんと吹いているか、演奏できているかということ。二つ目は古い時代のものから現代の作品まで時代のスタイルに合う演奏ができているか。とても上手に吹くけど、バッハもベリオも同じように吹いてしまう、という人は、ちょっとね……。
三つ目は基礎的なテクニック、四つ目はなんといっても音色です。
コンクールはその日の調子や課題曲の得意不得意、審査員の顔ぶれなど様々な要因があり、その結果は普遍的とは言えないかもしれない。コンクールの順位で、その人のフルーティストとしての価値が決まるとはまったく思っていません。
瀧本
審査に関わっていると、ずっと朝から同じ曲を聴いているので大変ですよね。
神田
大変といえば大変だけど、ちゃんと聴いて審査しています(笑)。
一次予選は3分ぐらいの無伴奏曲が課題になることが多いのですが、そこで大事なのは基礎的なことができていること。つまり音がしっかり出せているか、楽譜通りに吹いているか、ということです。実は意外と楽譜通りに吹いている人は少ないと思います。
 

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神田寛明 Hiroaki Kanda
NHK交響楽団首席奏者・桐朋学園大学教授・第11回神戸国際フルートコンクール運営委員長。1991年第5回日本フルートコンヴェンションコンクールおよび第8回日本管打楽器コンクールにおいて第1位。1993年東京藝術大学卒業。1995年より1年間ウィーン国立音楽大学に留学。2007年東京藝術大学大学院修了。赤星恵一、金昌国、細川順三、ヴォルフガング・シュルツ、ハンスゲオルグ・シュマイザーの各氏に師事。大阪芸術大学客員教授、東京藝術大学講師。神戸や北京ニコレなどの国際コンクール、日本音楽、日本管打楽器、日本木管、全日本学生などのコンクールにおいて審査員を務める。N響定期公演においてトン・コープマン氏とモーツァルトの協奏曲を演奏。CDを多数リリース。音楽之友社より「上達の基本」「ケーラー練習曲Op.33(監修)」を発表。60タイトル以上のフルートアンサンブル作品を編曲・出版している。

 

瀧本実里 Misato Takimoto
栃木県出身。東京音楽大学を卒業。フルートを坂本しのぶ氏、工藤重典氏に師事。2019年に日本音楽コンクール フルート部門、東京音楽コンクール 木管部門、びわ湖国際フルートコンクールで立て続けに優勝した他、様々なコンクールで優勝。2016~18年小澤征爾音楽塾に参加。2018年度RMF奨学生。これまでに東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団と共演。NHK-FM『リサイタル・パッシオ』に出演。

 
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