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THE FLUTE 152 Cover Story|パトリック・ガロワ、工藤重典、瀬尾和紀
パトリック・ガロワ with 工藤重典&瀬尾和紀 インタビュー
去る4月、還暦を迎えたパトリック・ガロワ氏。久々の来日となり、すみだトリフォニーホールでバースデーコンサートが行なわれた。コンサートの熱気も覚めやらぬ翌日、一緒にステージに立った工藤重典、瀬尾和紀両氏と共に座談会形式でお話を伺った。インタビュアーは、ガロワ氏の弟子であり、同じくコンサートにゲスト出演した今井貴子さん。四人のフルーティストによる濃密で奥深い、フルートだけに留まらない音楽談義が繰り広げられた。
インタビュアー:今井貴子/写真:土居政則/取材協力:すみだトリフォニーホール、東京音楽大学
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昨日のコンサートのプログラムは、どんなことを基準に選曲されましたか?
ガロワ
まず第一に、私自身をよく知っていただけるよう、プログラムの大部分をフランス音楽にしました。ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』は、30年前にフランス国立管弦楽団を退団してからも、何度も繰り返し演奏したいと思う作品です。ゴーベールやヴィドールの作品も、ドビュッシーと同様にフルートと人間の呼吸の間に音楽が存在する、素晴らしい曲です。ボワモルティエは、友人が集まったときに演奏することが多く、生徒たちともよく演奏していますよ。
工藤
美しい作品だね。
ガロワ
そうだね。ジャン=ピエール(ランパル)もよく仲間たちと楽しんでいたね。
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工藤さんは今回のボワモルティエの演奏についてどう思われましたか?
工藤
僕自身、何度も演奏した作品で、毎回様々な音楽家との演奏を楽しみましたよ。今回はガロワ・スタイル! もちろん僕の演奏とは大きく異なるけれど、素敵じゃないですか! パトリックはアーティストであって、大事なのは彼がどう演奏するかではなく、どのように芸術を見出しているのかということ。以前、パトリックがモーツァルトには36万通りの異なった演奏スタイルがあると話していましたが、どの方法が正しいのかなんて誰にもわかりません。
ガロワ
この話はとても重要だね。アイデアを守り抜くということ。時にはまるっきり誤ったアイデアを貫くこともあり得るけれど、それ自体は大した問題じゃない。多くの人々が何をしたいのか分かっていないまま演奏しているけれど、それなら誤ったアイデアでも貫いているほうが良いでしょう。ランパルはいつもこう言ってたよね。「好きに演奏していいよ。ただし上手にね」(一同笑)
これは彼から最初に習ったことで、そしていつもこの本質に戻ってくる。我々が演奏したボワモルティエは挑発的だったかもね。でも、もし2年後に一緒に演奏したら、まったく別のものになるかもしれない。コンサートは録音とは違って、固定されたものではない楽興の時なのですから、いつも創造することです。
これは彼から最初に習ったことで、そしていつもこの本質に戻ってくる。我々が演奏したボワモルティエは挑発的だったかもね。でも、もし2年後に一緒に演奏したら、まったく別のものになるかもしれない。コンサートは録音とは違って、固定されたものではない楽興の時なのですから、いつも創造することです。
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今回のプログラムに入っていたアンサンブル曲などは、最近演奏されることが少なく、貴重な機会だったと思います。
ガロワ
今回、シゲノリと一緒にベームの二重奏曲(メンデルスゾーンとラハナーによる)の素晴らしい“歌”を見出していけたことが嬉しかったね。僕は初めてこの曲を演奏したんだけど、シューベルトの音楽のテクスチュアを含んだものだったので、いかにフレーズを終えつつ、新たに次のメロディに入るかという作業がとても楽しかった。
工藤
メンデルスゾーンだよ(笑)!
瀬尾
確かにドイツリートだからね(笑)!
ガロワ
そう! ドイツリート。2本のフルートのための作品は、ドップラーのようにいつも煌びやかで、華やかさがあって素晴らしいけれど、時には夢を見るための時間があってもいいじゃないですか。
工藤
僕もこの作品が大好きでね。ただフルーティストが演奏するというのでなく、“音楽家”でなければならない。僕たちがコンサートでそれを実現できていたらいいけどね(笑)。
ガロワ
時として単にフルーティストでいることを止めて、音楽家であるということを受け入れることは非常に大切だと思う。音楽家でいるって、いいことですよ!
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ニコレの言葉に背中を押され…
ランパルと木管フルート
フルートと音楽と色
ONLINE限定:アドリブをもっと自由に、上手に吹きこなしたい! どうしたらいいですか?
Profile
パトリック・ガロワ
Patrick Gallois
Patrick Gallois
フランス北部、ランセル出身。パリ国立高等音楽院にてジャン=ピエール・ランパルに師事し、弱冠17歳でリール・フィルハーモニー交響楽団の首席ソロ奏者を務め、21歳でロリン・マゼール率いるフランス国立管弦楽団の首席ソロ奏者となる。同オーケストラに在籍した7年の間、レナード・バーンスタイン、セルジュ・チェリビダッケ、ピエール・ブーレーズ、小沢征爾、カール・ベーム、レオイゲン・ヨッフムなど著名な指揮者達と多くの録音を残している。1984年、ソリストとしての演奏活動に専念することを開始。日本ビクター(JVC)にて録音を重ね、5週間以上に及ぶ年間ツアーを行ない、日本ゴールドディスクを得る。その後、ドイツ・グラモフォン(DGG)とフルーティストとしては初めての専属契約を結び、10枚以上のCDをリリース。さらに指揮者として新たな音楽の可能性を求め、現在はナクソス(NAXOS)と契約を結び、40枚以上リリースされているCDのうち、25枚は指揮者としての録音である。
工藤重典
Shigenori Kudo
Shigenori Kudo
札幌生まれ。1978年パリ国際フルート・コンクール、1980年J.P.ランパル国際フルート・コンクール優勝。パリ音楽院でランパルに師事。ソリストとしてこれまで世界40ヶ国以上を訪問し、欧米各国の一流オーケストラと共演。サイトウ・キネン・オーケストラと水戸室内管の首席フルート奏者として長年演奏を続けるなど、日本フルート界の第一人者として活躍している。リサイタルやマスタークラスを40ヶ国、180以上の都市で開催。現在は、東京音楽大学、パリ・エコール・ノルマル、上野学園大学、大阪音楽大学、エリザベート音楽大学にて後進の指導にもあたっている。現在、水戸室内管弦楽団首席奏者、オーケストラ・アンサンブル金沢特任首席奏者を務める。文化庁芸術作品賞、村松賞、フランス国大統領賞、京都芸術祭特別賞を受賞。
瀬尾和紀
Kazunori Seo
Kazunori Seo
福岡県北九州市出身。パリ国立高等音楽院に学びフルート科を審査員満場一致の一等賞(プルミエ・プリ)を得て首席で卒業。これまでに高橋安治、パトリック・ガロワ、アラン・マリオン、モーリス・ブルク等の諸氏に師事し、ニールセン国際国際音楽コンクール、ジャン=ピエール・ランパル国際フルート・コンクール、ジュネーヴ国際音楽コンクールなどで立て続けに受賞したのを機に、フランスに拠点を置きながらヨーロッパ、北南米、またアジア諸国でコンサート活動やマスタークラスを行なってきた。日本では1999年に東京都交響楽団とイベールのフルート協奏曲を共演してデビュー以来、東京シティフィル、新日本フィル、日本フィル、読売日響ほか各地のオーケストラからソリストとして招かれ共演を重ねている。2009年より秋吉台ミュジック・アカデミーで音楽監督を務めているほか、2016年度より名古屋音楽大学客員准教授に就任。