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THE FLUTE 142 Cover Story
創造性を持って音楽とともにあること
ミュンヘン・バッハ管弦楽団の日本ツアー、それにあわせての東京藝術大学特別招聘教授として来日していたヘンリク・ヴィーゼさん。1か月ほどの日本滞在で、すっかり流暢になっている日本語の挨拶には驚かされます。簡単な文章しか組み立てられず、返ってくる答えもわからないと謙遜しながらも、その習得の速さには彼の余りある知性を感じます。そんなヴィーゼさんのもとで勉強した東京都交響楽団の小池郁江さんをインタビュアに迎えて、その素顔に迫ります。
インタビュア:小池郁江、通訳・翻訳:横田揺子、写真:土居政則
大切なことは“やってみよう”とすること
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今回、長く日本に滞在していろんな学生と接してレッスンされましたが、感想はいかがでしたか?
ヴィーゼ(以下 W)
まずここの学生のレベルが、かなり高いということ。もちろんどの学校でもあるように、より良い学生、まだ途上の学生、学生の中での差はあります。でも最も良い学生たちは国際的なレベルに達しているといえます。レッスンは私にとっても喜びでしたし、しっかりと準備されている演奏もたくさん聴かせていただきました。
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レッスンにおいて、日本とヨーロッパで違いは感じましたか?
W
はい、ずいぶん違うと感じています。日本人は、すべてを説明してもらい模範演奏を示してもらいたがる傾向にあります。でも、私自身がレッスンを受けてきた過程を振り返ると、私の先生はレッスン中に演奏をしてくれることが少ない方でした。先生が演奏で示さない、ということは生徒が自分自身のアイデアを見つけて実現できるようしないとならない、という方向につながっていきます。たとえば先生が「ここははっきりアーティキュレーションを出すべきで、このGに向かってフレーズを作っていく」とおっしゃっても、現実にどう聞こえるように吹くか、具体的にどう吹くかは自分自身で試行錯誤の上、見つけなければならない。ちょっと残念だったのは、生徒の幾人かは、何かをやってみようと試みなかったことです。「待っていますよ、どうぞ」と生徒が自発的になにかをするよう促してみたのですが……。この生徒たちは「間違ったことをする」ということに対する不安を捨てないといけません。大切なのは「とにかく試してみる」ということなのですから。(次のページに続く)
次のページの項目
・カデンツァを作ることで得られるもの
・職人芸は退屈
・音色の練習には3つの材料を使う
・ONLINE限定:研究と練習がヴィーゼ氏の音に煌きを与える
Profile
ヘンリク・ヴィーゼ
Henrik Wiese
Henrik Wiese
1971年ウィーン生まれ。ハンブルグでイングリット・コッホ・デルンブラク氏に、ミュンヘン音楽大学でパウル・マイゼン氏に師事。1995年〜2006年まで、ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場の首席フルート奏者を務めたのち、2006年からは、バイエルン放送交響楽団の首席フルート奏者を務めている。1995年ドイツ音楽コンクール、1997年神戸国際フルートコンクール、1998年カール・ニールセン・コンクール、マルクノイキルヒェン・コンクール、2000年にはミュンヘン国際コンクールなど、国内外の多数の国際コンクールに入賞。Ars Musici bis、cpo、Oehms Classics、Arte NovaなどのレーベルでCDを録音、多くの楽譜の校訂を行ない、ブライトコプフ&ヘーテルから出版するほか、編曲者としてユニヴァーサル出版から多数の楽曲を出版している。東京藝術大学音楽学部特別招聘教授。