新しいフルートの表現が生まれていく期待
フルーティストがフロントに立つ、プログレッシブなロックライブ。「ビギナーだってJAZZは吹ける!」連載中の松村拓海がレポートする。
2018年2月24日(土) Silver Elephant(吉祥寺)
[出演]カナリヤ(Fl.鈴木和美 /Acc.梅野絵里)、I.P.F.C(Fl:今井研二)、キクラテメンシス(Fl.鈴木和美 / Key.秋山佑介 (Imaginary Perception) / B.国分巧 / Dr.吉田真悟 (ex内核の波) / G.加藤裕幸)、TEE(Fl.今井研二 / Key.米倉竜司 / Dr.浅田隆行 /B.飯ヶ浜幸雄 / G.米田克己)
フルートをメインに据えるプログレッシブロックバンドを集めた「Progressive Flute Vol.3」。フルートがコンセプトのロックイベントで、しかも数あるロックのジャンルの中でも“プログレ”にスポットを当てた少々珍しいイベントだ。ロックの中のフルートというと、ビートルズのメロトロンでサンプリングされたフルートのサウンドが有名な他はあまり目立った活躍はない。しかし、ロックのイメージは薄いものの、プログレというジャンルの中でフルートは象徴的存在として数多くの名演が残っている。
この日会場は満員で、プログレファンの熱気で包まれていた。メインアクトは「キクラテメンシス」と「TEE」。キクラテメンシスは鈴木和美、TEEは今井研二がフルートを担当、どちらのバンドも編成は同じだ。
キクラテメンシスのライヴは客席から即興のフルートソロを吹きながら登場し、スタート。マイクの前まで歩いて行き、少々アバンギャルドな演奏の後バンドも加わり華やかなアンサンブルが飛び出してきた。かなり大音量のバンドの中、フルートが抜群にパワフルな音でバンドを引っ張りあげていき、完成度の高いアンサンブルで魅せていく。以前はアンサンブルをしっかりとまとめるように演奏していたが、メンバーも変わって自由度が増し、ソロパートを増やしたくなった、とMC。なるほど長尺のベースソロや幻想的なキーボードソロなど、各々が見せ場を作り会場を盛り上げていた。そしてMCの間にもメンバーから早くやろうと声が上がるなど、演奏したくてうずうずしている様子。フルートを吹く合間にもガッツポーズのような仕草をしたり、フロントの鈴木からも気持ちの入りようが伝わってきた。
キクラテメンシスが終わり、TEEの演奏がスタート。変拍子を交えた一曲目Flying Rosesから徐々にヒートアップ、ギターとフルートのユニゾンを多用し力強いサウンドで耳を奪う。軽妙なMCとフルートにコンタクトマイクを使い、ステージを動き回ったパフォーマンスも楽しく、飽きさせない。彼らの曲づくりは、バンドのツアーで立ち寄った姫路城の美しさや、同じくツアーで行ったフランスの街並など、旅先で見た風景からインスパイアされることが多いようだ。どの曲もその景色を想像させる幻想的な演奏で、会場の心を掴んでいた。
ライヴ前半・中盤とアンサンブルを大事にリフを重ねている印象だったが、後半で堰を切ったようなフルートソロが展開され、このために前半抑えていたのかと思うほど。アンコールまで演奏が終わると、たくさんの風景を観て旅から帰ってきたような気持ちだった。
どちらのバンドもプログレ最盛期の音楽の再現ではなく、自分たちの音楽として昇華させ、様々な挑戦が見られた。フルートの音色は二人とも太く美しく、力強くバンドを牽引していた。新しい音楽を模索したプログレッシブロックのように、新しいフルートの表現が生まれていくことが期待できるライヴだった。
text by 松村拓海(ジャズフルーティスト)