エマニュエル・パユ SOLO Vol.2
2019年12月2日(月)東京オペラシティ コンサートホールで行われた「エマニュエル・パユ SOLO Vol.2」の模様をレポートします。
(C)大窪道治/写真提供:東京オペラシティ文化財団
2019年12月2日(月)東京オペラシティ コンサートホール
[出演]エマニュエル・パユ(フルート独奏)
[曲目]
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第1番 イ長調
ヴァレーズ:密度21.5(1936/rev.1946)
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第10番 嬰へ短調
カーター:スクリーヴォ・イン・ヴェント(1991)
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第2番 イ短調
ベリオ:セクエンツァⅠ(1958)
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第5番 ハ長調
オネゲル:牝山羊の踊り
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第6番 ニ短調
カルク=エーレルト:ソナタ・アパッショナータ 嬰へ短調 op.140
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第7番 ニ長調
テレマンの幻想曲と現代曲が、交互にプログラムされたソロ公演。「休憩はどこで入れるのだろう?」と思ったら、プログラムには「本日の公演は休憩がございません」とある。
全11曲。1曲1曲は小品くらいの長さとはいえ、休憩なしで最後まで突っ走る、たった独りの試み――新たなステージに踏み出そうとするかのようなそれは、50歳を迎えるパユが求める何らかの変化なのだろうか。
THE FLUTE誌の表紙と巻頭を、パユは今回9年ぶりに飾った(2019年12月20日号)。9月末に行なったインタビューで、キーワードになったのは“進化”。そして当公演のプログラムに付記されたインタビューでも、彼は“進化”について語っている。曰く、「世界は変わるのだから、フルートも少しずつ変わらなくてはなりません」。テレマンと現代曲を交互に演奏するというプログラムの意図について尋ねられ、それに応える形だった。また、「アイデアとしては、お寿司を食べる時に間でガリをつまんで口をリフレッシュするような感覚」とも。日本人にわかりやすい比喩とサービス精神は、今さら言うまでもなく“世界のパユ”である。
さて、ノンストップのプログラムは、曲と曲の間にもインターバルをほとんど置かないパターンもあった。そういったコンサートに慣れていないからなのか、時折客席からは曲間に拍手がパラパラと起こる。パユがそれをさりげなく手で制する場面も見られた。
「喝采は最後に。幕間がないのもプログラムの一部なのです」
……そこには、そんなメッセージが込められていたように思う。
テレマンだけの曲集を聴くのとも、また現代曲だけのコンサートを聴くのとも違う。交互に演奏されるそれらは、一つひとつの作品として味わうときとはまったく別の表情を見せ、今までにない感興を起こさせる。そんな不思議な体験であり、空間であった。現代と過去が交差することで、奥行きのある写真のような効果が生まれる――パユ自身のコメントにもあったそんな試みは、見事に実を結んでいた。
アンコールは、武満徹の『エア』。演奏に入る前に、「マリス・ヤンソンスに捧げます」とパユからアナウンスがあった。この11月に逝去した指揮者、ヤンソンスはベルリン・フィルとの共演の機会も多く、現代の巨匠の一人でもあった。
『エア』はオーレル・ニコレのために書かれたフルート独奏作品。パユはかつてニコレから薫陶を受け、武満の遺作ともなった『エア』を、偉大なる巨匠に捧げる――そんなふうに巡りめぐって、音楽はまた受け継がれていくのだろう。本日の公演にインスパイアされた若い奏者が、次なる世界的フルーティストとなる日も来るのかもしれない。
エマニュエル・パユ