Interview ヒロ・ホンシュク & 城戸夕果 ― Love To Brasil Project
Interview ヒロ・ホンシュク & 城戸夕果 ― Love To Brasil Project
おいしい出汁のようなエッセンス
ーー このプロジェクトでのレパートリーや音楽的なアイデアは、どのように練られていますか?
ホンシュク 自分のバンドでは、次のギグのリズムセクションとどんな音楽をどのように演奏したら一番面白いかを考えるのだけれど、初経験の双頭バンドで、アイデアを出し合って構築していく新鮮な喜びを感じています。ぼくは作曲法で博士号を取得しているので、論理的に考えすぎてしまうこともあるかもしれません。自分とはまったくバックグラウンドが違う夕果さんから得るアイデアは常に新鮮です。お互いのアイデアに啓発されるというのも、このユニットの醍醐味だと思います。
城戸 私はどちらかというと、ブラジルにどっぷりと浸かってきたほうなので、*リディアン・クロマチック・コンセプト等、ヒロさんの持つ作曲やアレンジのアイデアをもう大尊敬しています。長年ブラジル音楽に浸ってきた身としては、ブラジル音楽の大切な核となるものは、例えばお味噌汁でいえばおいしい出汁のような部分かもしれないなと感じます。見た目はおいしそうな野菜の入ったお味噌汁に見えても、一番大事な出汁が入っていないと一番おいしいところが抜けてしまいます。このプロジェクトでは、このエッセンスを味わっていただければと思っています。
ーー お互いがとても信頼しあって音楽をされている様子が伝わってきました。では、今回リリースされたEPの収録曲について、それぞれの曲の特徴などを教えてください。
城戸 1曲目の『Trilhos Urbanos』のイントロの部分は、ピファノという2本の横笛を中心とした、カルアルー地方の伝説のバンド「Banda de Pifanos de Caruaru」の雰囲気を取り入れました。ブラジル北東部のバイアォンというリズムの曲です。曲名はアーバン・トレイルの意味で、車窓を移りゆく風景のイメージを、ヒロさんのアレンジがそれを素敵に表現しています。
ホンシュク 2曲目の『Para vocés com grande carinho』は、エルメート本人が歌ったときのイメージで演奏しました。エルメートは*マイルスも共演していた巨匠ですね。
城戸 楽屋に挨拶へ行ったときにエルメートに各々のCDをプレゼントしたのですが、そのときにちょっと待ってね!と言って、おもむろにプログラムの裏に五線を引いて、ん~~!なんて歌いながら曲を書いてくれたんです。
ホンシュク 16分でね!
城戸 面白いのは、ヒロさんがその楽譜をもらった次の日にはその曲のカラオケをギターで作ってきてくれて!難しいコードとリズムの曲なのですが、2本のフルートにアレンジされ、曲として出来上がっていたんです。それをFacebookに投稿するとエルメートがすぐにシェアしてくれて、2万回近く再生されました。この映像はエルメートの作曲風景も含めてYouTubeにも上がっていて、検索ですぐ出てきますよ。
ホンシュク 3曲目の『Lulu』は夕果さんの曲ですが、これは僕がリクエストしたんです。フォームの終わりが2小節多かったりとトリッキーなんですが、すごいグルーヴが計算された曲になっていて、演っていて楽しくて仕方がないんです!
方向性がシンクロするのを強く感じた
城戸 この曲は99年に発表したアルバムのタイトル曲なのですが、たくさんの人が口ずさめるような曲をと思っていたら、浮かんだメロディです。
ホンシュク 4曲目『Layer Three』は夕果さんと演奏するために書いた曲です。2人の音色の個性とハーモニー感をイメージしながら、メロディとコードを同時に書き上げました。ソロするときに楽しいから、同じコードに返ってこないようにしています。5曲目の『Paper Merge』もオリジナルで、サンバの曲です。
城戸 6曲目の『A Rã』は、実はもともと録る予定ではなかった曲なんですよね。
ホンシュク レコーディングが順調に進んで時間ができ、何かやろうか!とその場で決めて録った。ピアニストのエリオ(Helio Alves氏)に、サンバレゲエをこういうパターンで弾いてほしいとリクエストして始まったセッション曲でした。お互いが見えない録音ブース配置でしたが、即興しながら、どういう展開になりたいかという方向性がシンクロしていると強く感じたレコーディングでした。
ーー プロジェクトの今後の展望はいかがですか?
ホンシュク このプロジェクトでの今後の活動拠点は、日本になると思います。
城戸 世の中が大変ですが、また落ち着いたらいろんなところへ出向いて、場所を問わずいろんなミュージシャンと共演していきたいですね。そしてゆくゆくはレギュラーのメンバーで演奏したいと思います。
ーー 今回の日本ツアーに際して、メッセージをお願いします。
城戸 今回の日本ツアーでのメンバーも本当に素晴らしく、その中でのヒロさんとの化学反応が本当に楽しみです。お店も対策は万全なので安心して音楽を楽しんでいただきたいです。この3年間でヒロさんと作り上げてきたアンサンブルを、日本の素晴らしいミュージシャンたちと演奏します。
ホンシュク 特に7月2日の南青山Body&Soulでのライブは、今回のアルバムの曲を中心に演奏します。共演するのが楽しみで仕方なかった素晴らしいメンバーでのライブになります。フルートを演奏される方、アドリブやブラジル音楽に興味のある方には是非聴いていただきたいです。終演後にはお気軽にお声をかけてくださいね。
*roda (ホーダ) ……即興で始まるセッション。ジャズで言うところのジャムセッション。
*リディアン・クロマチック・コンセプト……ジョージ・ラッセルにより提唱された音楽理論。ジャズや現代音楽の分野に多く影響を与えたとされる。
*マイルス……Miles Davis (マイルス・デイヴィス) 。モダン・ジャズのシーンを牽引し続けたトランペット奏者。
Information
2021 LIVE SCHEDULE
EP ALBUM
Love To Brasil Project
CD品番:CP-1132
JAN:4532813831077
レーベル:Concept Publishing
配給:インパートメント
曲目:
- Trilhos Urbanos / トリーリョス・ウルバーノス (Caetano Veloso / カエターノ・ヴェローゾ)
- Para vocês com grande carinho / パラ・ヴォセス・コン・グランジ・カリーニョ (Hermeto Pascoal / エルメート・パスコアール )
- Lulu / ルルー (Yuka Kido 城戸夕果)
- Layer Three / レイヤー・スリー (Hiroaki Honshuku ヒロ・ホンシュク)
- Paper Merge / ペーパー・マージ (Hiroaki Honshuku ヒロ・ホンシュク)
- A rã / ア・ハン (João Donato / ジョアン・ドナート)
Hiro Honshuku (ヒロ・ホンシュク)- flute
Yuka Kido(城戸夕果)- flute
Helio Alves(エリオ・アルヴェス)- piano
- Produced by Hiroaki Honshuku & Yuka Kido
- Recorded on March 11, 2020 at Dream World Studios by Hiroaki Honshuku and Doug Hammer <dreamworldpd.com> with Matric Halo ULN-8 3d <mhsecure.com>
- Mixing & Mastering Engineer: Katsuhiko Naito
- Cover Art by Hermeto Pascoal
- Cover Design by Hiroaki Honshuku & Yuka Kido
- Photos by Yasushi Nakamura, Doug Hammer, Hiroaki Honshuku
- Special thanks: Alice Russell (Concept Inc.) & Yu
- ⓟⓒ2020 Concept Publishing, Brookline, MA, USA <lydianchromaticconcept.com> | Concept Publishing 1132
デジタル配信:7月10日(ワールドワイド)、7月24日(日本)
CD販売開始:8月21日