フルートで吹きたい!J-popの人気楽曲を一冊に
1990年代──それはJ-pop全盛期の時代でした。数々のミリオンセラーが生まれ、多くのアーティストが時代を牽引してきました。2018年9月に引退を発表している安室奈美恵さんもこの時代に数々の大ヒットとなった曲を発表してきました。
そんな時代に生まれた8曲を厳選し1冊にまとめたのが「フルートで綴る J-popメモリー」です。
フルートが心地よくなるアレンジにしたのはもちろん、クラシックだけでなくポップスでは桑田佳祐、福山雅治、AKB48、松たか子、May.J などのアーティストと共演やレコーディングでも活躍しているフルーティスト黒田由樹さん、そして、ポップス、R&B、ゴスペル、ジャズシーンと幅広く活躍するキーボーディスト、ピアニストKeikoさんの二人の模範演奏&カラオケを収録したCDを付属。演奏にはポップスの雰囲気を出すためベンド奏法(しゃくり)などのメロディフェイクを入れて収録していますが、楽譜にはすべてを記載していません。このCDを参考にして自分なりの表現をしてみてください♪
手にしたその日からすぐに楽しめる曲集です。黄金時代のJ-popを心ゆくまで楽しんでください。
フルートで綴る J-popメモリー
《Hello,Again〜昔からある場所〜》My Little Lover
1995年に発売されたMy Little Lover最大のヒット曲です。My Little Loverは、2006年までは「MY LITTLE LOVER」と大文字表示でしたが、ヴォーカルのakkoのソロプロジェクトとして活動を始めるにあたり「My Little Lover」と表記を変更してます。
『Hello, Again 〜昔からある場所〜』は、元メンバーの小林武史がプロデュースを手がけ、ギターの藤井謙二が脱退する前の最後のシングルです。
この曲はシャープの多い調性ですが、明るさを感じられる原調を採用しました。Aメロで繰り返す部分は、装飾音符をつけるとアクセントになるでしょう。転調した54小節目からはさらに前に向かって吹きましょう。
《Can You Celebrate?》安室奈美恵
言わずと知れた安室奈美恵の最大のヒット曲です。フジテレビの月9ドラマ「バージンロード」の主題歌で、ドラマのタイトルバックに安室と作曲の小室哲哉が登場し話題を呼びました。第48回NHK紅白歌合戦で紅組のトリを努めた後、出産のため活動を休止。翌年第49回の同番組で復活し、2年にわたってこの曲をお茶の間に届けました。ちなみに両年とも歌手別瞬間最高視聴率1位となっています。
最初のカデンツは焦らずゆっくり吹きましょう。昇りきった音は高いのですが、遠くの人に届けるようなイメージをもってお腹でぐっと支えてください。
原曲よりも少しテンポがゆっくり目となっています。全体的に柔らかい息で吹くといいでしょう。とはいえ、25小節〜や54小節目〜の16音符はアクセントをしっかり付けて吹くとメリハリが付きます。CDの模範演奏を参考にしてアクセントを付ける場所、音を抜く場所のコツを掴んでカッコよく吹きましょう。
《負けないで》ZARD
ZARDのヴォーカルの坂井泉水は2007年に逝去しましたが、その後も様々なTVで取り上げられている曲です。ZARDの楽曲の歌詞は坂井がほとんど担当していますが、『負けないで』以前の楽曲は恋愛に関する歌詞が多くを占めていました。坂井が楽曲を初めてこの楽曲を聴いたとき、応援ソングのイメージをもったため、受験生への応援歌として、一気に書き上げたそうです。発売から25年経った今でも人気の理由は、明るく前向きな歌詞とポップな曲調にあると言ってもいいでしょう。毎年夏に放送される日本テレビ系列「24時間テレビ 愛は地球を救う」のチャリティーマラソンで、ゴール直前に出演者で合唱することでも知られています。
前半のSlowの部分はおそすぎず、ゆったり目に吹きましょう
リハーサルマークBからはピアノに乗って前向きに吹きましょう。長い音符を音価分しっかり伸ばしてしまうと、テンポに乗り遅れてしまいます。リハーサルマークEからの転調部分は、高い音に装飾音符などのフェイクを入れるとアクセントになります。ただしフェイクはセンスよく入れたいので、入れ過ぎには気をつけましょう。
《夜空ノムコウ》SMAP
1998年に発売されたSMAPの27枚目のシングルです。SMAPの曲の中でも人気ベストスリーに入る作品です。スマップとしては初のミリオンセラーとなり、作詞を担当したスガシカオや作曲を担当した川村結花もセルフカバーしています。中学の教科書にも掲載されており、幅広い年代に愛されている曲です。作詞をしたスガは、当初はこの曲のセルフカバーを固辞していましたが、教科書に掲載されたことなどから歌うようになりました。しかし、SMAPの解散を受けて、個人としてはこの曲を歌うことを封印しています。
リハーサルマークAからはpというダイナミックレンジが書かれています。少し抑え気味に吹きましょう。
リハーサルマークCからはタンギングをあまり強くしすぎず、[Tu-Tu-Tu]と[DA-DA-DA]の中間ぐらいを意識して吹くといいでしょう。
リハーサルマークGの部分をカッコよく吹くコツは装飾音符、アクセント、音の長さの3つです。強めに吹く音、そうでない音を区別して練習してください。
《楓》スピッツ
1998年に発売されたスピッツのシングルで、多くのTV番組で取り上げられています。スピッツは1987年に結成し、新宿ロフトを始め都内のライブハウスを中心に活動していました。1991年にメジャーデビューを果たしましたが、もともとバンドにメジャーへの憧れはそれほど強くなかったそうです。『楓』はアルバム「フェイクファー」からのシングルカットで、TBS系「COUNTDOWN TV」のオープニングソングとして採用され、知名度が一気に上がりました。多くのアーティストがカバーしていますが、2017年に、キリンビバレッジ「午後の紅茶」のCMで上白石萌歌が歌ったことにより、再度注目されている曲です。
フルートにピッタリのテンポ感を持つ楽曲です。リハーサルマークBからはシンコペーションがたくさん出てきますが、鋭すぎず柔らかく吹いてください。
リハーサルマークDからは音が下降していきます。ディミヌエンドしすぎると音が痩せてしまうので、音量をキープするつもりで吹きましょう。
リハーサルマークC’は遠くで聞こえるように、C''からは近くに聴こえてくるような距離感を感じてください。
《純愛ラプソディ》竹内まりあ
「純愛」とついていますが、実はOLの不倫をテーマにした日本テレビ系のドラマ「出逢った頃の君でいて」の主題歌です。しかし暗い雰囲気は感じられず明るく爽やかな楽曲で、竹内まりあの夫 山下達郎は死生観が織り込まれていること、アレンジの完成度の高さから、竹内の作品のベストワンに挙げています。日産自動車セフィーロのCMソングでも取り上げられています。
ピアノの伴奏に乗り遅れないようによく聴いてください。スラーのフレーズ意識するといいでしょう。
21小節目などに見られるシンコペーションは歌いすぎないように。
37小節目からの16分音符はクラシック風に吹くと、急に重たく感じるので、しっかり吹く音、抜く音を意識してさらっと吹けるようにしましょう。
《月光》鬼束ちひろ
2000年にリリースされたミディアム・バラードです。シンガーソングライターの鬼束ちひろは、独特の世界観をもった楽曲を作っており、この『月光』も彼女の個性が光っている美しい作品です。この曲はシングルとしてリリース予定はなかったのですが、テレビ朝日系ドラマ「トリック」のヒットで、主題歌を飾ったこの曲も注目度が上がり、急遽リリースされた経緯があります。鬼束の作品の中でも人気の高い曲ですが、「鬼束=月光」というイメージが定着したため、本人はこの楽曲は嫌いと、音楽雑誌のインタビューなどで発言しています。
この作品は16分音符が多いので楽譜を見た時に難しく感じますが、ゆっくりのテンポなので慌てず吹いてください。時折出てくる31小節のような伸ばす音に解決していくつもりで歌っていきましょう。
リハーサルマークEは、鬼束ちひろの歌い方をイメージして黒田さんが演奏しています。フェイク、細かい音符をカッコよく吹くために模範演奏を聴き込んでください。細かい音符の間にある下がった音の息の使い方がキーポイントです。
リハーサルマークJの高い音は、遠くにいるような名残惜しさを感じてください。
《桜坂》福山雅治
福山雅治が恋人への思いや当時の自分をの心境を綴った曲です。2000年にリリースされ、累計売上は229.9万枚で、20世紀最後の200万枚を突破したシングルとなりました。曲名のモデルは東京都大田区といわれていますが、ほかにも長崎県西海市、福岡県福岡市の桜坂という説もあります。この曲は、TBS系列「ウンナンのホントコ!」の中のコーナー「未来日記」のテーマソングとして採用されています。『桜坂』は2000年のオリコンシングル年間ランキングは2位で、1位は同じく「未来日記」のテーマソングである、サザンオールスターズの『TSUNAMI』でした。
この曲集の中でもこの曲は全体的に音域が高いのですが、未来へと続くような明るさと切なさを表現できるといいでしょう。高音域のE音(ミ)音はフルートの中でも出しにくい音ですが、この曲のポイントの音とも言えますので外さないようにしましょう。Eメカニズムのついていない楽器で、音がどうしても当たりにくい場合は、左側のトリルキィをほんの少しだけ押すと出しやすくなります(全部押さないように)。ただ、トリルキィを使うと音程が高くなってしまいますので、音程にも気を配ってください。また全部に入れるとしつこくなりますが、半音下のD#の装飾音符を入れると、E音が出しやすくなります。
演奏者プロフィール
- 黒田 由樹Yuki KURODA
- 京都市立芸術大学卒業。東京藝術大学大学院修士課程修了。大学院にてパウル・マイゼン氏に師事。テレマン室内管弦楽団首席奏者を務めた後、多方面にて活動を開始。日本フルートコンベンションコンクールソロ部門、宝塚ベガ音楽コンクール、全日本学生音楽コンクールなど国内コンクールに多数入賞。現在クラシックのみならず、ミュージカルやCM、ドラマ、映画などのレコーディングも数多くこなすスタジオミュージシャンとしても活動を展開。日本のヒットチャートを席巻している桑田佳祐、福山雅治、AKB48、松たか子、May.J などのポップス界のアーティストとレコーディングや共演をしている。指導者としても熱心に後進の育成に当たっており、7 年連続で日本クラシック音楽協会より優秀指導者賞を受賞。2017 年、東京国際芸術協会より優秀指導者賞受賞。木管六重奏「Halocline」、「小江戸ウインドアンサンブル」メンバー。
- Keiko
- 東京芸術大学作曲科卒業。4 歳からピアノ、6 歳から作曲を始める。中学2 年生でYAMAHA エレクトーンコンクール全国1 位、高校2 年生で全国学芸科学コンクール作曲部門金賞を受賞。日本代表として海外演奏を行なう。大学在学中よりユニット「Vanilla Mood」として、NHK「お昼ですよ!ふれあいホー」、日本テレビ「PON!」にレギュラー出演し、日替わり曲を演奏。avex よりデビューを果たす。また、作家・大嵜慶子としても数多くの作品を手掛けている。TBS「EXILE 魂」エグザサイズコーナー音楽、TBS「音楽の日」テーマ曲、NEXON「TalesWeaver」ゲーム音楽など映像音楽の作曲、アレンジにも多数携わる。また、ジャズやR&B、ゴスペル、ソウルに特化したライブ活動も精力的に行なっている。クラシックからジャズまで確かなテクニックと多彩な色彩感で音楽を操る作曲家、アレンジャー、ピアニスト。