フルートのための からだメソッド 〜トレーニング編〜
からだのことを知って演奏パフォーマンスにつなげるメソッドを学ぶ3号連続特集の第1弾。ストレッチ編としてフルートを吹くためのからだをつくるトレーニングをお送りします。からだの使い方を意識することで、よりたくさんの息を使う事ができたり、長時間の演奏や練習が可能になったりします。その為のストレッチやフルートの構え方を見直す方法などをご紹介します。
楽器を演奏するとき、あなたは“からだ”のことを意識していますか? おそらく、ほとんどの人が「No」と答えるのではないでしょうか。からだの使い方が原因で疲労が蓄積していたり、肩こりや腰痛などの痛みを抱えている演奏家が実はたくさんいる——と言うのは、演奏家のためのボディトレーニングを手がける荻山悟史さんです。
ロングトーンで息の使い方を鍛えたり、速いパッセージのために指の練習をしたり……などの練習はもちろん大切ですが、今回はまずその前段階を考えていきたいと思います。からだの使い方を意識することで、よりたくさんの息を使えるようになったり、長時間の演奏や練習が可能になったりするとしたら、フルート奏者にとってはとても嬉しいことですよね。
もっとからだのことを知って、演奏パフォーマンスにつなげるメソッドを学ぶ連続特集の第1弾のTHE FLUTE 144号は、フルートを吹くためのからだをつくるトレーニングをお送りします。荻山さんのほか、フルートを運動力学の観点から学びながら演奏活動をしている横山由布子さんにもご登場いただきます。
フルートオンラインではTHE FLUTE 144号の特集『フルートのための からだメソッド 〜トレーニング編〜』の記事から一部抜粋して内容をご紹介します。
からだの面から
演奏パフォーマンスを上げる方法を考える
演奏家にはストレッチが必要だと私は考えています。筋肉を伸ばすことで体温が上がって血液の循環も良くなり、からだを動かす神経伝達がスムーズになり、演奏に必要な関節の動きを最大限に引き出すことができます。そういったウォーミングアップができていない状態での演奏は、からだも指も動きにくくなり、痛みなどを抱える原因になったりもします。 楽器の演奏には全身が関係していますが、ここでは、特にフルートの演奏に関連が深いからだの箇所に意識を向けたり、余分な力を抜いてほぐしたりするためのストレッチを皆さんに学んでいただきたいと思います。
荻山 悟史 SATOSHI OGIYAMA|フィットネスクラブ勤務から2007年に独立、フリーのスポーツトレーナーとして活動。演奏家を対象としたパーソナルトレーニングも数多く行ない、身体の痛みから解放され、自由な演奏が可能になるためのサポートを実践している。演奏者専門パーソナルトレーニング「BodyTectスタジオ目白・軽井沢」を運営、執筆・講演活動にも取り組んでいる。
演奏者専門パーソナルトレーニング「Body Tectスタジオ 目白・軽井沢」
https://bodytect.amebaownd.com/ TEL:090-9368-8836 E-mail:bodytect@gmail.com
やってみよう! フルートに役立つストレッチ
“お盆”のストレッチ
フルートを演奏する人に起こりがちな、首や肩の凝りや張りに効果的なストレッチをまずご紹介しましょう。
- ➀ 手のひらにお盆を載せるようなイメージで、姿勢をつくります。まずは腕は真横、首も真横に倒します。
- ➁ その後、手を少しずつ後ろに伸ばしていきます。首はやはり真横に倒します。
- ➂ 腕を伸ばしたまま、鼻で吸って口で吐く深呼吸をしながら30秒間姿勢をキープします。
- ➃ 反対側も同じようにやります。
両肩でそれぞれやってみると、左右の硬さが違うのがわかると思います。最終的に左右が同じになるように、自分で調整していきます。右はこの角度がいちばん伸びるけど、左はこの角度だな……というように、自分で探り当てていきます。楽器の構え方が左右非対称なので、左右それぞれで調整が必要になります。まずは左右で違うことを自覚しましょう。そのうえで、手が軽くなった状態で楽器を構えてみると、ここに力が入っているんだな、ということがだんだんわかるようになってきます。
※ストレッチは無理のない範囲で行いましょう。解説の中に示した回数や姿勢を保つ時間は、あくまで目安です。
THE FLUTE 144号では他にもたくさんのストレッチや、からだと音の関係について荻山悟史さんがご紹介してくれました。
“壁ドン”腕立て伏せ | 股関節の動きをよくするストレッチ | 呼吸を鍛えるストレッチ
からだを支える姿勢を決める 足の裏 | からだに負担のかからない、バランスの良い立ち方・座奏の場合の座り方
フルートにありがちな姿勢のNG
フルートはからだの前に楽器があるので、どうしても肩が一緒に前に入って、肩甲骨も開きがちになります。口も、息を吐くときに前に行きがちです。そして頭が前に出ると、腰も落ちます。 また、からだの右側のほうに負担が多くかかります。右足重心になりますから、左足のつま先が外向きになってしまっている場合が多いです。「目線とつま先が前に向いているか」をもう一度チェックしましょう。
楽器を保持しているので首にも力が入りやすくなります。首が凝るということは、肩とか肩甲骨にも影響があるので、そのあたりにも痛みやトラブルが出やすいです。“お盆”のストレッチをやりながら、常日頃から自分で調整していきましょう。
フルートの構え方、考えてみませんか?
皆さんはフルートを構えるとき、右足を前にして立ちますか? それとも左足? 「左足です」と答える人が99%くらいかもしれませんね。確かに、「右足を前にして立ちましょう」と書いてある教本は皆無です。私もずっと左足が前になる構え方で吹いていました。
それがあるとき、運動力学の観点から、さまざまなスポーツ選手や演奏家のからだを見てきた先生に出会い、フルートとからだの関係に対する概念が大きく変化したのです!
皆さんにも、楽器とからだの良い関係を保つための秘訣を、そっとお教えしましょう。
横山 由布子 YUKO YOKOYAMA|高松第一高等学校音楽科、東京藝術大学卒業。現在はオーケストラ、吹奏楽、室内楽、ソロなどで演奏活動を行なうほか、フルート教室「Fairy Field」を主宰し後進の指導にもあたっている。また作詞作曲も行なう。コンサートでは司会進行やナレーターとしても活動。フルートアンサンブル「ザ・ステップ」、TADウィンドオーケストラのメンバー。
フルートを野口博司、細川順三、故・小泉剛、砂山佳美、藤村恵子、原田利佳の各氏に師事。
楽器を持つ左手からフルートの音色を良くする
左手は多くの場合、写真➀のような形になってしまいがちですが、ちょっとフルートを置き、何も持たないで手だけで写真➀の形を作ってみてください。この形だと、手首から肘にかけて突っ張っているような感覚はありませんか? 今度はその形のまま指を動かしてみてください。ますます腕に負担がかかるのがわかりますよね。では写真➁の形はどうでしょう? どこにも負担がかからず、指も軽く動きますよね。最初は慣れないかもしれませんが、写真➁の形に慣れていくと、速いパッセージの練習時間が、2分の1、3分の1で済むようになっていることに気付くはずです! これは試さない手はないでしょう!
良いことは指が回ることだけではありません。からだにとっての余計な力は、すべて良い音を出す妨げになるのです。つまり、写真➀よりも写真➁のほうが良い音が出やすいフォームだということですね。
右手も指をふわっと自然に曲げた形で、どこにも力が入らないように構えましょう。 両手とも親指は伸ばします。なぜ親指だけ伸ばすか? 手の力を抜いて、ぶらんぶらんと振ってみてください。人差し指から小指までは指は自然に曲がっていると思いますが、親指だけは伸びていますよね。
ここで紹介したフォームは基本中の基本で、高音を出す時、低音を出す時、ロングトーンでしなやかに吹く時、アクセントで力強く吹く時、などなど、その時々でからだを有効的に動かすとからだの内側から無理なく楽に音が出てきます。
もっと詳しい内容が読みたい!という方はTHE FLUTE 144号でたっぷり紹介していますので、どうぞ手にとってくださいね。
3号連続企画の次の特集はなんでしょうか…? お楽しみに!