フルート記事 知って楽しむ フルートの歴史 ♪ダイジェスト♪
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THE FLUTE 150号 Special Contents

知って楽しむ フルートの歴史 ♪ダイジェスト♪

ベーム式フルートに改良が重ねられ、現代のフルートの形が完成されると、その技術は複数の職人と彼らが構えた工房に受け継がれていきました。ヨーロッパでは1800年代半ばから、その後はアメリカでもベーム式フルートが製作されるようになりました。とりわけ、フランスから輩出したフルートの名工たちによるそれらは“オールドフレンチフルート”と呼ばれ、高い評価のもと現代にも受け継がれています。
中でも、1855年に工房を立ち上げたルイ・ロットによるフルートは、オールドフルートの代表格ともいえる存在。そんなルイ・ロットに魅せられ、ハンドメイドフルートを手がけるようになった製作者・秋山好輝氏による本誌記事「オールドフルートの系譜“ルイロット“」から、本誌に掲載していないものを含め、こぼれ話をお送りします。

1通の手紙に導かれ…

私が巻き管のフルートを作り始めたのは、1通の手紙が届いたことがきっかけでした。

2000年5月20日、偉大なフルーティストジャン=ピエール・ランパルさんが亡くなりました。私とランパルさんが最後に会ったのは亡くなる2年前のことでした、新しく作った楽器を見ていただくことができましたが、当時まだ金製のフルートは作れていませんでした。
「君は金のフルートは持っていないのかね?」「今度お会いする時には準備しておきます」——そんな会話を交わしましたが、残念ながらこの約束は果たすことができませんでした。
ランパルさんが亡くなってから1か月後、差出人不明の1通の手紙が私の工房に届きました。そこには、
「一昨年のフルートフェスティバルの会場で貴社のフルートを試奏いたしました。——中略——過日、私は縁あってルイ・ロット社の関係者より、ルイ・ロット社のフルート製造技術の一端を伝授されました。そして、しかるべきフルート製作者が見つかったらそれを教えてよいと言われました。あなたは伝授の相手として相応しいと判断しましたので、その技術をお教えします」
だいぶ端折りましたが、このようなことが書かれていたのです。そして、後日届いたもう1通の手紙には、「ルイ・ロットの技術についてお読みいただけましたか? 独自の技術の伝承者となっていただけるよう、強く希望いたします」とも——。
最初は手の込んだイタズラかとも思いました。が、単なるイタズラや冗談にしては、普通の人では知り得ないような踏み込んだ内容が書かれていたのは確かでした。
結局この手紙により、従来のフルート製作から巻き管でフルートを製作することを決心し、現在まで続けてきました。ランパルさんが亡くなってまもなく届いたこの手紙を、個人的にはランパルさんからの遺言だと思っています。
1枚の板を数え切れないくらい叩いたりこすったりすることで管にしたもの

今までの自分のフルート製作を振り返ると、冒頭の手紙の話をはじめ、不思議なことがたくさんあります。
私が初めてランパルさんに会った24歳のときのこと、1本しか存在しない18金巻き管ルイ・ロットを目の前で聴かせていただく機会がありました。それから30数年が経ち、独立を果たして構えた工房は“36番地”、ルイ・ロット工房もモンマルトル36番地——偶然といえばそれまでですが、私にとってはいささかの因縁を感じさせる出来事でした。

ランパル18金ルイ・ロット

ランパルさんの18金ルイ・ロット。著者がランパルさんの奥様の自宅で撮影

“不純物”が作り出す独特の響き

初代から最終年代の楽器に至るまで、ルイ・ロットの持っている特徴、そこから醸し出される魅力は一貫していて、大きく変わっていません。ルイ・ロット工房が存在していた1855年〜1951年という、ほぼ100年近い年月を考えれば、これは本当に素晴らしいことです。その一貫して変わらない楽器を生み出した要因は、巻き管であること、独特のキィデザイン、そして“銀素材”にもその秘密があると私は考えています。
当時の銀素材については、現代のフルートに使われる純度の高い銀とはだいぶ事情が異なります。ルイ・ロットフルートが生産されていた時代は、まだ貴金属の精錬技術も今のように進んでいませんでした。ですから、不純物が多く含まれている銀素材を使っていました。この“不純物”が、巻き管の製法と相まって独特の響きを作り出しているのです。
写真(ルイロット#5126の分析、以前インターネット上に公開されていたデータを参考)にあるように、当時の銀素材は多くの金属が含まれている合金になっていました。

お詫びと訂正)本誌150号『オールドフルートの系譜 “ルイ・ロット”』本文中、「ルイ・ロット工房は、1885年から1951年頃まで6代継続した世界最高峰のフルートメーカーです」 と記述がありますが、1885年→1855年の誤りでした。訂正してお詫び申し上げます。

ルイロット#5126の分析表

カドミウムや水銀といった成分も含まれているのは現代からすると少々驚いてしまうが、これらも含めた“不純物”が独特の響きを作り出しているという

フルート黄金時代を築いた奏者と製作者

2006年に、ランパルさん親子が使っていた銀製ルイ・ロットの修理をする機会がありました。
ランパルさんの初めての楽器は#6896(写真1)、お父さんのジョセフの愛用楽器は、#8582(写真2)。それから2012年パリでのフルートコンベンションに参加した時に、ルイ・ロット研究家の友人ベルナール・デュプレさんの家で見たフェルナン・デュフレーヌさんがかつて所有していた#9402。いずれの楽器も製作者から見た時に感じる印象は、特別な楽器とは思えないものでした。しかしそれでいて、素晴らしい音色が出る楽器になっているのです。楽器は奏者によって成長するものだとあらためて実感します。
フランスのフルート黄金時代は、そんな奏者と製作者の密接な関係から生まれ築かれた——そのことには疑いの余地がないと、私は感じています。

(写真1)

ランパル初めての楽器#6896

(写真2)

ジョセフの愛用楽器#8582

本誌記事では、ルイ・ロットを愛用した往年のフルート奏者や「現代のルイ・ロット」などの話題も掲載し、さらに読み応えのある内容になっています。ぜひ読んでみてくださいね!



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