津軽のカマリ、名匠高橋竹山の物語
木村奈保子さんのOnline限定連載「音のまにまに」。今回は日本の音楽ドキュメントとして、公開中の映画「津軽のカマリ」について取り上げます。
2018年公開の「アメリカン・ミュージック・ジャーニー」はルイ・アームストロング、エルビス・プレスリーなど、音楽史上に残るミュージシャンの歴史を振り返るドキュメントフィルム。ポイントは、ポップミュージシャンのアーロン・ブラックが、リポート役で登場し、現在も活動するキューバ生まれの歌手、グロリア・エスティファンやジャズピアニストのラムゼイ・ルイスらと音楽的交流を展開しながら、アメリカの地を巡るという構成。40分のショートフィルムだが、底に流れる古き良きアメリカへの郷愁、そして音楽家に対するリスペクト感があふれ、心地良い。
今年は「エリック・クラプトン 12小節の人生」について前回にふれたが、年末はフレディ・マーキュリーの「ボヘミアン・ラプソディ」、レディ・ガガの「アリー/スター誕生」と華やかな音楽映画がつづく。
アメリカの音楽映画は、ドキュメントの場合は歴史のミュージシャンが存在するし、ドラマになる場合は、俳優のなりきりぶりが徹しており、主人公の音楽性にまで近づくため、想定外のクオリティーになる。音楽という背景が違うのだろう。
さて、日本の場合はどうか?
楽しみにしていた映画「津軽のカマリ」は、日本の音楽ドキュメントとして完成度が高い。ドキュメントにするには、ミュージシャンのクオリティーありきだが、のっけからその「音」の力で、いっぺんに物語へと引き込まれていく。
©2018 Koichi Onishi
主人公は、まさにアメリカ人のブルースと同じ匂いを持つ。綿摘みの生活から生まれたブルースだ。
津軽三味線の名匠、高橋竹山の物語は、誰もが映画化したくなる生き様で、 過去にも1977年、「竹山ひとり旅」が、映画界の巨匠、新藤兼人による脚本、監督で制作された。
このとき竹山役が林隆三で、その明るく軽すぎるキャラクターはどこから来るのか、愕然としたものだ。美女が次々登場し、エロティックシーンもあるでよ、の新藤節に音楽性は、どこにもない。
エンタテイメントの時代だったとしても、こんな生き様からあの「音」が出るわけがないだろう、と怒りさえ感じたが、その点、新作「津軽のカマリ」はタイトルにふさわしく、津軽の匂いがするような、生き様に重なる音楽映画になっている。
「それを聴けば津軽の匂い(カマリ)がわきでるような、そんな音を出したいものだ。」
竹山の言葉が響く。
麻疹(はしか)をきっかけに視力を失っていく若き竹山が、生きるために三味線を習い、見知らぬ家の前で"門付け"をしながら物乞いのような暮らしを始めるが……
ただ、演奏できる場所だけを求め、さまざまな出会いの中で、いかに「音」というものに目覚めていくのか?
©2018 Koichi Onishi
壮絶な境遇による苦労話が語られるが、竹山の場合は、それを見事なまでに「芸」として昇華している。だみ声の喋り口調も、皺の深い表情も三味線の沁み入る音と一体化し、実に美しい。音楽はうまくやるものではない、という意味がよくわかる。
「視力を失い、唯生きるために、
三味線とともに彷徨った
高橋竹山と苦難の世を渡った
名もなき北東北の人々の魂が
三弦の音色とともに蘇る。」(映画より~)
こうした先代の物語があり、そこから生まれた音があり、別の時代に新しい音がまた生まれていくのだろう。
昨今の津軽三味線は、リズミカルで力強く、実にかっこいい。若者や海外の人にも受けるスタイルに展開し、テクニックも凄い。2代目竹山は女性でしゃれているし、人気の吉田兄弟やAUN井上兄弟など津軽三味線の音の魅力は洗練され、海外でも評価を得ている。
しかし底に流れる、津軽のカマリが消えることはないのだろう。
©2018 Koichi Onishi
映画『津軽のカマリ』公開情報
11月3日(土)より青森・青森松竹アムゼ、柏シネマヴィレッジ8 イオン柏
11月10日(土)より東京・ユーロスペース 他全国順次公開
公式ウェブサイト: www.tsugaru-kamari.com
N A H O K Information
「雨の日は、三味線が濡れて弾けないから、笛を吹いた」映画のセリフが印象的です。木村奈保子
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>>BACK NUMBER
第1回:平昌オリンピックと音楽
第2回:MeTooの土壌、日本では?
第3回:エリック・クラプトン~サウンドとからむ生きざまの物語~
第4回:津軽のカマリ、名匠高橋竹山の物語
第5回:ヒロイックな女たち