フルート記事 ロバート・デ・ニーロの集大成「アイリッシュマン」
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木村奈保子の音のまにまに 第15号

ロバート・デ・ニーロの集大成「アイリッシュマン」

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木村奈保子さんのOnline限定連載「音のまにまに」。前回に引き続き、テーマはデ・ニーロの映画を取り上げます。新作「アイリッシュマン」が11月末に公開された。

アイリッシュマン,ロバート・デニーロ

今年のデ・ニーロ映画は2本。「ジョーカー」では、次世代のデ・ニーロ的スターアクター、ホアキン・フェニックスを導くかのようなポジションで、サポートロールに回り、作品は予想以上の大ヒットとなった。

そもそも、この映画の監督をマーティン・スコセッシが断った、というから、さもありなん。
アメコミ、バットマン、ヒーローの敵役という流れだと、観るだけでも年齢的に、もうかんべんしてほしい、と私でさえ思うのだが、全く別物のクオリティで、大人の作品に仕上げたことは、前号にも書いた。2大俳優の常人を超える能力による芸術性、深い脚本による社会性が、期待を超えるレベルに達したのだと思う。

ただ、「ジョーカー」のTV司会者を演じるデ・ニーロにとっては、当然のごとく、強烈な印象を残してはいるが、もはや軽くこなせた程度といえるのかもしれない。というのも、デ・ニーロやスコセッシ監督にとって集大成といえる新作「アイリッシュマン」を観たら、すべてが吹っ飛ぶからだ。

かつて、スタイリッシュな切れ味をマフィア映画でとことん魅せた男優たちが、やがて時代の流れで消えゆくキャラクターとなり、デ・ニーロさえも、年齢と共にかつてのシビアさを笑う自虐コメディキャラへと変身せざるをえなかった。
時代の趣を残した存在感は、それでも秀逸さを失わないのだが、ここにきて再び、ロバート・キレキレ・デ・ニーロに戻るのである。

「アイリッシュマン」の主演は、現代のデ・ニーロ、パチーノ、ジョー・ペシの3人が主役である。監督が、マーティン・スコセッシである。
これだけで、観る前から感動した人もいるのでは?

デ・ニーロファンの私は、本作が真っ先に公開されたニューヨーク映画祭に出席したことがある。911の後に、ニューヨーカーのデ・ニーロがボランティアで立ち上げた映画祭で、このときアル・パチーノも駆け付けたのだから、本当にラッキーだった。
二人を前に、「もういつ死んでもいいかも」と思った覚えがあり、その感覚が、本作鑑賞中に何度も蘇ったほど。

本作では、「ヒート」で二人の共演が裏切られたと話題になったことを払しょくするかのように、デニ&パチトークがこれでもかとさく裂し、うれし涙の人が続出し、気絶するのではないかと思っても、大げさではないだろう。

残念なのは、たったひとつだ。
ジョー・ペシが、デ・ニーロより立場が上の役どころのため、二人のおなじみ、掛け合い漫才のようなF*CKINGトークがないところ。
それでも、デ・ニーロが、呼び集めた自分の好きな出演者や監督へのリスペクト、気遣いが端々に感じられ、かけらも妥協なく、壮大なリズムを奏でながら、ドキュメントのようなリアルさで展開していく。

物語は、デ・ニーロ演じる白髪の老人が、淡々と若き日を自白するように回想シーンへと遡っていく。

トラックドライバーのフランク・シーラン(デ・ニーロ)は、マフィアの大物、ラッセル・ブファリーノ(ジョー・ペシ)の下で働き始め、同時に全米トラック運転手組合会長のジミー・ホッファ(パチーノ)との関係も築きながら、次第にのし上がっていくが……。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」のように、子供時代はないが、20代の若者時代に遡るシーンはある。3人の出演者は70台を過ぎたまま代役なく、登場する。そこには、若干、現代映画の技術が加えられているようだが、俳優陣の動きは常に美しく不自然さは何もない。デ・ニーロの好きな言葉「Sophisticated=洗練」が、そこにある。

原作にある、長く謎とされた「ジミー・ホッファを殺害したのはだれか?」についての回答を衝撃的な演出で見せるが、もはやサスペンス力など重要ではなく、役者たちの存在、生き様自体がサスペンスなのである。

彼らは、あくまでマフィアを演じているにすぎないのだが、なぜか、彼らの時代に沿って映画とともに生きた我々の世代は、一緒に人生を振り返っている気持ちにさせられるだろう。

「アイリッシュマン」は、ご承知の通り、アイルランド人の意。アル・パチーノもジョー・ペシもイタリア系移民だが、ロバート・デ・ニーロのみ、アイルランド系、イタリア系、両方の血を持つ。

アメリカンマフィアの原点であるアイルランド系マフィア映画が、予算的な都合で、ネットフリックスにより配給された。
スピルバーグ監督が、以前、アカデミー賞受賞作については、「配信する映画」を含むべきか否かを問うたが、もはや、こんな価値ある作品を製作する限り、何も言えないだろう。
実際、劇場公開も小劇場ながら、同時に果たすという策も講じた。

どんな映画かなどと、小さい枠ではくくれない、
ただ、スクリーンに向かって、いつまでも頭を下げていたくなる、そんな時間だとだけ言っておこう。

 


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