フルート記事 身近に迫る現実社会の悪――“感染列島”の行方やいかに?
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木村奈保子の音のまにまに|第18号

身近に迫る現実社会の悪――“感染列島”の行方やいかに?

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木村奈保子さんのOnline限定連載「音のまにまに」。今回は感染対策が急がれる新型コロナウイルスに関連して「感染列島」などを取り上げます。

新型コロナウィルス発生で、世界中が脅威にさらされている。
日本では、世界基準で、対応の遅れが指摘され、スポーツや音楽イベントも次々に中止の流れ。ビジネスへの影響も計り知れず、先の見えない事態を招いている。

政府は、国民にいろいろな自粛行動を要請しているが、それに対する生活や経済補償は何も差し出されない。

一番の恐怖は、世界中でふんだんに配布される検査キットが日本だけ、不足していることだ。
いや、ないのかと思ったら、あるのに、出さないのである。保険対応を決定しても、検査はほとんどの人がまだ受けられない状態だ。
信じられない。
検査により、感染者の人数がカウントされるのが怖いのか、何らかの理由で、特定のメーカーのみを指定しているのか?

いずれにしても、政府は神対応でも、塩対応でもない。もはや、悪魔対応か。

一方、国会では、誠意のない言い訳大会が行われている。権力側の人間はどんなに責任を追及されても、びくっとも、ハッともしない。
まるで豪華客船、船内のように感染エリアの仕分けがなく、善も悪も仕切りなく、無法地帯になり、感覚が鈍ってしまっているのだろうか。

映画のタイトル「Devil’s Advocate」(悪魔の弁護人)が頭に浮かぶ。
「ディアボロス・悪魔の扉」(97年・米)では、欲望のために魂を売った大人たちに、染まりゆく若き弁護士が、いかに立ち向かうかが微妙な関係性のなかで描かれる。悪魔に魂を売る瞬間がこれほどリアルに描かれた作品はない。

さて、今の時期に、邦画「感染列島」(2009年、日)はなかなか見る価値がある。特に緊迫感が伝わらない政府関係者にはおすすめする。映画どころではないと思うかもしれないが、こうした映画を見て先に、感じることが大事だろう。映画は、現実離れのファンタジーやコメディばかりではなく、真実と向き合うためのジャーナリスティックな視点もある。

感染列島
「感染列島」(2009年、日)

物語は、日本の救急病院に謎のウィルスにかかった患者が運び込まれたところから始まる。たちまち院内感染が広まる中、若い医師らが、感染源を調べていくサスペンス仕立てになっている。

主人公は、WHOから派遣されたメディカルオフィサーで、彼女が指揮を執り、不眠不休のスタッフたちと未知のウィルスに挑む。某国のウィルス発生から次々と感染を広げる展開は、今の状況に似ている。

感染者の大きな咳による飛沫と血を吐く姿で苦しむようすが描かれ、そのウィルスは、医療従事者をも簡単に襲っていく。未知のウィルスを想定している話だが、映画的な誇張を差し引いても、リアルで興味深い。

そして謎が明かされる感染源は、犯罪や悪と無縁の「善人」である。公開時のキャッチコピーが、「神に裁かれるのは、人間か、ウィルスか?」というものだった。

本作は、正義感の強いエリートヒロインを主人公にしており、医療従事者たちの緊迫感に満ちた誠実な姿勢が軸にある。

いまの新型コロナ感染状態を映画に例えるなら、政府の「悪魔対応」抜きには語れないだろう。

見えない恐怖がウィルス以外にもあるのだから、我々庶民は本当にこの状況を戦い抜くことができるのだろうか?

感染映画と言えば、「カサンドラクロス」(1976年、伊・西独・英)は名作だ。

カサンドラクロス
「カサンドラクロス」
(1976年、伊・西独・英)

アメリカの研究機関に忍び込んだテロリストが、誤って細菌感染し、ストックホルム行きの列車に乗り込む。保険機構の女医は、列車を止めて犯人を隔離しようとするが、軍の情報部はすでに乗客1000人とも感染しているのではと考え、行き先をポーランドの隔離キャンプへ変更しようと目論む。感染列車のスタートだ。
目的地に到着するまでには、30年も使用されていないカサンドラクロスという古い鉄橋を超えなければならない。隔離された感染列車に乗り、古い鉄橋でふるい落とされるしかない、見捨てられた乗客たちの運命はいったい――?
エンタテイメントの力が大きい、かつての大作パニック映画だが、こうしたジャンルにも社会的なテーマが含まれることは少なくない。

映画では、実にわかりやすく善と悪が描かれる。
しかし、昨今は現実社会の悪がどうも、より身近に感じられる今日この頃。
平和ボケ、と言われる日本でも、差し迫る恐怖を覚えるばかりだ。

*「感染列島」は、Amazonプライム・ビデオにて無料配信中*

 

木村奈保子

木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com

 

N A H O K  Information

木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
問合せ&詳細はNAHOK公式サイト

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2コンパート ブリーフケース「Deniro/wf」は、ハードケースを収納する側とかばんとして使用する側を完全に仕切り、2つのコンパートメントで作られたNAHOKブリーフの決定版です。
まずカバン側には、日常の小物が仕分けして入れられます。ケース側には太い固定ベルトにより、フルート・オーボエ・クラリネットのハードケースがそれぞれ固定できる構成になっています。
フルートの場合、C管orH管ハードケースとピッコロを並べて固定ベルトで留められます。
(ただし、NAHOKシングルケース、アマデウスに入れて収納したい方は、C管のみ可能です。)

 


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