家事とジェンダーギャップ
昨今は、ミニシアター向けのドキュメンタリーが多い。
人生の多くのテーマを考えるとき、映像の力は大きい。
北欧アイスランドのドキュメンタリー「主婦の学校(The School of Housewives)」は、タイトル通り、主婦になる女性のための学校としてスタートした。
嫁入り前に学ぶ女性のための学校として始めたのは、1942年。料理、洗濯、掃除、裁縫、編み物、刺繍、アイロンがけ……
こうした家事技術を実践的に教える学校は、今もあるという。
現代アメリカだと、この映画のタイトルだけでも暴動が起こりそうだ。
なんで、ハウスワイフの学校なのか、と。
しかし、本作はジェンダーギャップ指数が11年間、世界一となった国、アイスランドがあえて製作したのだ。
ちなみに、日本のジェンダーギャップ指数は、世界で120位。アフガニスタンの156位に比べても、さほど変わらない。
さらに、経済、教育、保健、政治のジャンルで分けると、特に政治ジャンルにおいて、日本はほぼ、最下位に近い。
総合的に1位のアイスランドとの差異は、比較できないレベルだろう。
さて、この作品では、ジェンダーギャップ1位である国の環境にいながら、現代の若い女性が、この主婦学校に入学する。
かつての時代の主婦たちと同じように、家事技術を学んでいる。
寄宿舎だから、同世代の女子ばかりで楽しそうだし、たぶん食べることが好きなのだろう、とりわけ料理には力を入れているように見える。
そういえば、私も中学、高校と一貫した女子校で、受験校でもなかったため、ちょっと似ている気がして過去を思い出した。
その流れで、短大の英文科にでも進学すれば、地元の銀行に入りやすいらしい。
しかし私は、この女子高の授業にもなっていた家事技術が、どれもすべて嫌いで、料理の時間はさぼっているし、宿題の着物縫製もまったくやる気がない。母やら友人やらにお願いしながら、やりすごした。
人生でこれほど逃げまくっていた時期はないだろう。
だから、将来「お嫁さんになること」だけは、絶対避けたいと決意した時期でもある。
そもそも、共学の小学校で、男子らを相手にわんぱくがすぎていたため、もう女子校に入れるしかない……と、親と先生が相談して私の入学を決めたのだ。
それでも、思春期に女性ばかりの中で「女子」を意識しなくてすむのは、ギャラリーとしての男性がいないこと、また、クラスを取り仕切る男性がいないことで、そういうところに自分の存在価値を見出せた気がする。
人には得手不得手がある。
これは私個人のたまたまの問題かと思っていたら、家事技術がそれほど不得手ではない友人でも、結婚するとその男女別の不公平に意義を申し立てはじめた。
それは、女性だけの仕事なのではなく、人として生きる限り、男女の仕事なのだと。
時代は変わり、この作品に登場する学校は、設立後50年近く経ってから、1990年に一般男性の生徒をも受け入れた。
そして、これまで女性しか学ばなかった家事技術を学ぶ楽しさ、便利さ、意義などを語っていく。
同時に、男性が一人でも、難なく自立生活できる価値を知るというテーマだ。
主婦学校に男性も入学できるようになって、実に30年以上経っている。日本では想像できないようなジェンダー感だろう。
「主婦学校」をせめて、「ハウスキーピング学校」としたほうがいいと思うが、あえて歴史を知るためにも、その表現を残しているのかもしれない。
料理、洗濯、掃除、裁縫、編み物、刺繍、アイロンがけ……こうした家事技術は、誰であっても、できないより、できたほうが生活しやすい。
かつて授業から逃げて、主婦業を避けるためにも、別のキャリアを築いたつもりだが、人として、当たり前のことを誰もが学んでおいたほうがいいのは確かだ。
ひとりの男性に尽くすために学ぶのではなく……。
これからの世代は、男女に関わらず、進学にかかわらず、「家事の授業」をとり入れていくのがジェンダーギャップを埋めることになるのかもしれない。
MOVIE Information
『〈主婦〉の学校』
監督・脚本・編集:ステファニア・トルス
2020 年/アイスランド/アイスランド語/ドキュメンタリー/78 分/カラー/ビスタサイズ/ステレオ/DCP
後援:アイスランド大使館
提供・配給:
kinologue http://kinologue.com/housewives/
2021年10月16日より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
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