グローバルなエンタテインメントの質を求めて~エンタテインメント界の性加害の終焉
最近、日本という国の劣化が、いろんな分野でささやかれる。
ジェンダー指数もほぼ最下位だが、よりどころの経済大国からもとっくに落ちた。
文化レベルはどうなのか?
映画は?
優秀な国民であるはずの日本人に、どんな未来が?
旧統一教会の問題が、明るみに出ても「政治の力」でなかなか解決に至らず、ジャニーズ問題も、「メディアの力」でニュースにするだけでも一苦労だ。
高齢者の域に入った私は、もう30年くらい前に、こうした事件に衝撃を受けたので、いまだになんの解決もなかったどころか、温存してきたことに、心底幻滅する。
我々世代の問題でもあるだろう。
さまざまな社会問題は、映画を分析するときにも必要な研究となる。
カルト宗教に入信した心理、性被害を感謝の気持ちで告白する複雑な心理など、こころの問題は、常に複雑で繊細なものだ。
だから、いま映画化して歴史に残すことが大切だと思う。
いずれの問題も、たまたま一部の被害者によるカルト宗教問題やグロテスクな芸能ゴシップソースなどではなく、人として、子どもの人権の問題として存在することを知るべきだ。
これまで放置されてきたのは、そんな被害者のデメリットがわかっていても、それをはるかに超える、多くの大人たちのビジネスが発生していたからだ。
夢を持つ子どもに、大きな餌をぶらさげて、性加害をするのが、認められるわけがない。 スターの事務所では、この餌が大きいだけに、被害者らしくはみえないのだろう。
何の餌も与えず、欲望だけをぶつける加害者がわかりやすい性犯罪者だからだ。
確かにエンタテインメントの道はチャンスを得るのも、技術を学ぶのも厳しいが、まるで関係のない“性加害”を我慢する必要はないと認識させるべきだ。
今回の元ジャニーズメンバー、岡本カウワン氏の告白により、現在活躍するスターたちが、われもわれもと個別被害を告白するとは決して思えないし、そこを詮索する必要もない。
ジャニー氏だけではない、芸能界の性加害という悪しき習慣を正すことにつなげることが、被害者の告白による最大の貢献となるだろう。
私は、学生のころから地方のテレビ局に出演したり、局アナ入社で報道番組出演の経験もあり、その後映画界へと転身したが、芸能界ではないものの、ちょっと近いところにはいた。
私の世代では、若いと、セクハラもあるから、逃げ技を磨くことも仕事のひとつになる。
この作戦を考えるエネルギーが、本当に無駄だと思ったものだ。
狙われると面倒だが、狙われない人はチャンスが来ない。
おかしな話である。
年齢が若干上がるとともに、出演側から制作側の裏方を兼ねることで、いっきに問題は解消されたように思う。
つまり、男性と同等の仕事や立場になる方向に向かうしかない。
しかし、それは個人的な対処方法で、社会的にはなんの解決にもならない。
私の当時の疑問は、何もスターになりたいわけでもないのに、なんで、セクハラ?
セクハラという言葉はなかったが、そういう立場ある男性の言動や行為を見て、そんな要求ができるほどの仕事かなあ、としれっと考えたことを思い出す。
逆に、スター歌手や俳優になりたいならともかく、という前提を、どこかでありえることと容認していたのかもしれない。それも間違った認識だったが、男社会にいると、だんだん、麻痺してくるのも確かだ。
芸能界は特殊な世界かもしれないが、残念ながら普通の社会でも珍しくないことが最近のニュースなどでもわかってきた。
それは、強い立場である学校の教師が生徒に対して行なう行為であり、最近も吹奏楽のカリスマ指導者がセクハラ、というニュースもあった。
最悪は親との関係でも起こりうる。
被害者はみな、我慢を強いられているため、多くはニュースにまで至らないのだろう。
いったい、大人は個人の欲望により、どれほど子どもたちを傷つけてきたのか?
ただ、学びたいだけの子どもたちに、よけいな気遣いや傷まで負わせないようにできないのだろうか?
こんな性加害者たちがいることで、さらに、多くのそうでないジェントルマンに、よけいな警戒心を抱かせてしまうのもマイナスだろう。
さて、ジャニー氏による性加害は、子どもの人権被害の問題以外に、エンタテインメント業界の質の問題にもかかわる。
被害を告白した岡本カウワン氏は、グローバルを目指して世界的にも通用する存在になりたいと訴えたが受け入れられなかったという。
なぜ、芸能事務所は、世界を目指さないのだろうか?
ジャニーズにかかわらず、日本の芸能界の課題である。
そういえば、一時期、日本映画で若いジャニーズタレントが主演で必ず一人入り、違和感のあるキャスティングに閉口した時期がある。
カウワン氏によると、ほかの俳優たちと違って、ジャニーズ枠はオーディションがないという裏話をしていた。それは、権力の為せる技で、リスペクトの意味が違うだろう。
メンバーの中に、アイドルスターだけでなく、良い俳優として認められるべき人ももちろんいると思うが、まだ未熟なうちから、芸能事務所の独断で、映画のメインキャスティングを決めるのは、いい作品が生まれにくい。
そんな土壌を作ってきたマイナス部分も指摘しておきたい。
これからの子どもや若者たちが、大人を信用し、安心して努力できる社会にしなければ、 未来はない。
性加害を止めるために、何ができるのか?
エンタテインメント業界で権力ある者が、個人の欲望のために、対象者を傷つけながら文化を低めてきた罪は大きい。
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
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木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
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