エンタメの遺産を目指して
このところ、日本では過去の負の遺産が日々取りざたされ、エンタメ業界はまさに変わらざるを得ない時が来ているようだ。
一般企業の感覚がより国際的なのか、アイドル事務所の悪魔の所業が人権問題に発展したことで、メディアよりも先に、スポンサーたちがNOをつきつけた。
スポンサー企業は、こんなとき、ほかのタレントに鞍替えして新しいCMなどを製作しているが、ただ凡庸な企画に顔が変わるだけでは芸がない。
私も広告業界のCM審議員を長くつとめていることから言わせてもらうと、製作者側がエンタメ・センスがないことも多く、この際、有名タレントでなくてもよくなった時代に、もうちょっと音楽性や芸術性などに磨きがかかった内容になっていってもいいんじゃないかと期待する。
CMは商品がメインだからと出演者が、楽器を持つポーズが妙だったり、音楽性が浅かったり、演出が未熟だったりしては、もったいない。
CMはそもそも、スポンサー側にキャスティングのお伺いを立てたディレクターやスタッフらが、大勢で打ち合わせし、最後に有名タレントを呼んで完成させる。その、みんなで考える会議方式がなのではないか?
せっかく俳優やアーティストが出演しても、その魅力が生かされておらず、あくまで商品が主体だからとわりきってお仕事しているだけの姿が写し出されているから作品がつまらない。
ウエス・アンダーソンのような色彩の魔術を見せる監督の世界観に商品を入れ込むとか、はっとするような映像作品が作れないものか。
面白くもない脚本に出演者らがだまって従う製作の裏側が私には見えて、ちょっと辛い。
出演者は、CMという露出度とギャラの多いお仕事に敬意を表している、いや企業やスタッフに忖度しているから、あえて首をかしげながらも、だまっているのだろう。
企業側は、タレントの知名度を使って、お互いにWINWINの関係を作っているつもりだが、残念ながら、出演者がギャラ以上の楽しみ方で参加しているノリは、ほとんどかんじられない。
企業や演出サイドで先に企画内容を決めてしまうから、実にちぐはぐなのだ。
企業の担当者が、エンタメにより理解があり、だからこそ口は出さず、笑いや音楽性など、アーティスト側に任せる姿勢があったらよいのにといつも思っている。
有名人頼みのCM作りも、J問題を機に考え直してはどうか。
ちなみに、出演者の魅力を引き出して、エンタメ力(りょく)も十分なのは、「そこに愛はあるんか~?」シリーズの大地真央が私のベストワン。
企業イメージをはるかに上回るインパクトがあるのは確かだろう。
昨今は、やたら‘’昭和の負の遺産‘’などと言われることが多いが、昭和には良い遺産が多くあり、人は器が大きく、魅力的な人物も多かったのは事実だ。
日本の歴史に残る映画監督、五社英雄監督や山下耕作監督作品のメイキング番組を製作できたことは私の誇りだし、そのころの野村芳太郎監督や大島渚監督、山田洋二監督などとも取材を超えて接する楽しみがあった。人間的に面白く、器が大きいし、楽しくて仕方ない映画人たちだった。
いつからか、日本映画に、アイドル押し込みキャスティングやエンディングのレコード会社タイアップの曲入れなど、作品の魅力をいっきに下げるようなエンタメ界のビジネス作戦がはいってきたことから、面白みがなくなっていた。
映画プロデューサーの奥山和由氏や、脚本家の倉本聰氏もかつて、キャスティングにJ事務所からの圧力で迷惑をこうむったことを打ち明けているが、映画界さえ、そうした悪影響がほかにも多くあったことは想像に難しくない。
Jにつづく巷のお子様ショー化、振付大会ではなく、
アーティストの緊迫したいきざま感が伝わるショーを見たいのではないか。
それは、海外の音楽ドキュメントにあるショーのことだ。
「リバイバル69~伝説のロックフェス~」は、カナダ、トロントで行われた音楽フェスを描くドキュメント。
ジョン・レノンがオノ・ヨーコと出演したことで、ビートルズ解散に至ったきっかけとなるようすが生々しく記録に残され、歴史に残る映画と言えるだろう。
ちなみに私が最も好きなのは、チャック・ベリー。その音もいでたちもエンタメの極致。
始めて共演したバックバンドの興奮や客の熱狂が熱く、いつまでも余韻にひたれる音楽映画の傑作。
日本も後の世代に残せるエンタメを目指してほしい。
MOVIE Information
『リバイバル69~伝説のロックフェス~』
10/6(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町ほか全国公開
[監督]ロン・チャップマン
[出演]ロビー・クリーガー/ジョン・レノン/オノ・ヨーコ/ゲディ・リー/シェップ・ゴードン/クラウス・フォアマン/ダニー・セラフィン/チャック・ベリー
[原題]Revival69: The Concert That Rocked the World/97分/カナダ・フランス合作
[配給]STAR CHANNEL MOVIES
[公式HP]https://revival69-movie.com/
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
N A H O K Information
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
問合せ&詳細はNAHOK公式サイトへ
PRODUCTS
[新製品]
H管 フルート AMS
H管フルート「Amadeus」シリーズは、NAHOKで最も歴史のある初期シリーズで、AMSと略して呼んでいます。
同じ型でも、サイズ感や止水ファスナーへのバージョンアップなど、なんども改良して、落ち着きました。
これさえあれば、とりあえず楽器が安心の基本ケースです。
この型は、フルート縦持ちですが、ブリーフケース内にも入れやすいです。
なお、ハードケースがH管「Amadeus/wf」に収納できない、さらに大きいサイズの場合は、アルトフルートC管「Krysar/wf」が使用できます。
また、ハードケースを横置きのまま持ちたい方、ピッコロも合わせて入れたい方は、下記の「Grand Master3/wf」(C&H管共用)をご使用ください。
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