アーティストの功績とは?
今年も、2024年第77回、フランス、カンヌ映画祭授賞式が華々しく開かれた。
パルム・ドールを受賞したのは、NYを舞台に、ロシア人富豪と結婚し親族の猛反対を受ける売春婦の話「Anora」である。
話題は、「落下の解剖学」「パラサイト」など世界の映画祭受賞続きの作品を次々と抑えた新鋭の配給会社であること。大作ではなく、上質なインディペンデント映画を発見し、ヒットさせ続けているようだ。物語性、シナリオ評価ありきで看板俳優に頼らず、引き込む力を持っている作品となると、配給側の眼力が問われる。
どのような形でも、映画をビジネスとして扱う会社が繁栄することは意味がある。
配給会社のほかに、組織としての評価は、日本のスタジオジブリに、“名誉パルムドール”という新たな賞が与えられた。ジブリ作品全般への敬意にほかならない。
昨今、ルーブル美術館では、芸術のジャンルとして、第一が建築、第二彫刻、第三絵画、第四音楽、第五文学、第六演劇、第七映画、第八メディア芸術(テクノロジーを利用するなどした新しいアート)、そして第九が漫画とされているようだ。
やはり、日本に対する評価は、この第九芸術の評価が大きい。
宮崎駿作品は、いつもアニメ、漫画というジャンルを超えて、別格だ。
もうひとつ、同じく“名誉パルム・ドール”が与えられたのは、ハリウッドスターアクターのメリル・ストリープ(74歳)。これは、どういうことか?
フランスの名女優ジュリエット・ビノシュは、受賞の盾を渡しながら、メリルを「映画界の女性に対する見方を変えた」と感慨深く讃えた。若く美しいときだけでなく、高齢に向かうとともに、より尊敬されていく、いわば、ガラスの天井を破った女性としての評価があったのだろう。
フランスでも、まだまだMee too運動はメディア界隈で終わらず、女性の社会的地位を支えるための運動があり、メリルはその意味でも、世界的に代表的なシンボルになっている。
そういえば、メリルはかつて、ギャラの男女平等を訴えて、あの繊細なインテリ芸をも振り捨てて、アクションやるぞう~、と肉体派に挑戦したこともあった。さまざまな作品を乗り越えて今がある。メリルの後年、インテリ臭が、どの作品にも出てしまうからか、ミュージカル系作品のメリルは唯一、不向きなジャンルかもしれないと私はこっそり思うが、ご本人は音楽、ダンス好きらしく、それなりに熱い思いは伝わっている。
後を追うのは、カンヌに同じく出席したインテリ、個性派のケイト・ブランシェットだが、彼女も抗議の意味で、パレスチナの国旗を思わせるドレスカラーで話題となった。
ケイトは、世界中のどの戦争に対しても停戦を求めるという趣旨のメッセージを表している。
今年のカンヌでは、活動家や政治的な動きを強くけん制する指示が主催者側からあったというが、コンプライアンスのためなら仕方ないが、映画人たちのメッセージ性は全体的に抑えられた形になるのは、面白いことではない。
俳優たち、映画人たちが自ら発している表現を主催者が取り締まるような方向に向かうのは、ちょっと違うのではないか。
あくまで映画のお祭りだから、という考え方では、村祭りじゃあるまいし、と言いたくなる。
映画は、社会的メッセージ性のあるものは少なくなく、それを演じる俳優たちにも、個人的な意見を表明する権利はあると思う。
最後に、こんな時代に自腹で(私財!)メガ大作を放ったフランシス・F・コッポラの「メガロポリス」がカンヌ映画祭で賛否両論となった。
まだ未見のため、作品評は書けないが、観るのが怖い。
ほとんどの人がコッポラ監督を尊敬しすぎているため、評価が「否」の場合、ファンとしてどこかに良さを見出そうとしたり、言い訳を考えたり、眠れなくなるかもしれないからだ。
数々の名作を放ったスピルバーグ監督が、後年「ウエスト・サイド・ストーリー」(2021年)や「フェイブルマンズ」(2022年)で、もやもや感に悩まされたときと同じように……。
ただアーティストは、後年どんな形に変化しても、功績は消えない。
それだけは確かだ。
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
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木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
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