フルート記事 close up| ヤン・デ・ヴィンネ 奏者の意思が音楽をつくる
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THE FLUTE 164号

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ARTIST

トラヴェルソ奏者であり、パリ国立高等音楽院やブリュッセル王立音楽院の教授を務める傍ら、楽器製作も手がけるヤン・デ・ヴィンネ氏。このほど、古楽アンサンブル「イル・ガルデリーノ」の日本公演や、香川県高松市で行なわれる「たかまつ国際古楽祭」出演のため来日した。トラヴェルソにまつわるあれこれ、そして弟子であり盟友でもある日本人奏者・柴田俊幸さんとの交流などについてお話を聞いた。

トラヴェルソ奏者であり、パリ国立高等音楽院やブリュッセル王立音楽院の教授を務める傍ら、楽器製作も手がけるヤン・デ・ヴィンネ氏。このほど、古楽アンサンブル「イル・ガルデリーノ」の日本公演や、香川県高松市で行なわれる「たかまつ国際古楽祭」出演のため来日した。トラヴェルソにまつわるあれこれ、そして弟子であり盟友でもある日本人奏者・柴田俊幸さんとの交流などについてお話を聞いた。 (通訳: 佐治みのり(オーボエ・バロックオーボエ奏者)取材協力:管楽器専門店ダク )

古楽に誘われ、トラヴェルソと出会う

ヤン・デ・ヴィンネ 一つひとつが異なるカラーをもつ自作楽器
ヤン・デ・ヴィンネ一つひとつが異なるカラーをもつ自作楽器
――
どんなふうに古楽に興味を持ち、トラヴェルソと出会ったのですか?
ヴィンネ
(以下W)
私はもともとベルギーのブルージュで育ちました。ブルージュは古楽がとても盛んなところで、古楽器によるコンサートがよく行なわれ、日常的に古楽に触れることのできる環境でした。そういう音楽に囲まれた中で育ちましたが、16歳の時に家の近くの教会でコンサートがあり、そこで演奏していたフルーティストが、ステインズビー(註: 17~18世紀のロンドンの木管楽器製作家、トーマス・ステインズビー)が作ったトラヴェルソを見せてくれたんです。「ああ、こんなに素晴らしい楽器があるんだ!」と思いました。古楽に興味を持った最初のきっかけがそれでした。
その後モダンフルートや音楽学なども勉強して、22歳の時に、バルトルト・クイケンのもとで本格的にトラヴェルソを学び始めました。クイケンは、モダンフルートをやらずにトラヴェルソだけを勉強するということを許さなかったので、モダンフルートの勉強を終わってからトラヴェルソへ、ということで同時進行はしませんでした。
 
――
クイケン氏のレッスンは、どんな感じでしたか?
W
彼はとても要求が高くて、10回演奏したら10回とも前回よりも良くなっていないといけない、という感じでした。自分にも厳しい人でしたが、それだけに、生徒も常に最高レベルを求められました。そんなふうでしたので、とても勉強になりました。それ以降の私のトラヴェルソ人生にも、そのとき受けた教えが影響しています。
――
演奏するだけでなく楽器を製作するようになったのは、どんなきっかけからだったのでしょう?
W
もともと、モダンフルートを吹いていた頃から、楽器製作やリペアに興味がありました。トラヴェルソを始めた当時、いま一緒に「イル・ガルデリーノ」で活動しているオーボエ奏者のマルセル・ポンセールが、既に楽器を作っていました。最初に彼のもとを訪ね、作り方を教えてもらいました。
 演奏をすることにももちろん情熱とエネルギーを注ぎますが、それはその場限りで終わってしまう。しかし楽器は時間をかけて作ったら、ひとつの作品としてずっと残ります。つまり楽器づくりは、演奏とは逆の位置にあるのです。その2つを両方ともやることで、私の中ではバランスがとれていると思っています。
――
楽器を作るなんて、奏者にとってはとてつもなく大変なことのように思えますが、最初から自信はあったのですか?
W
マルセル・ポンセールという先達がそばにいたので、最初から当然のように「できる」と思っていましたね。ですが、最初は作りやすいルネッサンス・フルートから始めました。
 私は演奏家なので、たとえばイントネーションや、どんな音を鳴らしたいのかというイメージを明確に持つことができました。それがうまく作用したということも大きいでしょうね。
 オリジナルの楽器を作ってリリースすることは大きな喜びですが、音楽は“楽器ありき”ではありません。演奏者によって吹き方やスタイルがそれぞれ違う。演奏者がいて楽器があるのですから、演奏者がどんな演奏をするのか、それを見て聴きながら合わせていくのが本来の製作者の仕事です。

※雑誌の一部を掲載しています。全文は本誌164号にてお楽しみください。

プロフィール
Jan de Winne
ベルギーのブルージュ出身、トラヴェルソ奏者。パリ国立高等音楽院、ブリュッセル王立音楽院(フランス語圏)のフラウト・トラヴェルソ科、室内楽科それぞれの教授であり、ブリュッセル王立音楽院(オランダ語圏)の古楽科の学部長も務める。1987年ブルージュ古楽コンクールで入選。これまでにアムステルダム・バロックオーケストラ、イル・フォンダメント、コレジウム・ヴォカーレ、ザルツブルグ・バロックオーケストラなどに参加。マルセル・ポンセールとともにイル・ガルデリーノを設立し、トラヴェルソ奏者として活躍する。


ヤン・デ・ヴィンネ
ヤン・デ・ヴィンネ

CD Information
「J.S.Bach: Concertos with Flute」
(ACC24341)
【演奏】ヤン・デ・ヴィンネ(フラウト・トラヴェルソ) 、 イル・ガルデリーノ
【曲目】管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV 1067、ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調 BWV 1050、三重協奏曲 イ短調 BWV 1044
【録音】2017年



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