特集 "いまから""いまだから"…吹奏楽コンクール
吹奏楽コンクール直前の“いまだから”やっておきたい練習や、心がけておきたいこと……そんなコンクール前の対策について、吹奏楽指導の経験豊かなプロ奏者がレクチャーします。 THE FLUTE 164号特集の内容をダイジェストで紹介します。
THE FLUTE 164号特集では、吹奏楽コンクール直前の“いまだから”やっておきたい練習や、心がけておきたいこと……そんなコンクール前の対策について、吹奏楽指導の経験豊かなプロ奏者がレクチャーしています。
ここでは、本誌の内容を少しだけ、ダイジェストで紹介します。
この記事でわかること!
「いまやること、考えること」
・基礎練習
・演奏するための下調べ
・考えながら行動する練習
「ちょっと待って!その練習」
思い当たること、いくつある?こんな点を要チェック!
・連符は気合と根性?
・fのフレーズは、全部の音を大きな音?
・自分の書き込みで楽譜がゴチャゴチャ?
あなたの音は進んでる?必要なのは観察する時間
・みんなでロングトーン?
・基礎練習はまんべんなく!
コンクールのために“いまだから”できる3つのこと
大熊克実
本番近くになると同じ曲を繰り返し練習する割合が多くなると思いますが、そうするとあまり吹かない音があったり、合わせ重視になって本来の響くポイントで吹いていないこともよくあります。これが調子を崩す原因にもなりますので、ウォームアップを含めた個人練習がとても大切になってきます。今のうちに自分がどのような練習をすると調子が良いのかデータを取り、調子が良くなる基礎練習をチョイスして自分のアップとしてルーティーンを作っておくと良いと思います。
事前にできる限りの情報を集めましょう。自分が演奏する曲のことを調べるのは楽しいものです。パートで手分けして、調べたことを仲間と共有すれば効率よく多くの情報が得られます。パートの仲間意識もアップして演奏のバックグラウンドも統一され、音楽の方向性も揃えることができます。
調べておきたいこと
ソロや速いパッセージを演奏する時に「間違えないように吹こう」など具体性に欠ける否定形のプランを考えていると、緊張の原因になります。アレクサンダー・テクニークでは演奏のパフォーマンスを上げるために、心身全体の協調作用を促し、具体的な行動プランを考えて行動します。ソロへの向かい方で具体例を示します。
大熊克実 おおくま・かつみ
日本大学芸術学部音楽学科卒業。フルート奏者、吹奏楽指揮者、アレクサンダー・テクニーク教師。フルート奏者としてミュージカルのオーケストラを中心に全国各地で年間200公演ほど演奏。今までに「エリザベート」「モーツァルト」「ダンス・オブ・ヴァンパイア」などの東宝ミュージカル、宝塚歌劇団、劇団四季で演奏。CDやDVD、テレビ収録などにも出演。指導には定評があり音大生やプロのオーケストラプレーヤーも多く送り出している。吹奏楽関係では審査員も務め、自身のウェブサイトから様々な情報を発信し好評を得ている。
「いまやること、考えること」の次は、「いまやるべきでないこと」。コンクールに向けて追い込みに入るこの時期、あなたはこんな練習をしていませんか? 吹奏楽指導の場を含めて活躍中のお二人が、練習を見直すヒントを教えてくれます。
思い当たること、いくつある?こんな点を要チェック!
久保田裕美
その連符、気合と根性で吹こうとしていませんか?
頭から吹いてつまずいたらもう一度、できるまで何度もトライ。多くの人がやってしまいがちな練習ですが、これではつまずいた所より後の部分を吹く機会を失ってしまいます!上手に吹けない連符は、「後ろから前へ」が、成功への近道です。
練習方法:後ろの2音から数字①〜⑤の順番のように1音ずつ前の音を増やして吹いてみましょう
fのフレーズだからといって、全部の音を大きな音で吹いていませんか?
拍感のない音の連なりは、非音楽的! ただ大きいだけの音は、音程や輪郭を失い、ただの騒音となって聴く人の耳を塞ぎ、他パートとの調和も難しくなってしまいます。フレーズの持つキャラクターに合う発音と音色で、拍子の流れを感じる音楽的な息を目指しましょう。fやpは、音量の指示だけではなく、力強さや豊かさ、優しさや柔らかさ、といったフレーズをより表情豊かにするための意味を持っています。聞こえることが目的なのではなく、フレーズの持つ性格を感じて伝えることで、音は存在感を持ち、方向性のある音楽となって聴く人の胸に届きます。
自分の書き込みで楽譜がゴチャゴチャ、音符のリズムや表情表記が見えにくくなっていませんか?
書き込んだことで安心してはいけません! 楽譜が発信している本来の内容を読み取れるように見通しの良い楽譜にしましょう。書き込みのない楽譜を用意して、書き込んだ内容を思い出して演奏できるか試してみましょう。
あなたの楽譜も、こんな感じになっていませんか?
久保田裕美 くぼた・ひろみ
大阪音楽大学音楽学部器楽学科卒業。フリーランス奏者としてオーケストラやアンサンブルなどで演奏活動を行うほか、スタジオミュージシャンとして、映画やCMの音楽制作にも多数参加。久保田裕美フルート教室を主宰し、個人レッスンのほか、吹奏楽部やアマチュアアンサンブルを指導。近年は吹奏楽コンクールの審査員も務めている。
オフィシャルサイト
www.hiromi-kubota.com
あなたの音は“進んで”る?必要なのは観察する時間
日野真奈美
×いつもみんなでロングトーン
→○ひとりずつソノリテを!
“吹奏楽部あるある”で危険だなぁと思うのが、「練習時間のほとんどを他の人と一緒に吹いている」ということです。吹奏楽全体で「もっと吹いて!」という注意を受け、もっと吹き込んでみた。
合奏が終わったらあれ?音がバサバサ……なんて経験のあるフルート吹きさんは多いのではないでしょうか?
自分の音が聞き取れず、オーバーブロウ気味に吹いてしまったということです。
音を磨くためには、自分ひとりの音をよく聴いて、観察する時間が必要です。そこでオススメしたいのが、有名な「ソノリテ」です(マルセル・モイーズ著「ソノリテについて」/P. 13でも紹介しています)。
ソノリテとは、フルートが楽に美しく響かせられる中音のH(シ)の音から半音ずつ下降していくロングトーンです。音色・音質を揃えながら、1回目に気づいたことを修正して2回目を繰り返すという、耳にとっても良いトレーニングですね。パート練習で、一人ずつソノリテやロングトーンをリレーするのもオススメです。
応用編として、トレヴァー・ワイの教則本「フルート教本1」に載っている、Hの音から降下していく練習法もぜひやってみてください。
良い音というのは、ひとつではありません。透き通るようなきれいな音、元気なハリのある音、温かい太い音、凛とした艷のある音……。いろんな音のパレットがもてるように、「今日は課題曲のこの部分で使いたい、温かい音色で吹いてみよう」など、音色のテーマを決めて練習するのも良いですね。
トレヴァー・ワイ著 フルート教本 第1巻—音
基礎練習はまんべんなく!
レッスンで「基礎練習は毎日してる?」と聞くと、「昨日はロングトーン、今日はタンギングを練習しました」なんて答えが返ってくることがありますが、これはNG!
楽器を吹くということはとても繊細なことなので、タンギング練習を数日空けてしまうと舌の筋力が落ちたりと、悲しいことに体がどんどん忘れていってしまいます。
そこで私は、基礎練習を①音作り②タンギング③フィンガリング(指)に分けて、この3つを毎日欠かさずトレーニングすることをオススメします。
例えば「今日は時間があるからロングトーン、タンギング、音階をそれぞれ30分ずつやろう!」とか、「今日は時間がないからロングトーンを10分、音階をダブルタンギングでやろう!」など、時間をうまくやりくりして練習していきましょう。
日野真奈美 ひの・まなみ
国立音楽大学卒業。同大学大学院修士課程修了。第8回ウラジオストク国際音楽コンクール第1位。トリオカルディア、木管五重奏カラフルメンバー。演奏活動の他、東京を中心に吹奏楽コンクールの指導、審査員も務める。吹奏楽部員のためのスケールクリアファイル(ロケットミュージック)監修。ユニバーサルミュージックより『Trip!』(木管五重奏カラフル)発売中。ラジオ沖縄、北日本放送「米良美一のメラメラらじお」パーソナリティ。
オフィシャルサイト
https://www.hinomanami.com
大熊克実、久保田裕美、日野真奈美